StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

モノづくりが好きな少年

「目覚まし時計が壊れたら、どうなっているのかなあと好奇心がわいて、とりあえず分解したり。ミニ四駆がはやっていた時は、発泡スチロールを土台に竹ひごなどを使いタイヤをつけて、モーターと導線だけ買ってきて自分で作ったり。家にあるもので何か作って遊んでいました」と少年時代を楽しそうに振り返る。

知ること、作ることへの興味が子どもの頃から育まれ、まずやってみる姿勢が、大学での学びへとつながった。大阪大学工学部応用理工学科から大学院へ進み、金属の精密加工などを学んだ。竹内芳美教授(現中部大学教授)の下で「曲がり穴」の放電加工を研究。「マイナーな分野だったこともあり、何でもやらせてもらえた。装置の設計から組み立て、制御、実際の加工と全ての段階を経験できたのは財産」という。マレーシアでの国際学会で研究報告する好機もつかんだ。

「やってみなはれ」にひかれ

就職はやはり「モノづくりをしている所へ行きたい」とメーカーを希望。はじめは「自動車製造か電気関係へ」と決めていたつもりだったが、就職活動の中で、サントリー創業者の鳥井信治郎氏が折にふれ口にしていたという「やってみなはれ」の精神にひかれるものを感じた。「自分のやってきた研究をいかすというより、むしろ、いろいろな新しいことを経験したいと考えていましたから、心に残った言葉になりました」

2006年、サントリーに入社し、九州熊本工場に配属。天然水やお茶の製造設備増設に携わった。包装レイアウト設計や、従来のボトルの高温殺菌充填から、常温での無菌充填への転換。業界初となるエコ殺菌システムの導入は、入社3年目にして関わった数十億円規模の大きな仕事だった。

5年目に東京のエコ戦略部へ異動。事業と環境戦略を推進するための組織としての中長期の環境目標設定や技術導入に従事した。工場の敷地内に大規模太陽光発電所(メガソーラー)を設置するプロジェクトを任せられ実現にむけて奮闘。13年春には生産研究企画部に移り、「サントリーのモノづくりにおける中長期革新課題」を提案。秋からは自らの提案を実行する任務を担い、現在の職場へ。ソフトドリンク分野のグローバルな将来像を描きながら、技術開発の道を探っている。

「わからないことは、ためらわずに人に聞きサポートをもらう」という。さらに「なんでそうなのかなと原理原則をしっかり捉え、考えながら行う仕事の進め方は、大学での学びの場で培った姿勢が生かされている。九州熊本工場時代、設備設計から立ち上げ、試運転と一連の工程に関わらせてもらった時、経験やノウハウがない中でやってこられたのも、それがあったからこそだと思う」

スポーツを通じて学んだ

モノづくり大好き少年はまた、スポーツマンとしても成長した。父の仕事の関係で小学3年まで5年間暮らしたブラジルではサッカー、帰国後は野球に親しんだ。中学時代に始めたバレーボールは、阪大に入って最も熱中した。「大学では、休みも含めてバレー中心の生活でした」。3年秋のリーグ戦直前に足首のじん帯を切るけがをしたものの、試合に出たい一心で医者に相談し、ギプスをせず、テーピングとサポーターで患部を固定して出場を決断。この時、阪大バレーボール部は全勝し、4部から3部リーグに昇格した。バレーボールを通して協調性やあきらめない気持ち、仲間の大切さを学んだという。


学生は「しんどいことに全力を」

今年9月の異動で東京から大阪府島本町に職場が移り、妻と4歳の息子、愛犬と離れて暮らす。もっとも、東京への出張も多く、毎週末は神奈川県の自宅へ帰り、家族には学生時代の自炊で磨いた料理の腕をふるう。地元のバレーボールのクラブチームにも所属。時には大学時代のチームメートらと集まり、試合にも出場する。ただ「今は楽しむための遊び。体力も落ちるばかり。OB会などの機会に現役学生たちの姿を見ると、懐かしく、うらやましい。後輩には、スポーツでも学業でも、しんどいこともあるでしょうが、今しかできないことに真剣に取り組んでほしい」と話す。

学生生活を満喫した阪大への思いは今も深い。「自由な気風はとてもよかった。その中で学生は考え方を学べるので、今の環境を大事にしてもらいたい」。学生へは「就職に際しては大学での専攻に縛られがちだが、それしかないと思い込むのは損。自分の経験からも、時には視点を変えてものごとを広く捉えると、好奇心の先に見えてくるものがあると思う。また、できない理由はすぐ見つかるが、簡単にあきらめずに、課題を考えて粘り強く取り組むことが大切」と助言する。

Think Globally, Act Locally

心がけている好きな言葉として「Think Globally, Act Locally」を挙げた。「世界を目指すということではなく、目の前の物事について、広く考え、こつこつ取り組む姿勢を大切にしたい」

「上司に恵まれて、いろんなことをやらせてもらえている」。まさに「やってみなはれ」の言葉通り、考え、望めばやれる環境と持ち前の行動力で快進撃を続ける。

「好奇心を武器に、これからもどんどん面白いことに取り組みたいし、自分だからこそできることに挑戦したい」。身長188㌢の偉丈夫は、静かに、かつ力強く語った。

サントリーホールディングス株式会社

1899年鳥井信治郎が、ぶどう酒の製造販売をする鳥井商店を大阪市に創業。1921年株式会社寿屋設立。京都・山崎に日本初のモルトウイスキー蒸留所を建設、国産ウイスキー製造へ。63年社名をサントリーに。2009年食品、酒類等多分野の事業を統括するサントリーホールディングス設立。「人と自然と響きあう」を理念に高品質の商品開発、サービス、文化、環境活動を展開。本社・大阪市北区。

サントリーグローバルイノベーションセンターは、13年4月、中長期な視点で“新たな価値の創造”を促進するべく基盤研究部門を独立させサントリーホールディングスの傘下に設立された。

(本記事の内容は、2013年12月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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