StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

経済より経営がおもしろいと直感

岩田さんの生まれは大阪市内。それも梅田の中心地だ。「野球がやりたくて北野高校に。大学も、家から近い阪大しか考えていなかった」。経済学部に進んだが、専門課程の初回の授業で経済学に違和感を持った。「『経済原論』で、経済学は、人間は合理性を持つことが大前提と教わったのです。直感的に『おかしい』と思いました。そんな人間はいませんから(笑)」。後になって、確率論などを導入することで、経済学も現実的な人間の行動を扱えるということを知ったが、「合理性や数字ばかりの経済学より、人を対象とする経営学の方がおもしろい」と感じるようになった。

「多士済々」だった北野ゼミ

ゼミの担当教員は、経営学の北野利信先生。他大学から着任したばかりで、「ゼミ生は自分を含め、『あぶれもん』ばかりだった」という。それが良かった。伝統的な「まじめな阪大生」の型にはまらない、ユニークな人間が集まっていた。ゼミは原書の輪読が中心で難しかったが、先生はいつも論理的にいろいろな見方をする人だと思った。口ぐせが「要するに…」。物事の本質を分かりやすく説明してくださった。そんな先生でも、自分が知らないことに関しては、とことんまで学生にも意見を聞く。その謙虚さも尊敬した。

「『東大でも教えたことがあるが、ほとんどの学生のレベルは君たちと変わらないよ』と言っておられた。野球少年だった私という人間も100%認めてくれる先生でした」。心の通った師弟の交流は、今でも続く。

当時、「日本的経営」論をめぐる本が流行。そんな本も、研究室の棚から借りて読んだ。縦社会、ムラ社会といわれる日本企業。日本の歴史的な文化論とも関係して、人をどうリードするか、マネジメントするかが論じられていて、興味をもった。これが、今の活動にも結び付いている。

課外活動では野球部に所属し、投手として活躍。同期には強豪高校出身の逸材が多く、チームは近畿リーグの一部に所属していた。1年次に膝を痛め1年以上リハビリ生活をしたが、「3年の秋季リーグ最終戦に、チームメートに初登板のお膳立てをしてもらった。9回を投げきり、勝利投手になったことが忘れられない」

人との出会いが自分をつくる

岩田さんは「人」との出会いを大事にする。数多くの企業から内定を受けた中で、日産自動車への就職を決めた決定的要因も「人」。

10月1日の内定式直前まで、日産に行くか、大手商社に行くか、都市銀行に行くか考えあぐねていた。まさに9月30日、日産の先輩と話をする機会があった。積極的に入社を説得されるわけでもなく、日産マンとして活躍する体験談を嬉々と話す先輩の姿に憧れ、「こんな人になりたい」と思って入社を決意した。

日産では、販売会社にも出向し、新車セールスも担当した。「社長賞」を取ると決め、地道な活動をして独自に販売ノウハウも身に着けた。その結果、歴代出向者の販売台数記録を作るほどの成績を上げた。全スタッフの前で、出向先の社長(後の日産自動車の常務)から、「岩田は、この期間に2万枚の名刺を配った。誰よりも一番努力した」と褒められた。プロセスまでしっかり見てもらっていたこと、その気配りがとてもうれしかった。

追い込まれて気づくこともある

その後も真面目に勤めたが、次第に力をもてあますようになった。そんな中で、社内留学制度を知った。米国のビジネススクールに2年間、費用は全額会社がもってくれる。苦手だった英語を必死の努力で克服し、30倍の社内選考を突破する。「TOEIC300点台の成績から、猛勉強で最終的には900点台まで行きました。あまりの上昇ぶりに人事部からカンニング疑惑もむけられました(笑)」

しかし、そこから留学までの道のりが凄まじかった。留学に向けてすべきことが山積しているのに、仕事が忙しく、勉強の時間がない。そのプレッシャーから、眠れず、食べられず、半ばノイローゼ状態に陥った。「マンションの前に花が咲いてるの、あなた知ってる?」という妻のひと言によって、自分が今立たされている状況を実感できた。「今でも、妻のあの一言には感謝しています。『今、自分は病的な状況なんだ』と気づくことで、自分を客観的に見ることができました」。その後、小規模なビジネススクール予備校で夏季講習を受け、社外に話せる仲間ができた。校長先生も真の教育者だった。人間関係の中で人として破綻しかけたが、結局人に救われた。

「理」よりも「情」を大切にしたい

カリフォルニア大学LA校(UCLA)のビジネススクールで、経営者に必要な知識を2年間学んだが、米国流のすべて損得だけを考える講義に、飢餓感と疑問を感じた 経営に 「理」だけでなく「情」の部分も必要だという思いを抱え 「休暇期間中は論語 老子 陽明学 安岡正篤など 東洋哲学の本を読みあさりました」。この時期に吸収したものが その後 ザ・ ボディショップ、スターバックスなどの経営に携わった時に生かされた。毎週月曜日、全社員にメールでメッセージを送り続けた その継続が 社員らの心を引きつけ 組織の立て直しにつながった。

UCLA「インパクトのある100人」

現在は自らコンサルティング会社を経営。執筆、講演活動に明け暮れる毎日だ。

「経営には、和魂洋才が求められる。米国流のコンサルティング手法を学んでよかったと思うが、人を理解し、人を動かさないと、良い経営者にはなれない」

そんな岩田さんを、UCLAは「歴代全卒業生3万7000人から選ぶ、インパクトのある100人」の1人(日本人は4名のみ)に選出した。もちろん、日本での経営実績を認められてのことだ。

大学に望むこと 学生に求めること

映画『スパイダーマン』の名言“大いなる力には大いなる責任が伴う”を引用しながら、岩田さんは語る。「地位やパワーを身につけることは責任が増えること。ところが日本のエリートは、勉強さえできればよいと人格教育を受けていないから、責任をとらない人間が生まれる。権力ばかりに目を向けて、その責任を考えさせない日本のエリート教育は化け物をつくっているんですよ。パワーを持つエリート達には、そのパワーを自分のためではなく、世の中のために使うという教育( ノブレスオブリージュ:noblesse oblige )が必要だと思う。ドラッカーは『地位は責任であって、権力ではない』と言っています。上に立つ者は、より多くの人の幸せを考えるべきではないでしょうか」。学生も、教える側もしっかりこの事を意識してほしい、と力を込めた。

(本記事の内容は、2013年9月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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