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からだの中をMRIで透かす【免疫学フロンティア研究センター(IFReC)脳情報通信融合研究センター(CiNet)・特任教授・吉岡芳親】

からだを傷つけず健康に害なく

─MRIの最大の特徴は何ですか?

生体組織を傷つけることなく、からだの深部からさまざまな情報を取り出すことができる点ですね。代謝物質の化学的情報を波形として可視化することも、血管の細部まで鮮明に見える画像も作成できます。

IFReCでは動物用の11・7T(テスラ:磁場の強さを表す単位)、CiNetではヒト用3.0Tと7.0T(注参照)のほか、動物用の11・7TのMRIで、さまざまな生体内部の可視化に取り組んでいます。磁場が強くなれば感度が上がるので、時間をかけずに鮮明な画像を得ることができます。

  

CTPETに比べて安心

─他の生体イメージング法(CT、PET)との違いは?

CT(コンピュータ断層撮影法)は、被写体に多方向からX線を照射し、その吸収の度合いを画像化します。X線は原子から電子を飛ばし出すエネルギーをもっているので、計測時は被曝線量に注意が必要です。組織の細かい様子がわかりづらいという弱点もありますが、高速撮像が可能で、固くて水分の少ない組織には有効です。PET(ポジトロン断層法)は、放射性同位元素を体内に取りこませた状態で撮影します。体内で原子核が崩壊しそれに付随してガンマ線が放出され、その放出位置の情報から画像を作ります。ガンマ線はX線よりも更にエネルギーが大きく、体内被曝は避けられません。しかし、ガンなどの特定部位に集積する薬剤がありますし、物質代謝や血流に関する情報が得られるという長所もあります。

─MRIで画像をつくる仕組みを教えてください。

磁場のなかで、原子核が特定の周波数の電波のみを吸収す「核磁気共鳴」現象を利用しています。MRIが利用するラジオ波の領域にある電波のエネルギーは弱く、原子や分子を壊したりしません。私自身は、年間50回ぐらい自分の体で基礎データをとっていたこともありますよ(笑)。CTやPETは、濃度に依存した濃淡画像になりますが、MRIでは濃度はもちろん、固さ・水っぽさ・流れ・拡散・温度・pHなどの多彩な情報までも得られます。

多方面の研究に応用

─幅広く利用されているのですか。

神経活動を脳の血流血液量や酸素化の程度の変化から読み取る「fMRI(機能的磁気共鳴画像法)が普及してから、手足を動かしたり考えたりした時に、脳のどの部位が活動しているか高い精度でわかるようになりました今では神経科学情報科学心理学から経済学まで、多方面の研究に応用されています。

─計測のむずかしさはありますか。

MRIには生体内の多様な情報が盛り込まれます。「情報をどう絞るか」がとても難しいですね。同じ対象でも、撮り方や、時間のかけ方で得られる結果は違うので、自分が見たいものを見るため条件をどう合わせるかは、ある意味職人技です。

─研究の関心をどこに置かれていますか。

ハード・ソフトの改良で、見えなかったものをいかにして可視化し、画像を作るかに興味があります。私はIFReCで免疫現象のダイナミズムを免疫細胞1個レベルや分子1個レベルでイメージングすることに取り組んでいますが、免疫と神経の相互作用にも興味を持っています。たとえばいくつかの精神神経疾患は、免疫系の異常が関与しているともいわれています。これらを画像化したいですね。炎症や組織活動で重要と思われる深部の温度計測にも挑戦しています。脳の温度もある程度評価できるようになりました。人の学習時や運動時、脳の温度はどの程度が良いのか。脳は神経系や内分泌系の中枢で、その温度は重要な因子だと思いますが、いまだ未知の領域なのです。

 

免疫学を別な視点から見る

─先生は医学部のご出身ではないそうですね。

私は、大阪大学大学院理学研究科の物理化学出身です。MRIの基礎現象は物理化学の特性です例えば血管の静脈、動脈個別に焦点を当てて画像化できるのですがそれは血液の磁性、原子核スピンの緩和時間という物理的・化学的特性を活用できるためです。最近、ヒト軟骨のMRIの詳細な医学的評価が進んでいますこれは30年以上前に固体物性を調べるために用いられ始めたパラメーターが再注目されたために実現された評価です。臨床応用されるまでに長く時間がかかる基礎学問もあります。大事にしたいですね。

─物理化学の研究者ならではの視点をお話しください。

原子、電子、分子、集合体の特性などを動的に捉えて考えるところでしょうか。在籍した物理化学の研究室では「分子の気持ちになってみろ(仁田勇先生からの伝統らしいです)」という言葉もありました。既存の考えにとらわれないで、現象そのものを率直に眺め、まさに相手の気持ちになって理解していくことだと思っています。これは共鳴であり、磁気共鳴で透かして情報を取り出すのと通じます。

現在、マウスの免疫細胞を追跡し、炎症反応の可視化も研究しています。私が興味をもったのは、精密な画像で観察すると、特別に炎症が無いマウスの脳にも、少数ながら標識した免疫細胞が侵入してくるのが見えます。そしてある期間後にいなくなります。免疫系と脳とは強力なバリアで切り離されていると考えるのが一般的ですが、少ないながらバリアを越えて侵入してくる以上、それら免疫細胞にも何らかの役割があるはずです。高性能化した非侵襲の画像化装置でからだの中をのぞき、先入観無くながめてみたいと思います。

(本記事の内容は、2013年6月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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