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「新時代における大学の役割」(第8回日中学長会議基調講演)(2013年11月1日)

本日は、第8回日中学長会議における基調講演の機会をいただき、大変光栄に思っております。

「新時代における大学の役割」というタイトルで、1)大学の使命と社会の変容、2)新時代における大学の役割、そして、3)大阪大学の未来戦略:世界適塾へ、大きくこの3点についてお話ししたいと思います。

1)大学の使命と社会の変容

大学の使命

私は常々、「大学は学問と教育の府である。物事の本質を見究める学問を推進し、何が物事の本質であるかを見極める能力を有した人材を世に送り出す。もって社会の発展と福祉に貢献する」ことが大学本来の使命であると考えています。そしてこれは、大阪大学の理念でもあります。

大学の在り方について考える際に、欠かしてはならない要素があります。

一つ目は、「多様性」です。大学の多様性、教育や学問の多様性、学生や教職員などの人の多様性です。大学の多様な構成員が溌剌と自由に活動できること、また、多様な教育研究組織が独自性を発揮し、かつ互いに力を合わせることが大学発展の根本であり、この「多様性」が「自由な知的創造活動」の土壌となるのです。

もう一つは、「持続性」です。大学の教育研究の成果は、一朝一夕で生まれるものではありません。あくまで大学本来のミッションに忠実に、「物事の本質を見極める学問と、それに基づく教育」に打ち込んでいくことが重要です。不断の努力により、質の高い教育研究を継続してこそ、真のイノベーションの創出や、優れた人材の育成が可能となるのです。

歴史を少し振り返ってみますと、大学は、19世紀末のフンボルト理念を呈した研究型大学としてのベルリン大学、或いは、大学院教育を最初に確立したとされる20世紀初頭のジョンズ・ホプキンス大学等によって、「学問と教育の府」そして「先端研究の拠点」としての役割を確立し、発展してきました。

社会の変容 

そして、21世紀も既に13年が経とうとしていますが、大学を取り巻く社会も、加速度を増しながら急速に変容しています。社会は、環境問題、エネルギー問題、食糧問題、人口問題、そして感染症の脅威など、様々な問題を抱えています。これらのあらゆる問題は、単一要因的事象から複雑要因的事象へと変容を進めており、様々な原因が複雑に入り組み、予測することも解決することも極めて困難です。さらに、国境の概念も希薄となり、グローバル化の様相を深めています。

とりわけ日本においては、超高齢化・人口減少、自然災害、公財政危機など、現在の社会構造の持続可能性が問われる大きな変化に直面しており、過去の延長線上での思考や方法では、問題解決は困難です。

このような社会情勢の中、大学は「学問と教育の府」という大学の不変の役割を維持しながら、「適切な知」を供給できるかどうか、社会が求める人材を輩出できるかどうか、大きな岐路に立たされていると認識しています。

2)新時代における大学の役割 

では、大学はどのような道に進むべきでしょうか。

続いて、新たな時代における大学の役割について、私の考えをお話ししたいと思います。

私は、新たな時代における大学の役割は、①知の供給、②新たな時代を切り拓く人材の育成、に加えて、③調和のある多様性の創出が、増々重要になってくると考えています。

知の供給 

予測困難で絶対解が存在しない新時代にあっては、闊達な研究による「知」の創発が重要です。数十年に一度の、真に価値ある発見を創出するためには、純粋な知的好奇心や探求心に基づく基礎研究の重要性は今後むしろ高まってくると言えます。

また、大学の「知」を如何に社会に還元するか、という観点も重要です。大学は基礎研究を基本としながら、そこから社会の要請に応える応用研究へと繋げる。そして実用化・産業化、あるいは医療の提供などを通じて社会へと還元する。さらに、社会への還元により生じた果実を、次の基礎研究へと活用するという未来志向のサイクルを確立することが重要になります。

さらに、基礎研究が果たす役割には、社会への夢とロマンの供給と言う大きな役割があります。人は衣・食・住足って満足できるものではありません。芸術が人の心を豊かにするように、知的好奇心の追求としての基礎研究は、社会に夢とロマンを与えるのです。大学は、未来の原泉であるとともに、人々に夢をもたらします。

新たな時代を切り拓く人材の育成 

人材育成は当然大学の基本的な使命ですが、「社会の変化に対応する」という観点が必要です。

では、現代の社会が求める人材、その能力とはどのようなものでしょうか?

例えば、決断力、行動力、そして言語運用能力を含むコミュニケーション能力。これらは、しばしば優れたリーダーの素質として語られます。しかしながら、私は、急速に変化し続ける今後の社会においては、これらの汎用的能力だけでは十分とは言えないと考えています。これからの社会が求める人材とは、多元的な課題に潜む物事の本質を見極め、従来からの常識や考え方を超えた課題解決を先導できる人材であると私は考えます。

「物事の本質を見極める力」とは、現象として認知可能な事象の奥に潜む、その事象のカギとなるもの、そしてその仕組みを見極める力を意味しています。「一芸に秀でた者は道に通じる」という言葉があります。この力の基盤となるのは、特定の分野をとことんまで究めた高度な専門性です。大学が最先端の研究を行い、それに基づく高度な専門教育を行う意義はここにあるのです。

また、この専門性に根ざしつつも、物事を様々な角度から柔軟に見る「複眼的視点」が重要となります。さらに、物事の全体像を捉える「俯瞰的視点」も重要です。「木を観て森を観ず」という言葉が示すように、一本の木にとって都合の良いことが、必ずしも森全体にとって最善の策とは限りません。短期的にはその木にとって最善の策であっても長期的に森全体にとって悪影響があれば、結局はその木にとって致命的な問題となるのです。

これらの視点を養うのは、幅広い教養教育です。教養教育は、単に知識の蓄積ではなく、広く柔軟な視点の獲得に繋がるものとして重要です。

さらに、グローバル化の進行した今後の社会においては、人類の活動のフィールドはますます拡大していき、異なる国籍、宗教、文化、人種の相手との関係構築、そして協働が必要となります。そのような状況に適切に対応するためには、孔子の言葉である、相手の心や立場を鑑みて物事を判断する「恕」の心、即ち「寛容の心」と、他者の異なる文化や考え方を理解・尊重する「共生の心」を育むことが重要です。

そして、この前提として忘れてはならないのは、「己を知る」ことです。多様性を持つ人類が共存共栄していくためには、まず自己を知り、自国の文化を理解し、かつ尊重することが必要です。自分自身を、自国を愛することができなくて、それらを誇りに思うことができなくて、どうして他人や他国を理解し尊重することができるでしょうか?

大学は、このような精神を育む教育、そして環境づくりについて、更に努力していく必要があるでしょう。

調和のある多様性の創出 

これは新しい時代における大学の新たな役割と言えます。

大学には、言語・文化・政治・宗教・国などの様々な障壁を越えた普遍的な「学問」という人類共通の言語が存在します。そして、多様な背景を持つ学生が大学というコミュニティで得られた永遠に続く「絆」は、経験と人的交流を持って拡散し、社会全体に「調和のある多様性」をもたらす可能性を有しています。

大学は、学問を通じた外部との交流や人材育成を通じて、性別や人種、信条等の多様性を調和させる新たなコミュニティの可能性を一層希求しなくてはなりません。これは、人類の共通言語である学問を有している大学だからこそ果たせる役割であり、21世紀において大学に課せられた大きな使命です。そのためには、大学が孤立的環境に閉じこもることなく、主体的に開かれた環境を醸成していく必要があります。多彩なステークホルダーと積極的に関わり、国境を越えて学術連携と人材交流を進めていくことがますます重要になります。

大学は、このような活動を通じて、多様性を保持する共生社会の創造をリードし、人類社会に貢献していかなくてはなりません。

3)大阪大学の未来戦略:世界適塾へ 

それでは最後に、ここまで述べた考え方に基づき、大阪大学が未来に向けてどのようなビジョンを持っているか、簡単にご紹介したいと思います。

本学の原点は、今から175年前、1838年に緒方洪庵が興した適塾にあります。適塾には、日本全国から1,000名を超える意欲溢れる多くの若者が集い、互いに切磋琢磨し学びを深めました。そして、慶応義塾大学の創設者である福沢諭吉や、日本赤十字を創設した佐野常民など、新しい時代を切り開いた優れた人材を多数輩出しました。大阪大学は、この適塾の自由闊達な学風や、人のため、世のため、道のためという緒方洪庵の精神、さらには大坂町人の学問への情熱を、研究と教育の中で継承しています。現在は11学部、16研究科、5附属研究所、2附属病院、19学内共同教育研究施設などを擁する研究型総合大学へと発展してきました。今年2013年は、大阪大学にとって、適塾の創設から175周年、つまり創基175周年の歴史的な年にあたります(大阪大学の歴史を参照)。

大阪大学は、未来に向けて大きな志を抱いています。それは、創立100周年を迎える2031年に、「世界適塾」として、世界トップ10の大学になるという志です。これは、マラソンに例えるなら、第2・第3集団から抜け出し、トップ集団に入るということであり、教育・研究活動のレベルにおいて、世界をリードする大学になるということです。

世界の中での大阪大学の現在のポジションをわかりやすくご覧いただくため、国際的な大学ランキングに目を転じてみたいと思います。主な大学ランキングでの順位は、異なる指標により、36位から144位になっています。例えば、トムソン・ロイターの過去10年の国際学術誌における被引用論文数によるランキングは、総合では47位ですが、分野別ランキングを見てみると、大阪大学の得意分野がお分かりいただけると思います。特に免疫学は、大阪大学が世界に誇る研究分野で、世界第7位、日本国内で1位となっています。また、化学で15位、材料科学で19位、物理学で27位、生物学・生化学で33位となっています。大阪大学は、研究型総合大学として、これらの得意分野はさらに強化し、それ以外の分野についても、異分野融合の新たな研究領域の開拓を推進し、大学全体としての研究力をさらに高めたいと考えています。

さて、大阪大学は、私が総長に就任した翌年の2012年5月に、大阪大学が「世界適塾」として22世紀に輝くために、大阪大学未来戦略を策定しました。これは、世界トップ10の大学を目指す2031年・創立100周年のさらに先、22世紀の未来を見据えて、私の在任期間中に取り組むべきことをまとめた、大学経営のビジョンです。

未来戦略の基本方針を簡単にご紹介いたしますと、

・大阪大学は、「物事の本質を究める学問と教育」を使命とする。

・「地域に生き世界に伸びる」というモットーに、大阪大学を学問と教育の世界的拠点とすることを目指す。

・高い倫理観を保持した優秀なグローバル人材を育成する。

・世界中から優れた学生と研究者が集い、互いに切磋琢磨するグローバルキャンパスを実現する。

・分野横断的な新たな研究領域を開拓する。

・知的創造活動としての基礎研究を推進し、それに基づいた産学連携や社学連携を活発に行っていく。

ここまでお話したとおり、大阪大学の志と理念を軸に、未来に向けた目標を明示しています。

そして、この未来戦略を実行するエンジンとして、未来戦略機構という新たな組織を創設しました。未来戦略機構の機構長は総長が務め、機構長と機構の中に設ける教育・研究推進部門の部門長及び全副学長からなる機構会議で、運営、人事、予算、施設、認定等に関し、迅速で柔軟な意思決定を行います。この機構会議での意思決定の要となるのが、「戦略企画室」です。学内外の教育・研究などに関する情報を収集し、科学的に分析・評価します。この活動に基づき、本学における教育改革、新たな研究分野の創出、グローバル化の推進などに関する戦略の企画、提言を行います。

そして、実際に部局横断的な異分野融合領域の教育・研究を担うのが「教育・研究推進部門」です。研究推進部門は、研究型総合大学としての大阪大学の多様性を最大限に活かし、異分野融合を推進し、世界トップレベルの新たな学問領域を開拓していきます。既に、研究部門として創薬基盤科学、認知脳システム学、光量子科学の3部門が活動しています。例えば、本学の免疫学フロンティア研究センターは、世界トップレベル研究拠点として世界をリードする研究を行っていますが、このようなグローバル研究拠点を一つでも多く産み出していくことが目標です。

教育推進部門は、「物事の本質を見極める力」をもち、国際社会における複雑で困難な課題に果敢に挑み、解決へと導く人材を育成する教育プログラムを推進していきます。既に、博士課程教育リーディングプログラムという、組織横断的な大学院教育プログラムが、5つの教育部門として動き出しています。このように、大学が責任を持って教育・研究プロジェクトを運用していくシステムを採り、柔軟にトライ&エラーを重ねるインキュベーション機能により、新たな融合分野を育てていきます。

また、キャンパスの多様性を向上させるため、キャンパスのグローバル化を積極的に推し進めています。2020年までの中期的な目標値として、大阪大学で受け入れる留学生について、学部、大学院の正規留学生も短期留学生も全てあわせた数字を、8%から15%にしたいと思います。現在大阪大学では、学部生15,563名、大学院生7,999名、合わせて23,562名の学生が学んでおり、そのうち約2,000名が留学生です。従いまして、このおよそ倍の4,000名の留学生がキャンパスで過ごすようにしたいという目標です。個別には、学部生では、4%であるのを10%に、大学院生では15%を25%にすることを目指します。同時に、海外に送り出す日本人学生についても、4%を8%へと増加させたいと思います。これは、学部生で言うと、4年間で三分の一の学生が海外留学を経験するという数字です。

研究活動のグローバル化もより積極的に推進していきます。大阪大学は、世界中の研究者と現在800件を超える国際共同研究を実施しています。大阪大学に世界最先端の国際ジョイントラボを数多く立ち上げていくために、今年度開始した国際共同研究促進プログラムについてご紹介したいと思います。これは、外国人の主任研究者が年間1ヶ月以上大阪大学に滞在し共同研究をするとともに、年間を通じて大阪大学で共同研究が実施されるように研究員を配置するプログラムで、実質的な国際共同研究を促進したいと考えています。既に、中国を含む世界10カ国から15大学や研究機関の研究者とジョイントラボを開始する計画が決まっています。皆様の大学に、本学の研究者と共同研究をお考えの方、あるいは既に何らかの交流がある方がいらっしゃいましたら、是非このプログラムをご活用いただきたいと思います。

4)結びに 

これから先、日中の各大学が「世界の一流大学」として学術・人材交流を加速していくことがますます重要になります。先に申し上げたことに通じますが、相互の交流・連携を通じて、学術の更なる振興、国際的な視野を持った人材の育成を実現すると同時に、「多様性を保持する共生社会の創造」をリードすることで、国際社会の持続的発展に貢献していくことが、新たな時代において、我々に課せられたミッションであると確信しております。

今回の会議が、そのような交流・連携を大きく前進させる契機となることを切に願っております。

ご清聴ありがとうございました。

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