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金融は、今日の消費と 将来の消費の 交換について考える学問【経済学研究科・講師・佐井りさ】

消費の「交換」で金融システムが動き出す

─一般的な話として、「金融」とはどんなものですか。

金融(ファイナンス)とは「お金が余っているところから、不足しているところへ資金を融通すること」。新事業を始めたい企業、お金を必要とする個人へ、あるいは公共投資を考えている政府や地方自治体などへ、お金があるところ(企業や投資家)からその資金を動かす仕組みを含めて「金融」と言います。実はとっても身近なもの。私たち個人は銀行に預金しますね。このとき、私たちは既に金融システムの中にいるのです。銀行はそのお金を企業などに融資していますから。

─資産を増やしたいから預金するのですね。

今日使いたいお金を我慢して、将来有効に使う。このとき「今日の消費」という行為を、「将来の消費」と交換しているといえますね。「今日の私(資金の貸し手)の消費」を「今日のあなた(資金の借り手)の消費」と交換するともいえます。この「我慢」から利子や配当を得られるのです。

資金調達・運用に欠かせぬ研究分野

─ファイナンスの研究テーマには、どんな方向がありますか。

株式、債券やデリバティブといった金融資産の適正な価値付けに関する理論などを扱う「アセット・プライシング」、企業の財務行動に関する「コーポレート・ファイナンス」、資産を株や債券、現金などで保有する場合、何をどのくらいの割合で持つのがいいかを理論的に考える「アセット・アロケーション」などがあります。この他、企業会計やマクロ金融政策、金融システムの構築を研究する分野もあります。

─佐井先生はどういう研究を?

博士課程の時代にはアセット・アロケーションの領域で、個人の資産配分のモデルをつくって、資産運用の最適化を考えていました。株式市場の期待リターン、住宅購入や定年退職などのライフステージの変化、個人収入の期待成長率、失業のリスクなどを変数として、標準モデルを作るのが研究の目的でした。まさに「人生ゲーム」に参加しているみたいで楽しかったですね。その後、興味の中心が個人から企業に移り、コーポレート・ファイナンス について研究するようになりました。

挑戦しがいのある未開拓領域

─企業の資金調達についての研究は、どれほど進んでいますか。

実はまだまだ未開の状態です。これだけ企業活動が活発なのに、その資金調達については要因が多くて複雑で理論も確立されていませんなのでいまだに多くの企業が経験則で動いています「資金調達の手段が株式社債や銀行借入あるいは内部留保の活用のどれであっても企業価値に影響しない」というMM(モジリアニ=ミラー)の定理が基本になりますが、簡素化するためにさまざまな前提条件が必要ですしかし現実には法人税倒産にかかるコストなど省くことができないいろいろな問題がありますそこで最初の前提条件を一つずつ外しながら、企業の財務行動に与える影響を再測定する作業が必要になります。

例えば、法人税が存在する場合、金利返済分は収入から控除されるので、企業としては、借入する方が法人税を少なくすることができ、得になる。これを節税効果といいます。しかし借金には返済義務があり、借金しすぎると倒産リスクが上がります。一方、株式での資金調達は、節税効果はないけれど倒産リスクは生じない。こういった条件を加味して、効用の最大化、企業でいえば、どのような手段で資金調達をするときに企業価値の最大化が実現できるかを追究していきます。

モデル研究とはベンチマークをつくること

リスクとの兼ね合いが大事なのですね。

金融における理論研究では、リスクの所在や儲けの源泉を明確にすることでさまざまな個人、企業が「ベンチマーク」として活用できるような理論モデルを構築することが理想です。

─現在の興味は何ですか。

「プロダクションベースのアセット・プライシング」です。株価など金融資産の価値について、今までは投資家の「消費の交換」に対する姿勢やリスク回避の度合いといった、資産の「買い手」側の行動だけから理論がつくられてきました。一方、資産の価値は資産の「売り手」側、すなわち企業側の行動も反映されるべきだ、というのが、この研究の中心テーマです。企業を取りまく環境、すなわち成長性、景気展望、政治変動のリスクといったさまざまな不確実性がある中で、企業がとる最適な行動の結果として株価が決まるはずだと考える試みです。

株は企業を長期的に支援するもの

─一般の人に伝えたいことは何ですか。

ファイナンスというと、「短期で株を売買するマネーゲーム」を連想する人もいます。しかし、金融商品は本来それぞれに社会を豊かにする役割を持って誕生しているのです。例えば、株式は本来、「この企業を長期的に育てて行こう」と応援・支援するためのもので、デリバティブは本来、リスクをマネジメントするための手段として開発されたものなのです。そのような金融商品の本来の役割を理解し、正しく使うことが社会を豊かにし、企業や個人の効用最大化につながるのです。

これから経済学部に進学する中高生たちにお伝えしたいことは、経済学はすごくオープンマインド。外向きで国境がなく、世界共通の学問なので、是非それを学び、楽しんでほしいです。

 

大坂・堂島は世界初の先物取引市場

金融と言えば欧米発祥のものが多いのが特徴で、株式会社はオランダの東インド会社が端緒。またオプション取引は古代ギリシャの哲学者タレスが構想化していました。ところがデリバティブの代表格でもある先物取引は、「大坂」がルーツ。

現在の大阪・淀屋橋のあたりに、江戸時代には堂島米会所という米の取引所がありました。ここでは、米を収穫前に取引する「青田買い」が盛んに行われていました。これは、世界で最初の先物取引市場です。当時の大坂には先物取引専門の投資家もいて、投資哲学に関する本も残っています。

天候に影響されやすい米価格を前もって「予約できることは米商人にとってとても有り難いことでした。なぜなら、悪天候で米価格が高騰したりしないかとか、豊作で下落しないかとか、そんな心配をしなくて済むようになったからです。日本人の叡智を垣間見ることができますね。

(本記事の内容は、2013年9月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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