OSAKA UNIVERSITY GUIDEBOOK 2015
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特集教育システム教育環境インフォメーションPersonよくある質問?!中川先生は、どんな高校生でしたか?ユースホステル部に所属し、アルバイトでお金を貯めては旅行に行っていました。QA 貼るワクチンの標的となる皮膚は、表面に角質層があり、その下に免疫を誘導するにあたって重要な樹状細胞が数多くいます。樹状細胞は生体内に侵入してきた病原体などの異物を捕食し、免疫応答を誘導する司令塔の役割を果たしています。従ってこの樹状細胞にワクチン抗原を送り届けることができれば、高い感染予防効果が得られると考えられます。しかし、角質層は外から異物が侵入するのを阻止する物理的バリアとして機能しているため、高分子であるワクチン抗原を単に皮膚に塗布するだけでは皮膚内にまで送り届けることはできません。そこで私たちが開発研究を行っているのが、親水性ゲルパッチと皮膚内溶解型マイクロニードルを用いる貼るワクチンです。 親水性ゲルパッチは、ゲルパッチ表面にワクチン抗原を濃縮させることができます。このゲルパッチを皮膚に貼付すると、まず貼付部位からの水分蒸散が抑えられることで角質層の水分含量が増大し、角質層の細胞間隙の構造がゆるんでワクチン抗原が角質層へと入り込みやすくなります。そのうえ、皮膚表面にワクチン抗原の大きな濃度勾配ができるため、これが単純拡散の駆動力となって角質層透過が促進されます。一方、皮膚内溶解型マイクロニードルは、皮膚組織成分であるヒアルロン酸を主成分としており、マイクロメートルサイズの微小針によって角質層を物理的に突破します。微小針は非常に短い(最長800μm)ため、注射のような痛みを感じることはありません。そのうえで、皮膚内に挿入された微小針は水分を吸収することによって溶解するため、微小針に装填したワクチン抗原を皮膚内へと送り届けることができるのです。 この2つの方法を用いて、これまでに破傷風・ジフテリアワクチン、インフルエンザワクチンの臨床研究を行っており、その安全性と有効性を確認しています。貼るワクチンは、低コストで簡便、低侵襲的であることから、発展途上国をはじめ全世界で高い需要が見込まれています。これからも感染症対策に役立つ、阪大発・世界初の貼るワクチンの開発を目指して研究を続けていきます。注射に代わる、2種類の「貼る」ワクチン。 本学は、日本におけるワクチン開発のパイオニアだということをご存じですか?本学の原点である適塾は緒方洪庵により設立されました。洪庵は天然痘の治療に力を注ぎ、私財を投じて全国に天然痘ワクチンを広めました。天然痘は天然痘ウイルスを病原体とする致死率の高い感染症で、大昔から世界中で恐れられていました。しかしこの天然痘はワクチンにより完全に予防することができ、世界規模でのワクチンの普及により、1980年にWHOから「天然痘撲滅宣言」が出されるに至りました。 このように、人類は古くから感染症と闘っており、天然痘についてはワクチンという武器を手にすることで完全勝利を収めたのです。しかしその一方で、近年ではインフルエンザやエイズなどさまざまな感染症が世界各地で流行しています。飛行機や列車などの交通手段が発達した現在では、人や物資などの移動がスピーディかつ広範囲にわたっています。これは病原体についても同様で、人や動物を含めたさまざまな物流に伴って全世界に病原体が広がってしまい、世界的規模で感染症の大流行を引き起こす危険性を有しています。人類はこの感染症に打ち勝つべく、これまでにワクチンを含めたさまざまな医薬品を開発してきましたが、残念ながらまだまだ力不足であり、感染症はいまだに全世界における死亡原因の第一位を占めています。私たちは洪庵の精神を受け継ぎ、感染症の克服を目指してワクチン開発の研究に取り組んでいます。 これまでに実用化された数多くのワクチンは注射による投与です。注射は痛みを伴うだけでなく、投与した部位が腫れたり発熱したりすることもあり、「注射が好き」と言う方は誰一人いないでしょう。また、注射型ワクチンを保管するには冷蔵庫が必要となります。従って、発展途上国など電気設備が整っていない地域では、ワクチンを投与したくても投与できない状況であり、感染症の蔓延を許す結果となっています。ユニセフの発表では、2011年の1年間に約150万人の子どもがワクチンを接種していないがために感染症で亡くなっています。さらに、注射型ワクチンでは感染症のパンデミック発生時に大規模接種を迅速に行えないことも欠点として挙げられます。そのため、注射に代わる新規ワクチン手法の開発は、発展途上国のみならず、全世界で待望されているのです。そこで私たちは、新規ワクチン手法として「貼る」ワクチンに注目して研究しています。緒方洪庵の精神を受け継ぎ、感染症と闘う。皮膚内にワクチン抗原を送り込むデバイス親水性ゲルパッチ皮膚内溶解型マイクロニードル濃縮されたワクチン抗原皮膚で溶ける針(ワクチン抗原入り)パッチ親水性ゲルパッチ皮膚内溶解型マイクロニードル皮膚にペタっと貼るだけで・・・ワクチン抗原が皮膚内に浸透するニードルが溶解しワクチン抗原が皮膚内へ皮膚に貼付後、針が溶解支持体高分子ゲル体皮膚貼付面抗原濃縮層9

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