こんなにも明るきものか五月晴
老鶯をキャンパスに聞く日曜日
若竹よどこまで伸ぶる空深し
◎生涯を学び続けむ楷若葉
松落葉建学の碑に今日も積む
夏の雲テニス部の猛練習日
黄楊の花目立たず咲きて蜂を呼ぶ
◎醜草と呼ぶには可憐ひめじおん
青春の像の指さす五月晴
小判草三十七年ぶりの坂
夏帽子行くキャンパスの日曜日
◎あるはずのもの見つからず時鳥
学園の池に一羽や通し鴨
キャンパスの木々のはざまの草いきれ
アカペラのコーラス聞こゆ若葉風
母校新樹マドンナなりし人は亡く
萍に来てさざ波のとまりけり
学舎を呑まむばかりに夏木立
◎掲示板の画鋲はづれてゐて暑し
日曜のキャンパス静か青葉風
◎友だちの下宿の跡の夏薊
尾ひれふり折々に浮くにごり鮒
この駅に苦き思ひ出百日紅
青春の像やひとひら竹落葉
時折は亀水に入る薄暑かな
四十雀学校一の高き木に
ゆたか
道子
輝子
暁子
輝子
言成
眞知子
瑛三
瑛三
幹三
輝子
幹三
道子
あや
幹三
暁子
暁子
輝子
幹三
言成
幹三
道子
幹三
敏夫
瑛三
幹三
林 直入 選
第478回 〈吟行句会〉平成22年5月30日(日)
吟行地 大阪大学豊中キャンパスとその周辺)
句会場 大阪大学教育実践センター セミナー室
キャンパスにすくすく育つ今年竹
◎記念樹の梅の実一つ拾ひけり
生涯を学び続けむ楷若葉
松落葉建学の碑に今日も積む
夏の雲地にテニス部の猛練習
◎思惟せる待兼童子若葉風
庭園の深きに入れば青葉冷
キャンパスに浴衣コンテストの予告
小判草三十七年ぶりの坂
万緑の待兼山や若き声
◎水馬の輪や次々と思ふこと
蟇鳴きつづく他池静か
緑蔭に坐す半世紀前のわれ
あるはずのもの見つからず時鳥
白雲のいるか泳がせ風は夏
青春は苦しと思ふ椎の花
アカペラのコーラス聞こゆ若葉風
薫風に眉昂然と青春像
一山をキャンパスとせり若葉風
阪大坂老は若葉をゆつくりと
日曜のキャンパス静か青葉風
大高の寮歌碑暗く夏木立
◎若き日の吾等の像や風薫る
友だちの下宿の跡の夏薊
尾ひれふり折々に浮くにごり鮒
若葉して弊衣破帽の夢のあと
時折は亀水に入る薄暑かな
◎青春の軌跡緑の丘に建つ
老鶯や山のキャンパス日曜日
◎草矢打ち黙してゐたりこの丘に
瑛三
言成
暁子
輝子
言成
元彦
暁子
直入
幹三
瑛三
幹三
元彦
暁子
幹三
言成
輝子
幹三
瑛三
道子
ゆたか
言成
敏夫
直入
幹三
道子
道子
瑛三
言成
道子
輝子
長山あや 選
若き日の吾等の像や風薫る
テニス打つ音に老鶯紛れなく
キャンパスに残る古池濁り鮒
青春の像へつつじの花明り
キャンパスの木々のはざまの草いきれ
五月晴手庇の手に日の重し
直入
あや
選者吟
水槽の目高気づけば増えており
◎竹落葉行き届きたる竹林
竹林を育む風や竹落葉
風鈴を子守の唄に育ちけり
群目高はぐれ目高も揺れ動く
風のなく音なく竹の葉の散り来
風鈴をつけてケーブルカーの発つ
◎どの風鈴選りても褒めてゐる売子
◎一瞬の姿眩ます目高かな
これよりは山城の国竹落葉
◎売れ残る風鈴風をほしいまま
風に舞ひ雨に叩かれ竹落葉
◎足裏に嵯峨野の声や竹落葉
風薫る七十二色の色鉛筆
百の音風に応ふる風鈴屋
◎はびこれるものはびこらせ梅雨の庭
風吹けば音の渦巻風鈴屋
◎風鈴のむかしの音をひとつ買ふ
きりきりと時空廻して竹落葉
風鈴の音に目覚めし二度寝かな
ひそと散りかさこそ積る竹落葉
風鈴や夕仕度まで自由の身
コーラスの響くキャンパス風薫る
雨うんざり未央柳の蕊垂るる
風鈴の百を鳴らして一つ売る
眞知子
元彦
嵐耕
輝子
敏夫
輝子
洛艸
浩風
香月
瑛三
浩風
嵐耕
瑛三
暁子
瑛三
暁子
翠
浩一郎
あや
言成
あや
暁子
言成
瑛三
浩風
林 直入 選
第479回 平成22年6月21日(月)
兼題 風薫る、竹落葉(直入) 目高、風鈴(あや)
席題 卓上に 未央柳、百合、半夏生、蛍袋
落葉しきり竹林の黙つつむ闇
風鈴の音色変りし隣かな
一人居に風鈴の音さびしかり
◎踏み台の無く風鈴を吊る高さ
はやぶさや苦節七年風薫る
地鎮祭若き夫婦に風薫る
だんだんに寄りては目高わつと散る
◎蟻を見る子を待つ母は空を見る
重力の竹落葉とて隔てなく
風薫る幹を抱へてみてをりぬ
母の居間なりし風鈴吊りにけり
◎慰みなりし風鈴の遺されて
敷き積る竹落葉踏み野々宮へ
足裏にも嵯峨野の声や竹落葉
風鈴の百を鳴らして一つ売る
風薫る七十二色の色鉛筆
風薫る看取れる息の浅かりし
売り声の要らぬ風鈴風が売る
長谷寺に音立てて舞ふ竹落葉
◎風鈴のむかしの音をひとつ買ふ
竹落葉忘れし頃にひらひらと
◎路地の消え風鈴の消えくらし消え
◎参観日終へし父と子風薫る
風鈴を吊り風の道ありし日々
薫風や會心の事反芻す
風鈴の吊られしままに家毀つ
◎橅林ひと揺らしして風薫る
群れてゐるやうで離れゐる目高
静かなる過去の堆積竹落葉
眞知子
洛艸
太美子
直入
箕川
瑛三
浩一郎
幹三
元彦
幹三
浩一郎
太美子
香月
瑛三
浩風
暁子
嵐耕
浩風
言成
浩一郎
元彦
輝子
眞知子
輝子
箕川
翠
敏夫
浩風
太美子
長山あや 選
目高飼ふ耳掻ほどの餌やりて
難ホールパーで凌ぎし風薫る
竹落葉踏み乙訓の音生る
彼に見えわれには見えぬ目高の子
きりきりと時空廻して竹落葉
汝がつとの風鈴うたふ汝が挽歌
直入
あや
選者吟
夜の板戸かたかたかたと雪を呼ぶ
雪晴れの夜に粲然と北斗の柄
手の甲に受けつくづくと六つの花
雪しづり雪吊縄の弛みけり
◎降る雪も水の惑星なればこそ
自動ドア雪もろともに舘に入る
エアメール雪山越えて届きけり
庭少し広く見せたる昨夜の雪
雪なつかし歩幅の広き父もまた
偲ぶかな雪の深さを問ふ子規を
◎葉隠れといふには余る実万両
北山と見る間に洛中雪景色
掻き集めやつと出来たる雪うさぎ
雪の夜は名のある星の眠るかな
◎万両の紅は日陰に似合ふ色
雪吊に百万石の空重し
念願のかなひて雪の永平寺
◎吸ひし音みな放ちつつ雪とくる
◎雪うさぎ元気なうちに野へ還す
天井絵の龍の眼の凍てし寺
楽章の合ひ間に咳の二つ三つ
貌に似ぬ保母の嬌声雪合戦
◎雪折れといふ木の叫びひびく闇
◎時折は玻璃戸を拭ひ雪見酒
小さくとも目鼻整ふ雪だるま
洛艸
浩風
言成
洛艸
言成
暁子
嵐耕
言成
眞知子
あや
言成
瑛三
輝子
嵐耕
言成
瑛三
義雄
眞知子
あや
京子
幹三
浩風
あや
言成
敏夫
林 直入 選
第472回 平成22年1月18日(月)
兼題 雪一切(直入、あや)
席題 卓上に万両
◎昨日掻き今日も又掻く雪の嵩
窓の灯へ雪幸せを積むならん
◎さらさらと竹に音せり夜の雪
積む雪に足跡つけし獣何
深雪晴退院の日の待遠し
降る雪も水の惑星なればこそ
一つまみ雪も加へしハイボール
庭少し広く見せたる昨夜の雪
とんとんと叩き落すや門の雪
雪掻や朝餉の前の一仕事
雪の山見ゆる軒より雪雫
雪の夜音なきことの不安かな
古墳てふ丸き丘あり雪積る
この降りやう根雪となると古老言ふ
箱根駅伝一望の雪の富士
◎眼裏に宵の満月除夜の鐘
きしきしと雪踏むわらべ心かな
天空に並びヒマラヤ山眠る
吹雪く夜にがんの話はよしましよう
◎庭畠の菜を足してたく薺粥
初日記一句書きとめ終へにけり
吸ひし音みな放ちつつ雪とける
◎茅屋に日ざし溢れて屠蘇祝ふ
昭和はや雪滾々と夜の海
◎雪の野に楮を晒す和紙の里
万両の実のひつそりと華やげり
雪つぶて雪に投げれば音もなく
直入
浩一郎
ゆたか
眞知子
嵐耕
言成
直入
言成
ゆたか
瑛三
浩一郎
暁子
幹三
洛艸
元彦
京子
道子
義雄
嵐耕
道子
京子
眞知子
箕川
浩一郎
瑛三
元彦
幹三
長山あや 選
街浄めたる雪汚す雪となる
赴任地に馴れ雪道にまだ馴れず
明日はバス来ぬかも知れぬ雪の宿
雪折れといふ木の叫びひびく闇
雪うさぎ元気なうちに野へ還す
偲ぶかな雪の深さを問ふ子規を
直入
あや
選者吟
◎幣束の少し汚れし一月尽
法鼓鳴り寒灯の闇膨らます
どこまでも添い遂げるかの番鴨
片時雨傘をさそうかさすまいか
鷹一羽陵の山統べてをり
人形(ひとがた)を納めて待つや春立つ日
河内野に春を呼び込む雨ならむ
◎みくじ引き授かる安堵春隣
太師像水仙の香に立たれけり
枯葦の蔭に水音禽棲まふ
春遠しシャッター続く商店街
出土品厳然とあり冬灯
かつかつと硬き音立て寒の雨
鐘冴えて伽藍の闇の深かりし
◎そこからがかなり歩きし寒の雨
雨滴より大きく紅く梅ふふむ
◎曇りても蝋梅の黄の輝ける
木々の幹濡れゐず寒の雨静か
香煙や寺苑裸木ばかりなる
◎朽ちかけし堂にも仏冬の雨
みささぎの濠に華やか鴨の陣
◎二羽の鳰潜り同心円二つ
蝋梅の名残に細き雨止まず
寒梅を一輪見つけ頬ゆるむ
言成
あや
元彦
言成
輝子
暁子
あや
嵐耕
嵐耕
言成
康子
暁子
敏夫
あや
元彦
あや
言成
敏夫
輝子
暁子
箕川
輝子
学
庸介
林 直入 選
第473回 〈吟行句会〉平成22年1月31日(日)雨
吟行地 葛井寺・辛国神社・仲哀天皇陵とその周辺
句会場 藤井寺市生涯学習センター 研修室
もう落つる葉なきに掃けり寺男
◎仲哀陵塒としたる寒鴉
春近し藤枝こぞりて上を向く
◎寒禽の満つ前方も後円も
鷹一羽陵の山統べてをり
五世紀の天皇陵や鴨の鳴く
人形(ひとがた)を納めて待つや春立つ日
冬靄の二上山ある句座の窓
◎冬の雨二上を消し信貴を消し
大師像水仙の香に立たれけり
陵の鴨また宮内庁所管
待春の降りみ降らずみ陵巡る
寒空に鯱逆立ちの四脚門
◎一枯木突つ立つのみの小古墳
句帳手に弁当持参春隣
◎くしゃくしゃの大藤棚も春を待つ
枯落葉古墳に隣る幼稚園
◎二羽の鳰潜り同心円二つ
朽ちかけし堂に仏や冬の雨
尋ねゆくみささぎの道冬の梅
魂鎮め二上山の眠りかな
ぽつねんとお百度石や冬の雨
直入
言成
暁子
直入
輝子
嵐耕
暁子
洛艸
輝子
嵐耕
直入
暁子
洛艸
直入
嵐耕
直入
元彦
輝子
暁子
道子
道子
暁子
長山あや 選
突然に法鼓一月尽の寺
雨降れば樹間にぞめき寒雀
寒禽の満つ前方も後円も
鐘冴えて伽藍の闇の深かりし
雨滴より大きく紅く梅ふふむ
河内野に春を呼び込む雨ならむ
直入
あや
選者吟
蕗の薹にがい若さの集つて
山焼きの勢子にまじれる若女将
立春や琵琶湖の白き波頭
壮大なドミノ倒しや山を焼く
さやさやと風に音たつ干若布
落日の燃えつきたるや実朝忌
実朝忌車窓に見放(さ)く小島かな
鬼といふ我が分身に豆を撒く
法螺貝の残響空にお山焼
◎石段に赤き実こぼる実朝忌
◎朝な朝な庭すみに待つふきの薹
あそこなら蕗の薹あるきつとある
伊豆の海くまなく晴るる実朝忌
◎浪音の今日一段と実朝忌
山焼の火の消えゆけば星生れ
年の豆撒いて戸締り固くせし
時の使者との貌持ちて蕗の薹
松明の走り山焼く火の走る
◎山火見し夜の眠りの深からず
お山焼鹿の目すこし潤むかに
山焼のフィナーレとして俄雨
◎人も鬼も住みにくき世よ豆を撒く
山焼の煙渦巻き竜となる
荒るるまま置かれし庭に蕗の薹
◎柔かき色見せ硬き蕗の薹
孫は未だよちよち歩き蕗の薹
豆撒きや垂れ目の鬼の面向けて
豆撒いてみても二人のほかにゐず
畦道のゆるびごこちや蕗の薹
豆を撒く当たりしは何庭の闇
浩一郎
瑛三
京子
康子
道子
浩風
箕川
眞知子
京子
幹三
道子
眞知子
瑛三
暁子
嵐耕
言成
太美子
香月
浩風
洛艸
洛艸
眞知子
敏夫
言成
敏夫
義雄
輝子
浩一郎
浩風
太美子
林 直入 選
第474回 平成22年2月15日(月)
兼題 豆撒き、山焼く(直入)、蕗の薹、実朝忌(あや)
席題 卓上に水菜、菠薐草、菊菜(春菊)、菜の花
産土の宮にて賜ばる年の豆
立春や琵琶湖の白き波頭
逃げ惑ふいのちあるらむ山を焼く
茅場とや山焼かれたるあのあたり
さやさやと風に音たつ干若布
実朝忌車窓に見放(さ)く小島かな
◎かまはれぬまま終りけり春の風邪
久々に窓開け菊菜茹でにけり
鎌倉の幾春秋や実朝忌
法螺貝の残響空に山焼ける
草千里焼野に細き雨やまず
朝な朝な庭すみに待つふきの薹
山焼きの一隅残り鳥遊ぶ
野に朽ちしものを分け出で蕗の薹
◎焼山の匂ひ立たせし昨夜の雨
山焼の火の消えゆけば星生れ
年の豆撒いて戸締り固くする
山焼きて回生祈る過疎の村
松明の走り山焼く火の走る
回廊に光燦々菜の花忌
◎年の豆三粒残して供へけり
山火見し夜の眠りの深からず
大地割り目覚めるみどり蕗の薹
火の国の山焼勢ふ闇の空
山焼きのフィナーレのごと驟雨かな
なほ海を渡らんおもひ実朝忌
むらさきは仮の色なり蕗の薹
◎山焼の太古のままの火色かな
万葉の歌のしらべや実朝忌
豆撒きて鬼も輪に入る保育園
◎水車小屋朽ちたるままに蕗の薹
◎山焼のもえ立つ炎風を呼ぶ
浩風
京子
太美子
輝子
道子
箕川
浩一郎
暁子
太美子
京子
輝子
道子
敏夫
浩一郎
暁子
嵐耕
言成
翠
香月
太美子
元彦
浩風
嵐耕
瑛三
洛艸
浩一郎
直入
暁子
道子
敏夫
洛艸
真知子
長山あや 後選
豆撒の豆が背中に入りしまま
お山焼惜しみつつ地下駅に入る
むらさきは仮の色なり蕗の薹
直入
選者吟
鴨引きしひろき池面に夕日影
畑打ちて大地呼吸をとりもどす
◎心には待兼いつも春の山
畑打ちてこの世の憂さを忘ればや
◎空の声地の声を聞き畑を打つ
曲水を草書でたどる蜷の道
藻に飽きて岸の草食む残鴨
引鴨を見送る空に昼の月
◎畑打の手を止め石を放りたる
活けられしにほひすみれを皆が嗅ぐ
なだらかに打ち重なりて春の山
饒舌のまだ始らぬミモザの黄
平和なる御代の続けり蜷もまた
神の池水濁さずに蜷の道
畑打つといふといへども十坪ほど
蜷動く動かずと見せまた動く
◎畑打やまづ二畝の土黒し
雨ごとに色直しして春の山
◎春の山光吸ひこみはね返し
時化の日の海人はほまちの畑を打つ
自らハミングも出づ春の山
帰る鶴山河まはして去りにけり
鴨引きて広く寂しくなりし池
◎朝まだき香の澄みてをり沈丁花
神の池に住む蜷なれば神の蜷
◎畑打ちの二人がちよつと立ち話
鴨引きて動くものなきお濠かな
鴨引いて家鴨の池に還りけり
太美子
敏夫
浩一郎
ゆたか
太美子
瑛三
元彦
眞知子
幹三
言成
暁子
あや
嵐耕
香月
浩風
敏夫
太美子
言成
眞知子
浩風
洛艸
あや
眞知子
太美子
香月
浩風
暁子
翠
林 直入 選
第475回 平成22年3月15日(月)
兼題 引き鴨、畑打(直入) 春の山、蜷(あや)
席題 卓上に 椿、匂菫、花ミモザ、姫辛夷(幣辛夷)
◎鴨引くや眷属と言ふ一単位
◎斎場はその中腹に春の山
空の声地の声を聞き畑を打つ
曲水を草書でたどる蜷の道
引き鴨の万里を帰る羽づくろひ
畑打の手を止め石を放りたる
◎春の山地の深きより動き初む
己が水尾断ち切つて鴨翔ちにけり
蜷の水音なく流れをりにけり
◎橅の木の動き出したり春の山
引鴨の夜も鳴き交ふ里の川
畑打つといふといへども十坪ほど
◎蜷動く動かずと見せまた動く
引き鴨の青艶やかに集ひけり
◎春川の音と思ひて橋渡る
鴨引いて恾然と水ひろびろと
もうないと思ひし引鴨又発ちし
畑打つや土もこもこと動き出す
鴨引いてさびしくなりし山の池
鴨かくも高く引きゆく故郷かな
鍬を錆びさすは恥なり畑打つ
明日引くや鴨のつぶやき声高に
畑打ちて大地呼吸を始めたり
鴨引いて家鴨の池に還りけり
直入
暁子
太美子
瑛三
浩風
幹三
眞知子
浩風
直入
敏夫
元彦
浩風
敏夫
香月
道子
浩一郎
ゆたか
暁子
道子
浩一郎
直入
輝子
敏夫
翠
長山あや 選
春の山に忘れて来たる魔法瓶
菜を洗ふ水にころころ流る蜷
鍬を錆びさすは恥なり畑打つ
畑打ちて土の香といふ重きもの
鴨引く日近きみづうみそぞろなる
日の当る方へ方へと蜷の道
直入
あや
選者吟
若芝に走る子跳ぶ子寝転ぶ子
◎今年又八十八夜に摘みし茶を
出代の太き呼声鮮魚店
新参のふと出る方言いとしかり
若芝のきつき芝めに難パット
◎どことなく何時となく揺れ白木蓮
出代りのしをらしげにも宣誓す
若芝に抱き来しややを転がしぬ
若芝に弾み止まざる群雀
老どちも足投げ出して春の芝
御目見得と言へど臆せぬ面構へ
◎出代に少し小さき白衣かな
万鈴の鳴り出しさうな花馬酔木
茶柱を愛づる八十八夜かな
ひともとの花馬酔木もて住み古れる
ルーキーと呼びて出代り囃さるる
◎花馬酔木乾きし音色風に乗せ
◎やうやくに役立つ頃に出代りぬ
馬酔木咲く狭庭一隅薄明かり
追悼の鐘にさゆらぐ花馬酔木
花馬酔木房にたつぷり雨雫
出代や要領の得ぬ電話口
進む過疎いよよ八十八夜寒
夕暮は鹿も寂しげ花馬酔木
若芝に激論交はす学徒の輪
庭隅に馬酔木の花の艶めける
言成
京子
元彦
洛艸
義雄
道子
箕川
暁子
あや
道子
洛艸
康子
道子
義雄
浩一郎
箕川
太美子
暁子
敏夫
あや
嵐耕
康子
浩風
暁子
洛艸
嵐耕
林 直入 選
第476回 平成22年4月19日(月)
兼題 出代、若芝(直入)馬酔木の花、八十八夜(あや)
席題 卓上に つつじ、アイリス、山吹、いちはつ
◎新参の語尾の隠せぬ国訛
末黒野を歩けば立てる火の匂ひ
野仕事の八十八夜灯しをり
花馬酔木揺らす幼きピアノの音
御霊社の霊しずめんと一八咲く
出代の国際宇宙ステーション
新参にまづ叩き込む家訓かな
◎産声の今かと八十八夜なる
出代に少し小さき白衣かな
出代や船場居よいか住みよいか
青春のフォークダンスや春の芝
茶柱を愛づる八十八夜かな
ひともとの花馬酔木もて住み古れる
ルーキーと呼びて出代り囃さるる
馬酔木咲く小径抜ければ白亳寺
◎アリバイのごと若芝を靴につけ
故里の八十八夜寒に遭ふ
禅刹の宝前低き花馬酔木
◎やうやくに役立つ頃に出代りぬ
◎一斉に大樹の芽吹く虚空かな
暗闇に八十八夜の木々匂ふ
◎出代のなき主婦業の半世紀
一八の火除けを信ず濃紫
戒壇院出れば馬酔木の花ばかり
若芝に激論交はす学徒の輪
風は春罠の仕掛を外しに出
今年又八十八夜に摘みし茶を
直入
幹三
嵐耕
暁子
瑛三
言成
洛艸
嵐耕
康子
浩風
翠
義雄
浩一郎
箕川
言成
暁子
直入
洛艸
暁子
京子
太美子
翠
直入
輝子
洛艸
浩一郎
京子
長山あや 選
新参の語尾の隠せぬ国訛
官幣社にも郷社にも花馬酔木
新参のドラマそのままなる教師
若芝に弾み止まざる群雀
追悼の鐘にさゆらぐ花馬酔木
若芝やわざと転んで見せる子ら
直入
あや
選者吟
卯の花を裳裾に雨の磨崖仏
卯の花のこぼれて雨に流れけり
通学の駆くる銀輪新樹道
逢坂や知るも知らぬも蝉丸忌
色まぶし風を仰げる新樹晴
行厨に蕊散らすなる若楓
蝉丸忌若き盲目ピアニスト
◎袋掛終り満艦飾の果樹
結願の寺は明るし新樹晴
蝉丸忌身すぎ世すぎの芸もなく
新樹光胸の奥まで染まりけり
卯の花のさかりをぬらすこぬか雨
◎やはらかき音する夜の新樹かな
光なき御一世とや蝉丸忌
絵馬ひとつ残る拝殿蝉丸忌
◎口中に春の溢れし欠伸かな
◎蝉丸忌眼を閉ぢて聴く山の音
馬酔木咲く狭庭一隅薄明かり
◎アルプスの峰まだ白き袋掛
叡山のはるか新樹の真近なる
いぶせしと卯の花詠みし虚子のこと
袋掛てふもほまちの小半日
嫁若しラジカセ脇に袋掛
子らの声弾ける水辺新樹晴
袋掛け期待と不安包み込む
傷癒えて新樹に弾む万歩計
◎若楓ばかりに風の吹くことよ
石に彫る和歌美しき蝉丸忌
手を休め海を見てをり袋掛
ストレスを新樹の山に置き忘れ
京子
暁子
嵐耕
香月
嵐耕
浩一郎
暁子
洛艸
浩風
瑛三
輝子
眞知子
幹三
あや
道子
幹三
輝子
敏夫
洛艸
敏夫
あや
浩風
暁子
あや
翠
義雄
幹三
道子
幹三
庸介
林 直入 選
第477回 平成22年5月17日(月)
兼題 新樹、袋掛(直入) 卯の花、蝉丸忌(あや)
席題 卓上に 卯の花、紅うつぎ、ばら、すいかづら、紫蘭、
◎名眼科医も身罷られ蝉丸忌
御堂筋新樹やる気の湧いて来し
逢坂や知るも知らぬも蝉丸忌
収穫を予見する数袋掛
蝉丸忌若き盲目ピアニスト
卯の花やハモニカの音遠ざかる
大天守浮かべ新樹の海晴るる
袋掛終り満艦飾の果樹
◎地下鉄の不意に新樹の町走る
蝉丸忌身すぎ世すぎの芸もなく
新樹光胸の奥まで染まりけり
口笛の卯の花垣に添うて行く
◎やはらかき音する夜の新樹かな
卯の花やはるか底より渓の音
新樹いま緑吹き出ししたたらせ
木洩日を受け卯の花の白滲む
新しきビルが新樹の中に建つ
絵馬ひとつ残る拝殿蝉丸忌
◎蝉丸忌眼を閉ぢて聴く山の音
◎水面にも宵の明星夏に入る
御堂筋新樹の蔭の弁当屋
手庇に琵琶湖は糢糊と蝉丸忌
車椅子の人見上げゐる新樹かな
袋掛期待も不安も包み込む
若楓ばかりに風の吹くことよ
◎新樹燃ゆ閑谷黌の明り窓
新樹の香籠めて降り来る夜の帳
吾にありし姉想ひけり蝉丸忌
逢坂に徐行の電車蝉丸忌
◎卯の花や庭の中なる古墳の碑
鳰の海雨降りつづく蝉丸忌
直入
直入
香月
言成
暁子
輝子
瑛三
洛艸
暁子
瑛三
輝子
幹三
幹三
洛艸
眞知子
敏夫
直入
道子
輝子
言成
輝子
言成
箕川
翠
幹三
浩風
太美子
浩一郎
直入
道子
瑛三
長山あや 選
紅うつぎとは山出しの紅の色
御堂筋新樹やる気の湧いて来し
名眼科医も身罷られ蝉丸忌
いぶせしと卯の花詠みし虚子のこと
光なき御一世とや蝉丸忌
子らの声弾ける水辺新樹晴
直入
あや
選者吟
柿若葉、若楓
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