StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

女性初に気負いなく

国鉄分割・民営化(1987年4月)で誕生したJR西日本の採用1期生として1988年に入社する。「とにかく民営化したばかりで新鮮でした。旅行業や駅ビル事業など鉄道の本業以外にもいろんなことにチャレンジできる可能性を秘めていましたから」。当時は完全な男社会、同期入社の女性は藪さんを含め3人だけ。入社式当日の毎日新聞夕刊(1988年4月1日)は “鉄道ウーマン”誕生 大卒3人に職場華やぐ>と伝えた。「男女雇用機会均等法ができて2年目。時代がようやく動き出したころで、まだまだ女性の存在自体が珍しかったんですよ」と笑顔で振り返る。

女性ならではの視点、さらに強いバイタリティーで、入社翌年には大阪駅高架下の商業施設「ギャレ大阪」(1991年開業)の開発プロジェクトに入る。「いきなりテナント選定などを経験させてもらいました。いい勉強になりました」。さらに広報室を経て、「天王寺ミオ」や「プリエ姫路」など新しい商業施設の開発・運営を次々と任されていく。そして2009年、「ジェイアール西日本ファッショングッズ」社長に。「辞令を受けたときは驚きましたが、(JR西日本グループで)女性初だからという戸惑いや気負いはありませんでした。ただ人生って、どうなるかわからないなあと思いましたね」

早朝ランニングを日課に

「けさは9㌔走ってきました。シャワーを浴び、洗濯して、出勤です」。けろっとした顔で言う。2年ほど前から毎朝5時に起き、自宅近くの四天王寺や大阪城の周辺を走っている。1カ月に250㌔ほどにもなるという。東京へ出張するときは、わざわざランニングできるように皇居そばの宿を選ぶほど。社長業をこなすパワフルさの源はランニング? そう思って尋ねると、違った。「社長になって、決断を下すトップの孤独を知ったんです。たった一つの私の判断が、社員やテナントの将来を左右することだってある。走ると頭がすっきりして、ものごとを整理する時間にしているんです」。優しい目が厳しい社長の目になった。

恩師か 「君だけが心配だった」

「学生時代? 勉強らしいことはしませんでしたね。ほめられるような学生ではありませんでしたよ」と謙遜するが、学生時代に習ったという華道や茶道は師範代の腕前で、洋裁の技術はスカート程度なら半日で仕上げてしまうほど。ひとつのものを追求する姿は学生時代から変わらない。「キャンパスにこもって勉強するより、梅田やミナミ界隈をきょろきょろしながら、外の世界ばかり見ていて。それがよかったんでしょうか」。社長になってから、恩師・宮本匡章先生を囲む会で「ゼミ学生の中で、君だけが心配だった」と言われたと、笑う。

「バリバリのキャリアウーマンを目指してもいませんでした。与えられた仕事をこなしていく。自然体で」。仕事で心がけてきたことは、ただ一つ、「誠実さ」だという。「誰でも自分に都合の悪いことは言いたくないでしょ? でも、うそをつかない。分からないことは正直に分からないと言う。誠実に対応することが一番なんです」。広報室の管理職だったころ、事故などトラブルが発生した際のメディア対応で学びとった教訓だという。

社員との距離感が大事

そんな「誠実さ」を柱にすえ、社員教育にも気を配る。「よい上司に巡り会い、育ててもらったから今の私があります。私自身が通ってきた道ですから、社員が何を悩んでいるのか、どんな壁にぶつかっているのかが分かります。乗り越えたときの頼もしい姿も想像できます。ですから、成長を促しつつ、アドバイスしたり、相談にのったりします。あくまでお返しをする立場ですよ」

そして、こう続ける。「企業にとって人材は宝です。ただ社員に立ち入り過ぎてもだめですし、遠すぎてもだめ。相談にのってあげることはできても、解決できるのは自分しかいません。距離感を大事にしながら、社員が働きやすい環境をつくりたいと思っています」

「人生に無駄はない」

最後に、阪大の後輩たちへメッセージを送ってくれた。「日ごろから社員に言っていることですが、自分の限界を決めないでほしい。無理かもしれないと思っても、チャレンジすれば必ず身につきます。それが成長するということだと思います。なにごとも人生に無駄はないんです」

●藪章代(やぶ あきよ)氏

1988年大阪大学経済学部卒業後、JR西日本入社。広報室主幹、天王寺ターミナルビル営業部次長や神戸SC開発取締役などを経て、2009年JR西日本グループで初の女性社長としてジェイアール西日本ファッショングッズ社長に就任。14年6月から和歌山ステーションビルディング社長。

株式会社和歌山ステーションビルディング

和歌山市美園町5-61。1966年に設立、資本金7500万円。JR和歌山駅の駅ビルにある商業施設「和歌山ミオ」を運営する。和歌山ミオは天王寺ミオの姉妹館。地上5階・地下1階で売り場面積は約5000平方㍍。店舗数は女性衣料を中心に60店。

(本記事の内容は、2014年9月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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