StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

社会で役立てる人間になりたかった

在学中を「まじめな学生ではなかった」と振り返るが、法学部の単位だけでなく経済・経営の授業も積極的に受けていた。「早く社会に出て、役に立てる人間になりたかった。だから、実学重視の阪大が私には合っていたんでしょうね」。卒業直前の1983年2月にはヨーロッパを40日以上放浪し、ゼミの川島慶雄教授(国際法)が「卒業生総代に決まったよ。式に出られるだろうな」と心配したエピソードも披露。

MBAを取得しマッキンゼーの役員まで

日本生命に就職したものの、男女雇用機会均等法成立前で、女性には「コピー、お茶くみ」のイメージがついていた。試験を受けて女性総合職第1号となったが、知人の勧めなどもあって、米国ハーバードビジネススクールで学び直した。授業前に1日3ケースの事例を学んでおかねばならず、自習だけで「3時間×3」。寝る時間もない日々。父の仕事の関係で小中学校を米国で過ごし、阪大でもESSで語学力は鍛えられていたが、ハーバードの授業は厳しかった。ケースディスカッション重視で、当てられるたびに自身の意見をスピーチする積極性が求められた。

MBA取得後、28歳でマッキンゼー・アンド・カンパニー(米国、日本)に入社。実力と個性を発揮して、パートナー(役員)に抜てきされた。「私は、課題の設定、チーム運営、クライアントへの対応が得意で、やる気をもって楽しく仕事できる環境を作れたのが評価されたのでしょう」

出産が転機に。「病院を良くしたい」

36歳で長男を出産したことが、大きな転機となる。病院で、特別悪い扱いを受けたわけではなかったけれど、病院のあり方に疑問をもった。例えば、診察までの長い待ち時間だ。銀行なら、時間のかかる融資交渉とすぐに済む預金引き下ろしは別のルートで行い、待ち時間を削減しているが、病院ではいろんな症状の患者さんが同じルートに乗せられている。それが「当たり前」とされていた。

医療界に新風を吹き込もう。マッキンゼーにいた医師と一緒に2000年、「メディヴァ」を興し、第1号クライアントとして用賀アーバンクリニックを設立した。以来、かかわった医療施設は120〜130にものぼるほか、病院の再生、健保組合の赤字解消、ミャンマーでの医療支援など幅広い活動を展開する。患者さんの視点を重視し、診療時間を午前8時〜午後8時に設定したり、カルテの開示を行ったり。「同じ5分間診察するにしても、パソコンばかり見ているのではなく、患者さんの目を見て触診することで、患者さんは満足できる。最後に『ほかにご質問はありますか』と医師が尋ねることによっても患者さんの満足度が上がります」と説明する。医療報酬には複雑な点数制度があるが、いろんな診療科をうまく乗り入れることで、経営効率も上がる。患者さんに認知してもらえれば、口コミで「いい診療所だ」と広まるのだ。

安心して出 産・ 育児のできる職場に

メディヴァ内では、出産・育児を経ながら働ける環境を整備している。子どもが熱を出しても、自宅にパソコン1台あれば看病しながら仕事をこなせる。仕事のチームでも融通し合う。職場に子どもを連れてきても構わない。大石さんは、社会、職場に昔ながらの「お互いさま文化」を再生させようとしているのだ。家族会を作って親睦を図るほか、顧客との懇親会を催せる「宴会スペース」の隣には、子どもが遊んで待っていられる空間も。約100人いる男女社員には、月1人くらいのペースで子どもが生まれている。そして若い人も「子どもがほしいな」と考えるようになっているという。

社員には、ワークライフバランスの取れた仕事ぶりを求める。原則として深夜までとか徹夜の勤務は禁じ、効率よく働くよう指導する。1週間1人で考えるより、1日考えてから周囲に相談する方がいいと話す。

企業には「NPO的」な体質も

企業である以上、利益追求は大事だが、それに固執せず、「NPO的」な体質を大切に考える。「子どもから『どうして働かないといけないの?』と尋ねられて、『お金を稼ぐため』だけなんて応えたくない。『君たちに、住みやすい社会を作っていくためだよ』と言える大人でいたいんです」

「自分の力をどれだけ磨くか」

阪大の後輩たちには「同じ人生を歩むなら、やりたいことをやってみなさい。これをやっちゃいけない、こんなの格好悪い、なんていう考えは捨てて、自分のエネルギーをいっぱい発揮したらいいんです」と呼び掛ける。「マッキンゼーなどにいた阪大出身者も、一生懸命取り組む姿勢を持っていました。マッキンゼーでは、仕事を回す能力に長けた人間を“street smart”と表現します。阪大出身者にはこういう方が多い気がしますね」とも。また自身の経験も語ってくれた。

転職などの転機が訪れた時、どう判断するか─「あっちの水が甘く思えても、それに惑わされないように。今の組織だからやれている場合もある。自分の力を過信せずに、よく見つめ直してから道を決めてください」

日本の社会はまだ、女性が実力を発揮しづらい─「女性は損だ、なんて考えても仕方ない。レアであるからこそのメリットがあることも。得意な分野、才能をどんどん伸ばしたらいいんです」

箕面に実家があって、「大阪人」を自認。「物怖じしない積極性がとても大事で、大阪人のDNAは世界に通用しますよ」と笑いながら、「最後は、自分の力をどれだけ磨いてきたかです」と力強く結んだ。

株式会社メディヴァ

MEDIVA=Medical Innovation and Value-Added。本社は東京都世田谷区用賀2 資本金1億5800万円 事業内容は、医療機関・介護事業の経営コンサルティングとオペレーター、健保・人事のコンサルティング、ヘルスケアサービスの開発・運営など。社員は、医療やコンサルタントとは無関係だった職種から転職してきた者が多く、率直でユニークな意見が交わされている。

(本記事の内容は、2014年6月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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