アンカー

 早起きは百文の得蓮の花
◎来客に一泡放つ水中花
 誰もゐぬ真昼の町や凌霄花
 子の頭ほどある蓮咲かむとす
 アガパンサス青重しとも涼しとも
 長雨に倦みてうなだる凌霄花
◎縁日を抜けし浴衣の着くづれて
 浴衣帯きりりと締めてスニーカー
 別人に見紛ふ教師浴衣着て
◎水中花置き長欠の友の席
 初蝉や太陽の塔仰ぎ見る
 浴衣でも上司は上司気を使ふ
 火の色を塀に垂らせて凌霄花
 咲くといふことの済みゐし水中花
 麦茶煮し大薬缶いま棚の奥
◎浴衣着てわたしはやはりをんなかな
 蓮咲けば古刹更なる浄域に
◎グランドへ麦茶の薬缶両の手に
◎散れど散れどひたすら天に凌霄花
 藍染の浴衣老舗を守るこころ
◎孫泊めて着せたる浴衣寸足らず
 寡婦四人尽きぬ話や水中花
 水中花開く逡巡なかりけり
 形代は同じ大きさ父も子も
 温泉の宿の浴衣の妻にはつとせし
 藍のやや褪せし浴衣のなじみよく
 着馴れたる藍の浴衣の月日かな


義雄
輝子
暁子
あや
太美子
眞知子
敏夫
暁子
香月
元彦
ゆたか
暁子
浩一郎
瑛三
暁子
太美子
眞知子
瑛三
浩一郎
草机
和江
あや
幹三
洛艸
眞知子
京子

林 直入 選

第480回 平成22年7月12(月)

兼題  浴衣、水中花(直入)麦茶、蓮(あや)
席題  卓上に 凌霄花、アガパンサス

◎水中花育つ楽しみなかりけり
 慣れし所作浴衣きりりと着こなして
 蓮の葉の揺れて潜める大きもの
 半日で浴衣縫ひ下されし母
 身にそはぬ浴衣でありし十五才
 麦茶煮る香りに湿る路地の朝
 一望の蓮に雨来る入江かな
 蓮咲く入江はるかに比良比叡
 山小屋の渓に冷やせし麦茶かな
 吼ゆるごとき句ひとつ遺る銀河かな
 水中花揺れ真向ひの人も揺れ
 湯づかれの浴衣に容るる山の風
 水中花置き長欠の友の席
 雨去るや湖にひろがる蓮の色
 蓮の花何千年の眠り覚め
 火の色を塀に垂らせて凌霄花
 柄大き浴衣すらりと着る背丈
 尾瀬守りし人眠る丘夏の霧
 咲くといふことの済みたる水中花
◎宿浴衣と下駄で仕事を忘れけり
 花閉づる蓮池の午後緩びをり
 薬缶ごと井戸に吊してある麦茶
 浴衣着てわたしはやはりをんなかな
◎告知うけ眺むるひと日水中花
◎耳よりも大きな夏の蝶がゆく
◎まづ麦茶一気に飲みてからのこと
 三味を弾く浴衣の妻を見直しぬ
 形代は同じ大きさ父も子も
 泳ぐもの来ればよろこぶ水中花
 温泉の宿の浴衣の妻にはつとせし
 妻夕餉仕度済ませて蛍狩
◎着馴れたる藍の浴衣の月日かな
 茎立てる蓮華の開く夜明かな
◎誰もゐぬ真昼の町や凌霄花

直入
香月
幹三
直入
輝子
京子
浩一郎
瑛三
洛艸
浩一郎
敏夫
瑛三
香月
浩一郎
義雄
暁子
浩一郎

浩一郎
ゆたか
輝子
直入
暁子
嵐耕
幹三
輝子

幹三
浩一郎
洛艸

京子
嵐耕
輝子

長山あや 選

 半日で浴衣縫ひ下されし母
 浜茶屋の少し塩味ある麦茶
 先づ淦を汲み捨て蓮見舟となる
 アガパンサス青重しとも涼しとも
 水中花眠らぬ闇のひとところ
 ふる里の日向の匂ふ麦茶かな

直入


あや

 

選者吟

 盆支度仏具磨きに始まりぬ
 機止めて車止めして地蔵盆
 ねこじやらし石蹴りの石見失ふ
 スーパーですべてことたる盆用意
 盆菓子の鮮やかすぎる彩供へ
 野の草と木槿無理なく生けられて
◎熊蝉の目覚まし時計とめられず
◎棚経の短かきあとの長話
 ためらひてをりし流灯動き初め
 棚経の今日は最後と長話
◎案外に几帳面な子墓洗ふ
 ためらへる流灯手波もて発たす
 頑固なる親父に太き苧殻箸
 忘れ数珠廊に吊され盆の寺
◎だんご虫だんごになりぬ朝曇
 曾孫から贈る似顔絵生身魂
 棚経にあらためて知る貪瞋痴
 自づから分担決まる盆用意
 迎へ火の優し異教の霊も呼ぶ
 蓮の供華開かぬままに盆終はる
 孫の頭を順に撫でゆく棚経僧
 どの顔も生身魂なる寮歌祭
◎送り火の果ててしばしの皆の黙
 盆僧に野球経過を聞かれもす
◎たゆたひて送り火の煙去りがたし
 苧殻の髄のぞきあの世の光見る
 娘が撞けば音色優しき迎鐘
◎まんまるが何故か悲しき盆の月
 夜の更けて風の出て来し門火かな
 寡婦ひとりもう泣くこともなく墓参
 盆踊此処を先途と太鼓打つ       
 スーパーに早々苧殻並びをり

元彦
浩風
輝子
暁子
暁子
元彦
言成
暁子
ゆたか
瑛三
太美子
浩風
洛艸
暁子
幹三
洛艸
言成
義雄
敏夫
瑛三
浩風
瑛三
洛艸
浩風
瑛三
あや
洛艸
ゆたか
暁子
輝子
香月
香月

林 直入 選

第481回 平成22年8月16(月) 

兼題  盆一切(直入、あや)
席題  卓上に 木槿、狗尾草えのころぐさ、  

 ゆたかなる百日紅の揺らぎかな
 山寺の檜皮の上の夏の雲
 額づけばわが影もまた墓参り
 水巴忌や池に古舟の動かざる
 久闊を叙す出会ひあり墓参
 熊蝉の目覚まし時計とめられず
 棚経の短かきあとの長話
◎鳩尾にあたつてゐたる西日かな
 あかときの闇の中から蝉の声
◎迎火ややっぱり飲んで戻るやも
◎盆花も枯れて一人の日常に
 送り火が忽ち燃えて闇残る
 夕やみにとけこみそつと門火たく
 青山のただつくつくと蝉時雨
 母焚きし門火を今は妻と焚く
 どつと来てそつと抜けたる踊りの輪
◎墓四つ恋しき順に供華を置く
 墓洗ふ遺骨還らぬ叔父なりき
 学会ゆ戻れば故国蝉時雨
 苧殻焚く子や眼を見開きて闇を見る
◎をちこちの御詠歌運ぶ盆の風
 草市に残る大正昭和の世
 気がつけば輪の中に居る盆踊り
 たゆたひて送り火の煙去りがたし
 まんまるが何故か悲しき盆の月
 ボストンの朝餉はカフエ風涼し
◎灼けてゐるポストに入れる葉書かな
 機止めて車止めして地蔵盆
 鮮やかや踊太鼓の撥捌

太美子
箕川
ゆたか
和江
太美子
言成
暁子
幹三
言成
暁子

ゆたか
眞知子
瑛三

浩風
輝子
眞知子

敏夫

直入
義雄
瑛三
ゆたか

幹三
浩風
香月

長山あや 選

 盆の僧一気にお茶を干されたる
 草市の俄商人てふ農夫
 真似事の迎へ火マンション暮しにも
 燃えてかなし消えてかなしや門火とは
 送り火のごとき木星西の空
 もう一つの祖国へ還る娘と墓参

直入


あや

 

選者吟

アンカー

女日芝めひしば、苧殻

 さわやかに五代友厚タキシード
 剣先に分れて水の秋二つ
 秋空や公会堂の赤煉瓦
 空蝉や死ぬときは皆孤独なり
 秋薔薇の総じて花の小さきかな
 裸婦像も並木も人も秋暑し
 川風に新涼かすか橋渡る
 大噴水さけて水上バス曲る
 灼けつつもやさしき眼ライオン像
 小癪にも刃向ふ構へ仔蟷螂
◎秋の蚊を打ちて己の血の赤き
 大川に訪ふ橋六つ赤蜻蛉
 さるすべり紅きはいよよ熾んなる
 川風の新涼告ぐる中之島
◎底紅忌堂島川の満ち満ちて
 昃れば獅子に秋思のなには橋
 岸の草そよぎ秋燕ひるがへる
 炎帝をかつと睨めるライオン像
◎どのビルも残暑はじいて窓光る
 大芝生己が領空守るあきつ
 八軒家船着場跡秋の草
 鉢のもの枯れてはびこる猫じやらし
 秋初め小ぶりの薔薇の一重咲き
◎とまる向き変へて川見るとんぼかな
◎適塾の蚊は刺す人を選びたり
 日曜の船へ手を振り水の秋
 街路樹の葉ずれの音も秋めける
◎幾とせの盛衰を経て金鈴子

箕川
浩一郎
京子
浩風
洛艸
眞知子
眞知子
洛艸
洛艸
浩風
幹三
輝子
浩風
暁子
京子
瑛三
浩一郎
暁子
眞知子
洛艸
暁子
洛艸
輝子
浩一郎

浩一郎
暁子
言成

林 直入 選

第482回 〈吟行句会〉平成22年8月29(日)

吟行地  中之島周辺・適塾
句会場  中之島公会堂会議室

 適塾の古めく薬研秋灯下
 大噴水さけて水上バス曲る
◎適塾のきざはし(けはし百日紅
◎大都市の裏を映して秋の川
 かなかなや川風わたる中の島
 灼けつつもやさしき眼ライオン像
 大川に訪ふ橋六つ赤蜻蛉
 剣先の放水秋の川濡らす
 公会堂ベンチの木目秋暑し
◎あきつ舞ふ栴檀木橋渡りけり
 昃れば獅子に秋思のなには橋
 適塾の庭に十薬花は実に
 秋蝉の声の細かり中之島
◎水尾長き水上バスの秋日かな
 人生に疲れ背を向け夏木立
 適々の心に出会ふ八月尽
◎岸の草そよぎ秋燕ひるがへる
 炎帝をかつと睨めるライオン像
 どのビルも残暑はじいて窓光る
 大川の水たゆたひて秋あかね
 川風の来れば光りて秋の薔薇
◎船茶屋のありし岸辺や草いきれ
 日盛りを謀反抱けるごとくゆく
 適塾の蚊は刺す人を選びたり
 秋蝉のなきがらよけて歩みけり
 大部屋の柱の刀痕秋の風
 街路樹の葉ずれの音も秋めける
◎剣先に分れて水の秋二つ

洛艸
洛艸
箕川
暁子
道子
洛艸
輝子
敏夫
京子
言成
瑛三
洛艸
瑛三
瑛三


浩一郎
暁子
眞知子
言成
浩一郎
暁子
暁子

道子
ゆたか
暁子
浩一郎

長山あや 後選

 新涼の風を貰ひし川港
 醜草の花壇や秋の気配なく
 淀屋とは由緒ある橋舟料理

直入

 

選者吟

アンカー

 厨事終へれば外は虫の闇
 明り消しすだく虫の音聞き分けむ
 邯鄲の忍ぶ音色や夜のしじま
 昼も夜も眠らずをるや鉦叩
 主いまだ知れぬ古墳や虫時雨
 足音に敏く潜める秋の虫
 きりぎりす首なき地蔵おはします
 子を寝かせ鈴虫の夜を一人占め
◎白桃のするりと剥けし朝の卓
 懸命に生くる証や虫時雨
 西鶴の市井の墓や昼の虫
 五つ六つときには八つ鉦叩
 よべの雨虫の声まで潤ひて
◎秋蝉の終に一樹のものとなる
 顔を出す蟋蟀親し厨口
◎庭草の吐息をさまり虫すだく
 虫集く母と二人のしまひ風呂
 山上の小さな墓に濃竜胆
◎虫籠の鳴かぬに話しかけもする
 風にのり蟷螂肩にきて止まり
 秋晴やおもひきり泣く赤ん坊
 赤とんぼ小さきズツクの干されたる
 夜半の雨止めばたちまち虫時雨
 昼の虫深き外野の草野球
◎虫籠にとんぼ乾きし翅の音
 四棟の社宅のあとの猫じゃらし
 豹紋蝶金コスモスに恋をして
 子規の忌の近し鶏頭赤々と
 灯を消せば一人の夜のつづれさせ
 せはしげに庭ひとめぐり秋の蝶
◎哀しみの声かもしれぬ鉦叩
 虫集く淀君の塚人気なく
 御詠歌の終りししじま地虫鳴く
 秋の蚊とエレベーターに乗り合はせ
 雨欲しとちちろの声の夜もすがら
 ちちろ鳴くしばらく行かぬ家の裏
 蝉時雨三成滅びたる陣に
◎虫籠を置けばひとつの暮らしまた
 決り手は仏壇返し草相撲

洛艸
眞知子
瑛三
太美子
浩一郎
言成
道子
嵐耕
京子
洛艸
輝子
幹三
太美子
浩風
義雄
浩風
輝子
嵐耕
浩一郎
ゆたか
幹三
輝子
敏夫
義雄
輝子
道子
箕川
浩一郎
嵐耕
道子
ゆたか
輝子
眞知子
京子
嵐耕
幹三

浩一郎
幹三

林 直入 選

第483回 平成22年9月13(月)

兼題  秋の虫一切(直入、あや)
席題  卓上に 鶏頭、竜胆

◎素十句碑小さかりけり鉦叩
◎主いまだ知れぬ古墳や虫時雨
 寝そびれて土間の虫聞く朝まだき
 しんのやみ湖消して虫の声
 土色の蟷螂翔べり草打ちて
 芙蓉咲く母居ますごと話すごと
 デイケンズを読みしは昔夜のちちろ
◎信じ入る心の澄めば鉦叩
 西鶴の市井の墓や昼の虫
 新月の低さよ九月十一日
 落鮎の瀬に白かりき月の夜
 竜胆の深山に禁色惜し気なく
 虫籠を露地に配して老舗茶屋
 庭草の吐息おさまり虫すだく
 山上の小さな墓に濃竜胆
 虫集く母と二人のしまひ風呂
◎かまどうま足らざるものは足らぬまま
 虫すだく闇の深さを砦とし
 母看取り遅き湯殿のかまどうま
 夜半の雨止めばたちまち虫時雨
◎虫聞きに父と辿りし径辿る
 四棟の社宅のあとの猫じゃらし
 瑠璃色の声ふるはせて虫すだく
 子規の忌の近し鶏頭赤々と
 灯を消せば一人の旅のつづれさせ
 朝霧に角の伸びゆくスカイツリー
 島宿の湯殿は小さしちちろ鳴く
 時流れ妻と二人の夜の秋
 朝日射す早稲は田ごとに色を増す
 御詠歌の終りししじま地虫鳴く
 虫の音に調子を合はせ寝入りけり
 三日月に腰かけてゐた幼き日
◎ちちろ鳴くしばらく行かぬ家の裏
 死ぬことは大仕事なり虫時雨
 大台の峰の消息赤とんぼ
 留学へ明日発つ夕ベ初秋刀魚
◎虫籠を置けばひとつの暮らしまた
 晩学の心に沁むる虫の声
 かなかなに甦り来る思ひあり

直入
浩一郎
元彦
暁子
輝子
和江
直入
浩一郎
輝子
箕川
草机
瑛三
洛艸
浩風
嵐耕
輝子
眞知子
浩風
眞知子
敏夫
洛艸
道子
言成
浩一郎
嵐耕
和江
直入

和江
眞知子
ゆたか
和江
幹三
暁子
輝子
和江
浩一郎
洛艸
道子

長山あや 選

 去来墓探しあてたり鉦叩
 デイツケンズ読みしは昔夜のちちろ
 島宿の湯殿は小さしちちろ鳴く
 ひとりづつ二人で生きて虫の夜
 父の忌や邯鄲を聴くひとり旅
 人の声憂しと思ひき虫浄土

直入


あや

 

選者吟

アンカー

 斑鳩の三塔かけて鰯雲
 時計塔古りし母校や鰯雲
 木星を瞬かせたる鰯雲
 ビル街を抜けて広かり鰯雲
 棄つるもの棄て爽やかに老夫婦
 六地蔵にひと握りづつ今年米
◎兵卒の丈そろふ墓草の花
 今年また嫁の里から新米来
 葦原に色なき風の軌跡見ゆ
◎爽やかな裁定にして文句なし
◎どんと積む新米よそに古米炊く
◎何となく種無柿の寂しかり
 一面の蘆のどこかに何か棲む
◎木犀の今や大樹の香の母校
 ただいまと帰る子の声爽やかに
 講演の済みて爽やか空も澄み
 爽やかな言葉交して佳き朝
◎論文を書き終へ爽やかな一日
 尺貫の通じぬ世代今年米
 爽やかとゆかぬ日本の昨日今日
 白い月載せて流るる鰯雲
 お互ひに言ふことは言ひ爽やかに
 爽やかや朝の厨に風を入れ
 風雪に耐へしバス停蘆の原
 しみじみと大和の色よ柿熟るる
 新米を炊きて帰国の子を待てり
◎秋の日に背を押されたる散歩かな

輝子
洛艸
言成
瑛三
浩一郎
輝子
道子
元彦
言成
ゆたか
洛艸
暁子
眞知子

言成

あや

浩風
眞知子
輝子
ゆたか
輝子
和江
輝子
あや

林 直入 選

第484回 平成22年10月18(月)

兼題  新米・蘆(直入)爽やか・鰯雲(あや)
席題  卓上に 柿

 棄つるもの棄て爽やかに二人住む
 月光を透かして淡き鰯雲
 旧港の旧き燈台鰯雲
 新米の粥をすすりて癒ゆを待つ
 小鳥来て囃され家事の進みゆく
 留守がちの隣の柿は大豊作
 大和路は柿照る道の入日かな
 葦原に色なき風の軌跡見ゆ
◎暫くは蘆の底ひを舟進む
 年経りし陸軍墓地や鰯雲
 購へる家族の数の秋刀魚かな
 新米を積みて佐渡への連絡船
◎新米を握る粗塩手の平に
 何となく種無柿の寂しかり
◎爽やかや趣味に輝く妻とゐて
 一面の蘆のどこかに何か棲む
◎爽やかに山近づきし朝かな
 さはやかな鈴に祈りの讃岐道
 講演の済みて爽やか空も澄み
◎人声も櫓音も蘆に消えてゆく
 葦原や余呉湖は風のさやぐのみ
 鰯雲茅渟の海から葛城へ
 論文を書き終へ爽やかな一日
 蘆原やくらわんか舟この辺り
 菊日和駅舎の窓のみな開く
 お互ひに言ふことは言ひ爽やかに
 大垣の柿羊かんの竹を踏む
 方丈間能面白し秋の暮
 穂芒の銀に輝く角度あり
 病む人の一口食べる今年米
◎新米は何より美味し八十路なる
 新米を一合研ぐも余生かな
 斑鳩の三塔かけて鰯雲
 六地蔵にひと握りづつ今年米

浩一郎
洛艸
敏夫
箕川
太美子
言成
瑛三
言成
直入
道子
幹三
ゆたか
幹三
暁子
義雄
眞知子
箕川
瑛三

直入
浩風
言成

瑛三
幹三
ゆたか
箕川

太美子
暁子
嵐耕

輝子
輝子

長山あや 選

 人声も櫓音も蘆に消えてゆく
 難問の一つ解けたり爽やかに
 豪雨禍に諦めもせし初穂手に
 爽やかな言葉交して佳き朝
 新米を炊きて帰国の子を待てり
 爽やかに忘れてしまふことばかり

直入


あや

 

選者吟

アンカー

 青竹の囲ふ一叢花芒
 秋深み粛々すすむお髪剃
◎ひと叢の芒の銀にこぬか雨
 小さきは小さき花に秋の蝶
 躙り口近く茶の花二三輪
 石橋をくぐる小流れ初紅葉
◎わがたつる足音ばかり秋の苑
 折れ重みもつれ合ひつつ敗蓮
 敗荷の微かにゆれて雨意近し
 萩に来し黄蝶もゆるる風の中
 梢より黄葉降り初むる大銀杏
 蓮覆ふ池に融の供養塔
 雨意ふふむ池畔しつとり蔦紅葉
 秋時雨去りて鳥語のしきりなる
◎ひたすらに咲く草の花踏むまじく
 高瀬川越え艶やかに石榴の実
 ハロウイーンのかぼちや並べる数珠屋町
 敗荷の干戈交へし跡めきし
◎期待せし台風一過とはゆかず
 名苑の秋盗むかに泡立草
 神の旅浄める雨の粛々と
◎穏やかに黄葉るを待つ大銀杏
 京七条置屋七軒秋簾

洛艸
輝子
眞知子
浩風

言成
暁子
洛艸
言成
輝子
眞知子

浩風
瑛三
暁子
敏夫
輝子
浩風
言成
瑛三
言成

浩風

林 直入 選

第485回 〈吟行句会〉平成22年10月31(日)

吟行地  枳殻邸・東本願寺
句会場  キャンパスプラザ京都

 五百畳の本堂隈無く秋灯
 鴉来ず榠樝堅きを知つてをり
 貼り替へてありし障子にはや小穴

直入

 

選者吟

アンカー

 大根洗ふ門川の水豊かなり
 尼寺の山茶花ひそと白一重
 蓮根掘やうやう抜ける脚をまた
◎落ちさうで落ちぬ檪の枯葉鳴る
 側で見る人も力みて蓮根掘
 黄菊白菊そのほかは無き瓶ぞ
◎よろづ屋に熊除の鈴売られをる
 泥海も生計の場なり蓮根掘 
 泥の顔見合ひて笑ふ蓮根掘
 現し世に別離の序章枯葉舞ふ
 石蕗の花訪ねし人は留守なりし
 叡山と秋日和あり我が書斎
 いつの間に山茶花紅をふふみしや
 大根洗ひ日の輝きを積み重ね
 嵩あれど枯葉の頼りなき重さ
◎山茶花の籬や妻と棲み古りて
 かさこそと枯葉舞ひ散る裏通り
 蓮根掘り泥に品格ありにけり
 蓮根掘る倶利迦羅颪背に負うて
◎鈍色の空重たかり石蕗の花
 蓮根掘るその泥水で手を洗ひ
◎灯籠の後ろを灯す石蕗の花
 ふんばればますます深く蓮根掘
◎大根を夕日に染めて洗ひ上ぐ
 風の夜や枯葉降る音走る音
 左右の足バランスとりて蓮根掘
 神在す池の恵みの蓮根掘る
◎大根を洗ふ下手に洗濯場
 山茶花の籬は旧居のよすがなる
 しがみつく枯葉のやうな余生かな

浩風
瑛三
浩一郎
洛艸
洛艸
浩一郎
幹三

洛艸
箕川
眞知子

浩一郎
あや
眞知子
浩一郎
元彦
嵐耕
あや
瑛三
敏夫
言成
ゆたか
あや
あや
浩風
嵐耕
元彦

洛艸

林 直入 選

第486回 平成22年11月15(月)

兼題  山茶花・蓮根掘る(直入)枯葉・大根洗ふ(あや)
席題  卓上 白菊・石蕗の花

 尼寺の山茶花ひそと白一重
 蓮根掘やうやう抜ける脚をまた
 山茶花の白緊張を解きて散る
 落ちさうで落ちぬ檪の枯葉鳴る
 一枚の枯葉放さぬ枝のあり
 朴落葉曰くありげに円座なす
 泥を愛で泥の恵みの蓮根掘る
 散らす風なだめなだめて枯葉掃く
 かがやける顔して大根洗ひ終ふ
 よろづ屋に熊除の鈴売られをる
 山茶花の咲きやまずして散りやまず
 山茶花の夜目にもしるき散華かな
 泥海も生計の場なり蓮根掘
 現し世に別離の序章枯葉舞ふ
◎大根洗ふ比良の湧水門に引き
 石蕗の花訪ねし人は留守なりし
 叡山と秋日和あり我が書斎
 山茶花や高層ビルの中庭に
 氏子らが寄りうぶすなの蓮根掘り
 大根を洗うて干してどつこいしょ
 山茶花と泉水残る古き宿
 散り敷きてさざんか尚も蕾むかな
◎押し入れに日向の匂ふ冬仕度
◎山茶花の籬や妻と棲み古りて
◎庭の石蕗咲きしと語る人は亡く
 蓮根掘り泥に品格ありにけり
◎枯葉踏む音に埋れてしまひけり
 甦る青春の日や枯葉道
 白菊の白とこしへの祈りとも
 黄沙にはか菊日和とは言いがたく
 初冬や魚の腹を裂く厨
 はにかみて袖振りまわす七五三
 散歩道ふいに蒲団を叩く音
 小春日や見渡す限り虚空にて
◎山うたた荒涼飾る檀の実
 山茶花の窓辺術後の人眠る
 枯葉舞ふシャンゼリゼーも大原野も

瑛三
浩一郎
直入
洛艸
直入
箕川
嵐耕
眞知子
幹三
幹三
暁子
瑛三

箕川
洛艸
眞知子

暁子
道子
瑛三
敏夫
箕川
京子
浩一郎
暁子
嵐耕
京子
暁子
道子
瑛三
幹三
京子
道子
京子

京子
箕川

長山あや 選

 大根洗ふ大小曲り三つに分け
 掘り損ね折れし蓮根埋め戻す
 一枚の枯葉放さぬ枝のあり
 風の夜や枯葉降る音走る音
 蓮根掘る倶利迦羅颪背に負うて
 大根洗ひ日の輝きを積み重ね

直入


あや

 

選者吟

アンカー

 鐘の音や一際目立つ冬紅葉
 鮟鱇の貌なつかしき人をふと
 大霜を纏ひて畦の捨案山子
 霜晴の日ざし透けゐる御堂筋
◎霜晴や風の子たちの遊び声
 朝市のまだ濡れてゐる赤蕪
◎頬にまで霜の降り来る夜道かな
 大鮟鱇獲れひさびさの大糶に
◎行年や未だ肩の荷を下せずに
 冬天に流星を待つ人の声
 寒さてふ透きとほるもの身にまとふ
 ほこほこと堆肥息づく霜の朝
◎息白く短き声に糶り落す
 鮟鱇の何か言ひ出しさうな口
 冬空をより広くして鳶舞へり
◎今度こそ又日記買ふ八十路かな
◎笑ふとき金歯の見える飾売
 冬空にたゆたふ雲ある威厳
 蕪鮨故郷の雪の香をつれて
 堂裏は昼を過ぎても霜解かず
 冬空を柔らげ丸き昼の月
 第一打霜を踏み行くフェアウエイ
 昨夜の星大地に凝りて今朝の霜
 身を削がれゆく鮟鱇の眼かな
 赤蕪に下賀茂の土ついてをり
◎包丁のひるむ蕪の白き肌
 冬空を仰ぐ尖れる喉仏
 霜雫朝刊すこし濡れてをり

京子
京子
洛艸
京子
嵐耕
洛艸
瑛三
洛艸
太美子
道子
あや
浩風
浩一郎
幹三
敏夫
道子
幹三
言成
あや
洛艸
敏夫
元彦
香月
あや
幹三
暁子
幹三
輝子

林 直入 選

第487回 平成22年12月20(月)

兼題  冬空・鮟鱇(直入)蕪・霜(あや)
席題  卓上に ポインセチアと冬薔薇、蝋燭

 霜晴や世界のオザワ復帰なる
 社家の土間どんと積まれし蕪かな
 冬空に皇帝ダリア君臨す
 大霜を纏ひて畦の捨案山子
 霜晴れの日ざし透けゐる御堂筋
 紀州路や海より蒼き冬の空
 枯草の中に坐す猫何思ふ
 霜柱遠き日のごと踏んでみる
 頬にまで霜の降り来る夜道かな
◎冬空の重さ背負ひて木地の村
 冬日向チェロの音色の中に居る
◎日入れば枯野は海のごとくなり
 引かれ来て土間に置かれし蕪二本
◎冬空に力んでをりぬ鬼瓦
◎蕪三株以上は縄に括り得ず
 冬空の明暗日本の表裏
◎杣道の踏み応へある霜柱
 出漁の汽笛や明けの寒天に
 真っ白なシチュー真白な蕪浮く
 ほこほこと堆肥息づく霜の朝
◎息白く短き声に糶り落す
 鮟鱇の何か言ひ出しさうな口
 今度こそ又日記買ふ八十路かな
 ポインセチア逃げず向き合ふ色と色
 蕪汁子と久々の夕餉かな
 句座におくブーケに香る冬薔薇
 鮟鱇の口から地獄覗き見る
 冬空のどこかほころび霰散る
 冬空や自問自答で暮れ行きぬ
 霜踏んで男糶場へ集ひ来る
 ピシピシと音なき音や霜降る夜
 霜除にいのち静かに育ちゆく
 卓上に柚子を並べて納め句座
 包丁のひるむ蕪の白き肌
 煮凝や人に悩みの二つ三つ

嵐耕
洛艸

洛艸
京子
和江

道子
瑛三
和江
京子
暁子
敏夫
瑛三
直入
洛艸
元彦
浩一郎
暁子
浩風
浩一郎
幹三
道子
言成
京子
言成
敏夫
眞知子

浩一郎
眞知子
太美子
元彦
暁子
幹三

長山あや 選

 聞きてもう忘れ鮟鱇の道具の名
 通学の四五人踏めば消えし霜
 星詳らかなる冬の空となる
 身を削がれゆく鮟鱇の眼かな
 寒さてふ透きとほるもの身にまとふ
 蕪鮨故郷の雪の香をつれて

直入


あや

 

選者吟

アンカー

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