StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

「AI・ロボットを作りたい」と基礎工学部へ

子供のころから本が好きで、小中学校ではミステリー小説を読み、高校では「2001年宇宙の旅」などSF小説をよく読んだ。次第にロボットを自分で作りたいと思うようになり、「ロボットといえば阪大」と人工知能(AI)やネットワークの研究ができる大阪大学基礎工学部情報科学科に進学した。

技術者として幅を広げるため 高等司法研究科に

元々法律には全く興味はなかった。転機は3年生のころ。起業した知人が国際商取引の紛争に巻き込まれ、また社会では青色発光ダイオード(LED)の発明対価を巡る訴訟が起きた。これをきっかけに、「モノ作りをする上で、法律の知識は技術と同じくらい大切」と法律に興味を持つようになった。

そして、進路に悩んでいた時、恩師のサイバーメディアセンター・中野博隆教授(退職)に相談した。「一度、外の世界を見てみるのもよい」とアドバイスされ、「興味のあった法律を学び、知識の幅を広げてから技術者になってもいいと思った。今振り返ると大きな転機でした」とロースクールへの入学を決心した。

阪大で学んだ「仕事の進め方」

ロースクール進学後は、法学系の大学院のゼミにも参加した。この経験は裁判官の仕事にも役立っていると話す。「ゼミで、課題をどう解決するか、解決法のメリット・デメリットを俯瞰しながら幅広く議論したことは、法律上の正しさだけでなく、多くの人が納得する判決を出さなければならない裁判官の仕事に活きています」と学びを振り返る。

「法律コーディネーター」としての裁判官の魅力

「もし司法試験がダメだったら、理系の大学院に入りなおして、技術者になろうと思っていた」と話すが、司法試験に無事合格し、「裁判官」「検察官」「弁護士」のいずれに就職しようか考えた。「法律コーディネーターのように、訴訟当事者の間に立って、双方にとって良い解決方法を導く役割が出来る裁判官に自然と興味が湧きました」と進路を決めた。

裁判官に任官後は、奈良地方裁判所、名古屋地方・家庭裁判所岡崎支部を歴任し、民事裁判や裁判員を含む裁判のほか、少年事件、民事保全事件などを手がけた。その経験について「裁判所は理屈だけ通っていればいいわけではない。当事者の事情、社会のありようや法律のできた背景を考えながら、できるだけ多くの人が納得できる判断をしたいと思っています」。更に「賃金の未払い事件を例にすると、判決が出て会社の口座を差し押さえるのが法的な解決方法ですが、現実にはそれにより会社が取引できなくなり、結局十分な支払いを受けられずに他の社員も含めて失職してしまうといったこともあります。そういうことのないよう、関係者にとってより良い落としどころを探すことに、やりがいを感じます」と話す。

大学でたくさん悩み、夢を目指してほしい

阪大の後輩たちにエールを送る冨岡さん。「阪大で学んだことは何一つ無駄になっていないと感じる。例えば一般教養は、なぜ学習するのかその意味が当時の私にはわからなかったですが、今振り返ると一般教養の知識が、人生の要所要所で幅広く役立っていると感じる。だからこそ時間のある大学生のうちに、たくさん学び、悩み、回り道をしてほしい、その経験はいつか必ず役に立つ。そして、本当に自分のやりたいことを考え、夢を目指して進んでほしい」

●冨岡健史(とみおか たけし)氏

2006年大阪大学基礎工学部情報科学科卒業。09年同大学院高等司法研究科修了、司法試験合格。司法修習を経て11年、裁判官任官。奈良地方裁判所、名古屋地方・家庭裁判所岡崎支部、最高裁判所事務総局民事局を経て、16年総務省に出向し現職。現在はインターネットなど「通信の秘密」に関わる新しい社会的な問題に取り組んでいる。




(本記事の内容は、2017年3月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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