きっかけは学生時代のアルバイト

「そんな仕事があるの？」今もよく言われるという。聞き慣れないプロフェッショナル・コングレス・オーガナイザー（PCO）という仕事との出会いは大阪大学の学生時代。何でもやってみたい気分の中で、「なんだろう」と思いながら、学内掲示板で見つけた、とある学術会議の運営スタッフにアルバイトとして飛び込んだ。縁の下の力持ちとはいえ、最先端の知と触れあえるワクワク感を味わい、卒業後、コンベンション企画運営会社に入社した。

ここで4年間の経験を積み、1990年に会社の仲間とコングレを設立。花の万博（国際花と緑の博覧会、90年）や日本科学未来館の立ち上げに携わった。また、北海道洞爺湖サミット（08年）、国際通貨基金（IMF）・世界銀行年次総会（12年）など200以上の会議を手掛けてきた。地球温暖化防止京都会議（COP3、97年）は、営業責任者として受注から会議の運営まですべてに関わり、歴史的な現場に立ち会えた。「コンベンションビジネスは、ビビッドな世の中の動きとセットなんです。ニュースがすぐ隣にあるすごく面白い仕事です」

グランフロント大阪に進出　─阪大とも連携した仕事を

国際会議の運営を中心に、そのノウハウを生かして、全国約80カ所のコンベンション施設・観光文化施設の運営に携わる。13年には大阪の新名所・グランフロント大阪に、業界初の民設民営のコンベンションセンター、ナレッジキャピタル コングレコンベンションセンターを開設。JR大阪駅直結というロケーションも奏効し、稼働率は好調だという。

阪大とのつながりは、医学系の学術会議などを通じてより広がっている。学生時代の恩師、青木保大阪大学名誉教授（国立新美術館館長）とも交流が続いているという。「センターの開業を機にグランフロント大阪という“街”の一員として、まちづくりにも参加しています。ぜひ（母校である）阪大とも連携して、地域貢献していきたいですね」

異文化に触れた学生時代

子どものころから新聞を読むのが好きで、世界各地の文化の違いに興味を持った。文化人類学を学ぼうと人間科学部に入学し、シドニーでのホームステイや仏・シャルトルへの巡礼など異文化に触れた。学生時代の経験は、国際会議などの仕事をするうえで役立っている。「もともと人間科学部は1期生から破天荒な人が多かったと聞いています。私たち11期生は既に平凡だと言われていましたが、ユニークな人もたくさんいました。合宿や旅行、大学祭でも盛り上がりました。2年生で下宿を始め、下宿の仲間といろいろ話し、遊び、勉強したことは、本当に一生の財産です」

新しい価値を創造したい

社長に就任して丸2年。クライアントのニーズも多様化し、難しい仕事も多い。「世界規模のビッグプロジェクトですから、社員がプレッシャーに押し潰されないように応援するのも私の大きな仕事です。単に業務として処理するのではなく、世界中からの参加者、来場者に満足していただくため、もう一歩踏み込んだ『気遣い』が必要だと感じています。世界は近くなっています。私たちの会社が新しい価値を創造できたらうれしいですね」

来年3月には日本初のドローン（無人飛行機）の国際専門展示会も立ち上げる。「コングレ設立から25年。施設というハードを持っている強みを生かし、これまでの受託型から自主的な企画型に事業を広げようとしています。世の中の動きをタイムリーに捉える企画にもさらに挑戦したい」。サミット、ワールドカップ、オリンピック・パラリンピックなど、「次」を見据えて飛躍しようとしている。

一石投じてやろうという気概を

人とのつながりを大切にし、仕事を好奇心につなげて前に進んできた武内さん。「この仕事は、コミュニケーション能力はもちろん、提案力も必要です。学生時代から好奇心を持って世の中と関わり、一石を投じてやろうという気概を持ってほしいですね」と後輩へメッセージを送る。

●武内紀子（たけうち のりこ）氏

1986年大阪大学人間科学部卒業。コンベンション企画運営会社勤務を経て、90年コングレ設立に参画。01年取締役営業企画部長。常務取締役、代表取締役専務を経て、13年6月から代表取締役社長。一般社団法人日本コンベンション協会（JCMA）代表理事、観光立国推進協議会幹事、文化庁文化政策部会委員、大阪府観光客受入環境整備の推進に関する調査検討会議委員などを務める。

企業情報

■ 株式会社コングレ
（東京本社：東京都千代田区麹町5−1、弘済会館ビル）

1990年6月設立。国際会議、学術会議など大型コンベンション・展示会・イベントの企画運営を行う。コンベンション施設・観光文化施設の運営・管理も担当。従業員数290人のうち大阪大学卒業生は8人。

ホームページ http://www.congre.com/

（本記事の内容は、2015年9月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです）