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アンドロイドと ひとの心がすりかわる 瞬間【基礎工学研究科・教授・石黒浩】

「人間とは何かを知るために」

石黒浩教授は、自身や実在する成人女性などをモデルにした遠隔操作型のアンドロイド「ジェミノイド」の研究開発や社会実験で、世界にその名を知られている。ロボットを研究開発する目的を「人間とは何かを知ること」だと断言。「私は、人間とは何かを追い求めることにこそ、人間としての存在価値があると思っています。そしてロボットは人間を映し出す鏡のようなもの。人と関わるロボットの研究開発は、人間理解に重要な意味を持っています」と研究の基本姿勢を語る。

自身をモデルに対話者の反応を実験

当初は、幼い少女や女性アナウンサーをモデルにしたアンドロイドを開発。続いて石黒教授自身をモデルに、インターネットを通じて遠隔操作できるアンドロイド「ジェミノイドHI|1」を開発して、世界を驚かせた。「この世に自分にそっくりなアンドロイドが存在すると、どのように感じるのか。その感覚を体験することは、次の新しい研究を生み出す直感になると思いました。また自分がモデルなら、生身の自分と比較してアンドロイドの完成度を確認する実験がいつでも自由に行えます。それに、私のアンドロイドを現地に送って遠隔操作すれば、実際に長距離を移動しなくても、私がその場所に存在して講演や実験ができますから

その「ジェミノイドHI|1」による様々な実験で明らかになったのは、「操作しているジェミノイドが自分自身の体のように思われる」ということだった。例えば、ジェミノイドを通して会話している人が急にジェミノイドに触れると、遠隔操作している本人が実際に触れられたような触覚まで感じ、声を上げることもあるという。

「これは、将来、脊髄損傷などの患者さんが自分のジェミノイドを脳波で操作した場合、そのジェミノイドを自分の体のように認識できるという可能性でもあります。またジェミノイドと会話している人も、しばらくするとジェミノイドに生身の人間性を感じることもわかりました」

手ごろな価格で将来所有できる

その石黒教授の「ジェミノイドHI|1」に続いて、実存する美しい成人女性のアンドロイド「ジェミノイドF」を開発。「私のアンドロイドは、人間らしい動きを表現するためのシステムが大がかりで、持ち運びが大変でした。遠隔操作型アンドロイドを海外に広く普及させるためには、ポータブルなアンドロイドが必要でした」。モデルになったのは、世界で通用する姿形を持つロシア人と日本人のクォーターの女性。「成人男性のアンドロイドは、子どもが怖がるケースが多い。万人に対して抵抗なく関われるのは女性なんです」

このような個々人に酷似した遠隔操作型アンドロイドが、アメリカ映画「サロゲート(2009年製作)」のように、人間の分身として社会生活の多くを代行するような未来はやって来るのだろうか。「現代社会で人が自動車を保有しているくらいの比率で、アンドロイドが普及してほしいと思っています。量産すれば、アンドロイドも軽自動車くらいの価格で購入できるようになるはずです」

携帯電話に続くコミュニケーション

 モデル本人と最大限一致させることを目的とした遠隔操作型アンドロイドに続いて開発したのが、人間と認識できる最低限の姿形や機能を備えたミニマルデザインロボット「テレノイド」だ。これも、インターネットを通じた遠隔操作で会話ができる。「人間の認識には五感のうち少なくとも二つのモダリティが必要で、例えば『声(聴覚)』と『触感』が重なった時に人の存在を感じます。このテレノイドも声と抱き心地によって、会話している人の存在を腕の中に感じられます」。携帯電話に続く新しいコミュニケーションメディアとしてのテレノイドは、福祉国家デンマークの国家プロジェクトにも採択され、今年4月から高齢者介護などの現場で社会実験が実施されているという。

アンドロイド演劇が海外でも評価

さらに石黒教授は、劇作家で、コミュニケーションデザイン・センターの平田オリザ教授と共に、ロボット演劇のプロジェクトにも挑戦している。「働く私」や「さようなら」などの演目に続いて、2013年にはチェーホフの三人姉妹を翻案した「アンドロイド版 三人姉妹」の公演を実施した。「人間の基本的な動きの機能さえ実装すれば、ロボットが人間らしくなるわけではありません。アンドロイド演劇で、例えば人が頷くタイミングによる相手の印象などを検証し、オリザさんの精密な演出で表現されたロボットの動きなどを数値化して、工学的に反映させています」。これらのロボット演劇は海外でも高く評価され、フランスの国際的な演劇の祭典「ノルマンディ演劇祭」にも来年度に招待されているという。

石黒教授にとって、ロボット研究の最終目標が人間に対する理解である以上、明確なゴールはあり得ない。「むしろゴールはどんどん遠のきます。ボンヤリと見えてはいますが、見えるほどに遠いことがわかる。ロボット学の面白さは尽きないです」

 

HUGVIE:アンドロイド研究から生まれたぬいぐるみ風メディア

ATR石黒浩特別研究室から登場した新しいコミュニケーションメディア「ハグビー」。アンドロイドではなく、人型のぬいぐるみといった趣。頭の部分にスマートフォンを装着して抱きしめながら会話すると、話している相手を腕に抱いているような温かな、不思議な気持ちになるという。阪大医学部における実証実験で、緊張を示す血中のホルモンが減少することを確認中である。単身で暮らす高齢者が遠くに住む子どもや孫と電話で話す時、あるいは親密な人間同士の会話に使用するなどの可能性が考えられ、すでに市販もされている。

(本記事の内容は、2013年9月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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