StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

公募を見て感じた運命

「これは自分がやる仕事、二度とないチャンスだと、思い切ってチャレンジしました」

2013年、大阪市は天王寺動物園の改善、改革を推し進めるために動物園改革担当部長を公募すると発表。それを知った牧さんは、運命的なものを感じたという。大阪大学で研究した生物工学、官僚として培ってきた行政経験、さらに幼い頃からの動物好きが原点となった「動物園マニア」。そのどれもが後押しをして応募したところ選任され、2014年7月に動物園改革担当部長に就任、昨年4月より園長を兼務した。

大学では生物の脳のメカニズムを研究

高校時代から理系を志望していた。「なかでも生物を学ぶのがおもしろそうだなと。最初は理学部の生物学科を目指していたのですが、基礎工学部に生物工学科があるのを知って、募集要項を読んでみると魅力的に思え、第1志望に変わりました。広い視野で生物を研究することができて、自分にはとても合っていたと思います」

大学では、生物が意識を持って運動(随意運動)する時に、脳がどのように働いているかという研究に取り組んだ。当時、神経生理学の村上富士夫教授のゼミで学ぶと同時に、健康体育部の木村實教授の研究室で、実験に励んだ。

なんでも屋で怖いものなしに

「助手と僕を含めた学生2人の3人で動物の世話をしなければならず、なかなか休めませんでしたね。実験機器が揃っていたわけではなかったので、研究に使う電極やデータ収集のためのプログラム、新しいシステムも全部自分で作りました。基礎工学部はある意味なんでも屋。あらゆることをやったおかげで、何をするのも怖くなくなりました」と笑う。

勉強のかたわら、趣味のトランペットを手に、軽音楽部のビッグバンドでジャズを演奏したり、4年〜大学院2年では少人数でジャズバンドを結成し、地域のイベントで演奏するなど、充実した大学生活を送った。

東日本大震災では後方支援も

大学院の博士課程に進もうかと考えていたある日、国家公務員の採用案内を見て、試験科目に生物学があるのを知り受験、見事合格。俗に言うキャリア官僚として科学技術庁に入庁し、科学技術政策を担当した。出向も多く、原子力安全・保安院や内閣官房知的財産戦略推進事務局などさまざまな省庁で業務をこなした。「東日本大震災では、文科省の原子力支援本部のメンバーとして発生3日後に福島県に入り、県庁の後方支援にあたりました。その後、原子力発電所再稼働の基準づくりなども担当しました」

「動物園マニア」

「動物園マニア」になったのは「結婚したばかりの頃、妻がペンギンにはまったのがきっかけ。動物園や水族館を巡るうちに、マニアが集まるペンギン会議や動物園のあり方を考えるNPOの市民ZOOネットワークなどに関わるようになりました」

さらに、2006年には動物園マニアで競うバラエティ番組「TVチャンピオン全国動物園王選手権」(テレビ東京)に出場。見事チャンピオンに輝いた。

お客さん目線での動物園改革

天王寺動物園に転職後は、精力的に動物園改革に乗り出した。「人気の高いホッキョクグマのメスを導入したり、動物とのふれあい広場を設けました。また、近年来園の多い外国人観光客向けに、英語や中国語、韓国語での案内板も増やしています」と語る牧さんのユニフォームにも“ENGLISH a little”の缶バッジが。さらに昨夏、新たに照明設備を完備、開園時間を延長して実施した100周年記念イベント「ナイトZOO」は、9日間で13万人が来場する人気イベントとなった。

また、中・長期的な改革にも取り組む。「タヌキやキツネ、モグラなどの日本の固有種が飼えないかと思っています。都会に住む人には見たことがない動物で、教育といった面からも動物園として展示する意味があると思っています」

どんな勉強も役に立つ

昨年7月には大阪大学と連携して、動物園を楽しくするシカケのアイデアを集めた「シカケコンテスト2015」を開催。「大学は自由な発想ができる場。コラボすることによっておもしろいことやイノベーションが生まれると思っています。動物園にはいろいろな研究材料があるので、学術的な部分で、今後も大学とジョイントできればいいなと期待しています」

座右の銘は「どんな勉強も役に立つ」。大阪大学の後輩には、「どんな分野でも、取り組んでいくためには、それを支える知識を蓄えて更新していくことが大切。私の場合、就職してから学生時代には全く触れてこなかった法律や経済、財政、民法なども勉強しましたが、今になるとそれが全て生きています。勉強マインドは、大学時代に身につけておいたほうがいいですね」とエールを送った。

●牧 慎一郎(まき しんいちろう)氏

1993年大阪大学基礎工学部生物工学科卒業。95年同基礎工学研究科物理系生物工学専攻修了。同年科学技術庁(現・文部科学省)入庁。環境庁、経済産業省原子力安全・保安院、内閣官房知的財産戦略推進事務局などを経て、2014年大阪市建設局動物園改革担当部長兼経済戦略局天王寺魅力担当部長、15年4月から現職。

大阪市立天王寺動物園
(大阪市天王寺区茶臼山町1-108)

1915年、日本3番目の動物園として開園。11ヘクタールの敷地に、約200種1000点の動物が飼育されており、動物の生息地の景観を可能な限り再現した展示や、おやつタイムの実施などを取り入れている。昨年度の入園者は約173万人。

ホームページ http://www.jazga.or.jp/tennoji/index.html

(本記事の内容は、2016年6月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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