StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

米国で弁護士としてキャリアアップ

「気さくで迫力ある英語のネゴシエーション力は大阪のおばちゃん的」という苗村博子さん。虎門中央法律事務所大阪事務所長を務め、現在、依頼される国際案件の数は、取り扱い数全体の7割を占めているという。

苗村さんが国際案件に携わるようになったきっかけは、「26歳で大阪弁護士会に登録しましたが、その後、新聞記者だった夫がタイに赴任し同行。当時はまだ英語が堪能ではなく、現地の米国系ローファームに雇ってもらえず、弁護士としてのキャリアがそこで一旦中断してしまいました。帰国後、タイで学んだ英語を生かし、アメリカで弁護士としてのキャリアアップをしようと考えました」。

受験資格の米国法曹協会(ABA)が認定するシカゴ大学LL.M課程を修了、ニューヨーク州の司法試験にチャレンジ。見事に一度で合格した。そしてニューヨーク州弁護士登録を行い、知的財産権の案件などで有名なシリコンバレーのローファームに勤務して研修。しかし、日本で英語を生かした法務に携わりたいと考え、翌年、ロサンゼルスで面接を受けて、企業法務・金融法務を主に扱う弁護士法人・大江橋法律事務所に採用された。

再建的倒産手続きから企業法務に興味

「そこで出会った二つの事件が、上場企業などの国際的事件に取り組む大きなきっかけとなりました。一つは、日本の大手製造業の再建的倒産手続きの案件です。香港に飛び、銀行や日本・香港の会社に対して広東語の通訳を付けて説明会などを行い、現地の担当者と英語で激しい論争も行いました。決して生やさしい事件ではありませんでしたが、私にとって、海外における再建的倒産手続きの初仕事となり、面白いと言っては恐縮ですが、興味を覚えました」。

また、アメリカという国におけるコンプライアンス(法令遵守)の厳しさを実感させられたのが、日本企業による反トラスト法違反事件(日本でいう独禁法違反事件)。「司法省の担当者(検察官)から会社担当者は、厳しい事情聴取を受けましたが、アメリカの弁護士と協力して、罰金の支払いをゼロにする司法取引に成功しました」。

日本の企業が事業のグローバル展開を進めるなか、企業法務に対する認識は遅れがちだという。「法的に予防していないと、いざトラブルが起きた時に莫大な費用が必要になります。日本の企業が本気で世界を相手に闘っていこうと考えるなら、『予防法務』にも予算を取ってほしいなと思います」。

「正義の秤」にかけて判断する

苗村さんのように企業法務の分野で活躍する女性弁護士の比率は「5%ほどではないでしょうか。多くの女性は企業の貸借対照表や損益計算書など、数字を読むのがイヤだとおっしゃいます。でも私たちは会計士ではなく、求められるのはデータの真偽を見抜くこと。私は企業法務こそ女性に向いていると考えています」。

弁護士としての信念は「ぶれないこと」だと断言する。「企業などから依頼が来た時、その内容が自らの解釈として法律に触れないと納得できるなら、誰が何を言おうと依頼者をしっかりと応援します。そして逆の場合は、例えその仕事を失うことになっても依頼者を押しとどめます。私がぶれると若い弁護士さんたちが混乱します。この信念は30年間曲げていないつもりです。大阪のおばちゃん的ネゴシエーション術(笑)なども含めて、そのような部分を気に入って依頼者が来てくださっているのだと思っています」。

一生の仕事にする価値がある

そもそも苗村さんが弁護士になろうと決心したのは、阪大法学部時代の恩師の言葉によるところが大きいという。「法律で社会を変えられるのだろうか、一生の仕事にして良いのだろうかという悩みを相談した時、『ハムラビ法典の時代から営々2000年間、法律の無い国はなかったということの意味を考えてごらんなさい』と言われました。ああそうか、革命のような威力はないけれど、法律は人間にとって必要で、ゆるやかだけれど良い方向に変えていけるのだと思い、法を駆使できる実務家になろうと思いました」。

グローバルに活躍する弁護士に求められる資質を訊ねると「人が好きなこと。弁護士業務全般にも言えますが、やはり言語が異なる人たちと理解し合うには、思索的であるよりはトーカティブ(話し好き)であることが大事だと思います」。さらに法律を学ぶ後輩には「学部で叩き込まれたリーガルマインドを常に心の片隅に置き、社会のどのような場所においても、常にコンプライアンスに敏感であり続けてほしい」という。

●苗村博子(なむら ひろこ)氏
1983年大阪大学法学部卒業。96年シカゴ大学ロースクール卒業。同年ワイル・ゴッチェル&マンジス法律事務所、98年大江橋法律事務所勤務。2000年3人のパートナーと法律事務所を開設。02年苗村法律事務所開設。同年弁護士法人苗村法律事務所・代表社員に就任。14年虎門中央法律事務所大阪事務所長に就任。

企業情報

■虎門中央法律事務所大阪事務所 (大阪市北区西天満2-6-8)

苗村さんを代表弁護士として他に6人の弁護士が勤務する。一般企業法務、コンプライアンス、M&A、知的財産権、国内外の訴訟・紛争、独占禁止法・反トラスト法、事業再生・倒産など、企業活動において生じうるあらゆる法律問題の解決に取り組んでいる。

(本記事の内容は、2015年6月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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