StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

阪大でいきなり棒高跳び選手に

「大阪大学っていいところですよね。学業でもそれ以外でも、何かに打ち込む学生を応援してくれる場所。『やりたいことを自由にしていいよ』ってね」

おかげでクラブ活動に熱中できた、と笑う。

「高校までは長距離走の選手でした。大学でも続けようと思って陸上部に入部したのですが、周囲を見渡すと私より速い人たちばかりでした」

このままでは4年間補欠で過ごすことになりそうだが、自分で選んだことを途中でやめることができない頑固な性分でもある。陸上を途中でやめたくないがずっと控え選手というのも辛い。葛藤の末、部で最も選手層が薄かった棒高跳びに転向した。「自分なりに熟考して筋を通した結論だったんですけど、周りはかなり驚いていました。まあ、同じ陸上といってもまったく別の競技ですからねぇ」

その棒高跳びも楽しかった。ポールがしなり、自分の体がふわりと宙に浮く感覚を得た時のことは忘れられない。空へ放り上げられる快感。いい気持ちだった。

「違う見方を探す」ことを学んだ

スポーツマン生活の一方、法学部での所属ゼミは民法の千葉恵美子先生だった。

「ユニークなゼミでしたね。笑福亭仁鶴さんが司会を務める法律相談番組の相談内容について、学生に討論をさせるんです」。テレビの中で弁護士が解決策を出して番組は終わるのだが、先生は「他に解決策はないか」と尋ねる。「人間が作った法律なのに、いくつもの解釈が存在するのか」と衝撃を受けた。「違う策を見つけようと、六法全書片手に四苦八苦。『論理的な思考』と、『別の論理構成』を探すことを常に求められた」

ゼミで得たものは、決して軽くない。「社会正義に向かう道は、単一ではない。それを探し求める英知とロジックを持つことが大切だと、気づかせてもらいました」

ニュースがないのもまたニュース

幼い頃から、メディア業界への就職を考えていた。報道記者を目指していたが、アナウンサーに。「当時の採用担当に、『どうしても記者になりたければ数年後に異動希望を出したらいいよ』といわれて入社したのですが、途中でやめられない自分の頑固な性格を忘れていました。気がつけばもうすぐアナウンサー歴20年です(笑)」

アナウンサーになった頃は、視聴者をあっといわせてやろうと「派手なネタ」「感動的なネタ」を懸命に追いかけたという。入社した翌年、阪神淡路大震災が発生。地震直後の西宮や三宮の壊滅的な状況を取材した後で、尼崎に立ち寄ったところ、被害状況はさほどではない。取材を切り上げようと、「尼崎には(ニュースになるような)ネタがないですね」と上司に報告。すると「武庫川を一つはさんだ西宮と尼崎でこんなに状況が違う。これが、この地震の特徴を端的に示す格好の話題ではないのか!」。こっぴどく叱られた。「現場が見えていなかったのですね。あの頃のことを振り返ると赤面してしまいます」

話を聞くことの難しさとおもしろさ

ベテランとして活躍する現在。街角のグルメ情報を拾うと思えば政治、経済のニュースにも斬り込み、ときには体当たりの海外取材もこなす。いろいろな世界の、多様な価値観を持った人々と話す面白さがわかってきたという。

「話を聞くのは今でも難しい」と本音を漏らす一方、「でも、やっぱり人の話を聞くのは面白い。みんな自分とは違う何かを持っているわけだし」とも。視聴者の心に届く報道やインタビューは、「あなたのことをもっと知りたい」という、真摯な気持ちから生まれるのだろう。

大阪を愛し 大阪に愛される阪大へ

テレビ、ラジオを通じ、「関西の今」を伝え続ける西さんは、現在の大阪大学をどう見ているのか。「大阪の人に愛される大学、地元・大阪を愛する大学であってほしい。今以上に地域とつながってほしいですね。グローバルに活躍できる人材の育成は大切なことかもしれませんが、地べた目線を失っては何の意味もない。阪大は、まずは地元の人と仲良くなって、その延長で世界中の人と交流できるように、学生を サポートしてあげてほしいと思います」

専門分野を探究する場、学際的な諸分野が連携した研究を実践する機能も大切だとしながら、「僕の出身でもある文系学部の取り組みも、もっと世に知ってもらいたいですね」。

「大阪大学の学生と、機会があれば交流したい」と考える西さん。「あまりテレビを見なくなった若い人たちの興味がどこにあるのかを探り、メディアを面白くしたい。新しい刺激を受けて、それを吸収したいんです」

「自分の方から学生に伝えたいこと」を尋ねると、「うーん。みなさんとは異なるものの考え方が世の中にはある、ということかな。『たった一つの真実』とか『本当の自分』みたいな言葉はあんまり使わないほうがいいと思うんです。真実にしたって、自分自身にしたって、流動的で不確かなもんです。だからおもしろい」

法学部で培った「答えは一つじゃない」という複眼的思考が、西さんの中にしっかりと根付いている。

(本記事の内容は、2013年6月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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