木犀のこぼるる頃は落着かず
◎消灯の病窓に佇ち月を待つ
声あらば子等叱りたき案山子かな
眠り初む子を背に今宵月見かな
◎腕ひろげキリストに似し案山子かな
その衣肥料袋の案山子かな
奉納の初穂にのこる緑かな
ビル群を睨み畑守る案山子かな
◎雀とも仲良く案山子世を渡る
学習田ミツキーマウスの大案山子
よごれたる案山子を抱きて捨てに行く
◎寂しさよ剥きし林檎の錆びてゆく
そこだけが暮れ残りをり櫨紅葉
若さかな林檎をかじる音たてて
◎気の乗らぬ縁談なるや林檎剥く
林檎剥く指に衰へなかりけり
捨て案山子ただ夕空を眺めをり
疲れたる案山子集めしひとところ
◎この月を見むとて命惜しみ来ぬ
斜に構へ雀遊ばす案山子かな
後の月あたかも四十九日かな
一と館を炎に蔦の紅葉かな
酌み交はす口実の月上りけり
◎案山子にも多忙と暇の顔のあり
言成
嵐耕
眞知子
嵐耕
暁子
香月
幹三
翠
浩一郎
京子
ゆたか
輝子
浩風
輝子
暁子
言成
瑛三
太美子
暁子
言成
浩一郎
あや
暁子
義雄
林 直入 選
第468回 平成21年10月19日(月)
兼題 案山子・林檎(直入)月見・紅葉(あや)
席題 卓上に 金木犀・ねこじゃらし・野路菊・蔦
英国の林檎小さきを憐みぬ
話しかけたくなるやうな案山子かな
観楓の弁当何時も冷たかり
横たはるかがしに草の子守唄
一と館を炎に蔦の紅葉かな
月天心天地澄みて声もなし
直入
あや
選者吟
観光用案山子雀も遊ばせて
月見んと世を離れゆく観覧車
襤褸切れに還りし案山子天仰ぐ
◎薄紅葉水面に映りかねてをり
叢雲の途切れし刻の月見かな
話しかけたくなるやうな案山子かな
虫の原彼は遠くに消えしまゝ
立待の風あふれくる窓辺かな
閑谷の楷もほつほつ薄紅葉
◎産土の公孫樹もみぢや夢に散る
校庭の日ざし集めて芒の穂
◎よごれたる案山子抱きて捨てに行き
寂しさよ剥きし林檎の錆びてゆく
◎金木犀とは軽率に香り来る
木犀の香で満杯の夜の庭
ある日立ちいつか消えゆく案山子かな
焼りんご過ぎにし日々は懐しき
◎紺深き信濃の空や林檎熟る
満月や八十路の夫婦照らさるる
疲れたる案山子集めしひとところ
箱開けてしばし林檎の香に浸る
月今宵珊瑚の命生るるらむ
◎酌み交はす口実の月上りけり
◎名月と呼ばるる月の重たかり
体温を得し日溜りの猫じゃらし
直入
浩一郎
翠
太美子
京子
直入
義雄
京子
浩風
道子
京子
ゆたか
輝子
直入
眞知子
眞知子
太美子
浩一郎
箕川
太美子
太美子
太美子
暁子
瑛三
暁子
長山あや 選
落葉降れ恋慕の想ひ埋むまで
十夜寺婆から婆へ欠伸かな
御詠歌は忘我の祈り十夜堂
泥の海立泳ぐかに蓮根掘る
蓮根掘る重たき水を動かして
雑踏の孤独踏みしめ落葉道
遠ざかる塀の向かうの落葉掻
◎大根を洗つてみたき小川かな
腰伸ばしまた伸ばしして蓮根掘
◎過ぎゆきし刻のぬけがらめく落葉
極楽の蓮花地獄の蓮根掘
行きずりの俄か信徒に十夜粥
寺小春心の棘も抜く地蔵
◎クリスマスツリーみてより気忙しき
小春日や庵主不在の小さき札
いと小さき墓に木漏れ日近松忌
◎落葉して欅樹齢を露はにす
森小春日向に脂を噴くものも
◎落葉掃き一筋縄でゆかぬ庭
とろとろと昼の疲れのでる十夜
小春日やひげ痛かりし父のこと
俎のやうな下駄はき蓮根掘る
小春日やはかどる家事に歌こぼし
ハミングの小春の厨開け放ち
◎雨音のほとほと叩き十夜更く
大黒は襷がけなり十夜粥
◎落葉踏む音つのりゆく奥社
寒山拾得を想ひて落葉焚
折れ口の白きも並べ蓮根掘る
眞知子
幹三
あや
嵐耕
暁子
翠
幹三
道子
浩一郎
あや
翠
義雄
浩風
幹三
敏夫
道子
浩風
浩一郎
言成
暁子
輝子
箕川
眞知子
嵐耕
瑛三
瑛三
洛艸
浩風
敏夫
林 直入 選
第469回 平成21年11月16日(月)
兼題 十夜・蓮根掘る(直入)小春・落葉(あや)
席題 卓上に 花八手・檀の実・柿の葉寿司・お茶の花・柚子
小春日や仰げば軽き雲のゆく
◎繋留の漁船微動もなき小春
七五三帯の鈴の音はしやぎをり
三旬を掃かず眺めて柿落葉
蓮根掘る重たき水を動かして
一人行くただ落葉踏む音つれて
◎大根を洗つてみたき小川かな
長旅を解く間の念仏十夜衆
◎黙のよし二人で落葉焚く午後は
まとまりのなき寄り合ひやねこじやらし
割れものに触るるごとくに蓮根掘る
◎行きずりの俄か信徒に十夜粥
◎寺小春心の棘も抜く地蔵
踏み進む落葉鼓笛の如く鳴る
いと小さき墓に木漏れ日近松忌
落葉して欅樹齢を露はにす
足を抜くことに始まる蓮根掘
無縁墓落葉の嵩に沈みゆく
袴形鳥居の中の落葉焚
それぞれの木の香を持てる落葉かな
◎とろとろと昼の疲れのでる十夜
小六月石を仏にする石工
◎小春日やひげ痛かりし父のこと
落葉して暖かさうな猫の墓
梵妻の六升炊けり十夜粥
風やんで銀杏落葉の御堂筋
眞知子
直入
太美子
箕川
暁子
眞知子
道子
言成
輝子
義雄
洛艸
義雄
浩風
箕川
道子
浩風
浩風
洛艸
京子
暁子
暁子
浩風
輝子
道子
浩風
言成
長山あや 選
蓮根掘る鈴鹿颪に苛まれ
忙しき人閑な人街小春
また想の浮みては消え落葉踏む
過ぎゆきし刻のぬけがらめく落葉
御詠歌は忘我の祈り十夜堂
己が影抱き茶の花ひそと咲く
直入
あや
選者吟
全山の紅葉づり景を大きくす
◎なけなしの日差に十月桜かな
◎日翳れば丘はやつぱり冬の風
枯蔦の雅俗山荘門扉閉づ
万両の裾に一灯藪柑子
躙り口くつきり庭の実千両
錦木の花とも紛ふ紅葉かな
◎満天星の紅葉とはときめきの紅
風のごと過ぎゆく時間冬日和
◎冬の木になりきつてゐる百日紅
木蓮の花芽の支ふ時雨雲
◎咲きみちてそれでも淋し冬桜
頬染まるほど紅極む冬紅葉
生垣の燃ゆる満天星紅葉かな
裸木の冬芽のしかと土佐水木
薄き日にほどく十月桜かな
墨蹟に蕪村忌なれば去り難し
西欧の磁器も茶道具冬ぬくし
急傾斜崩壊危険区実南天
太美子
浩風
浩風
瑛三
洛艸
浩風
洛艸
暁子
言成
浩風
瑛三
輝子
太美子
瑛三
洛艸
浩一郎
京子
瑛三
道子
林 直入 選
第470回 〈吟行句会〉平成21年11月29日(日)
吟行地 逸翁美術館・池田城跡公園とその周辺
句会場 池田市商工会議所 会議室
蕪村画を愛でし逸翁冬館
全山の紅葉山を大きくす
◎黒釉の翳を深めて冬ぬくし
雪柳黄葉(もみ)たひつつも帰り咲く
日翳れば丘はやつぱり冬の風
冬紅葉いまはの色の深く燃ゆ
◎大公孫樹落葉も掃かず黄に住まふ
冬灯青磁の壷の小耳持ち
冬桜曇り空には溶け入りし
茶器とせしガレの小壷や冬館
菊炭のやせ細りしを掻き立てて
散りかけて十月桜風の中
満開とならず十月桜かな
小春日の溢るる逸翁美術館
◎冬の木になりきつてゐる百日紅
逸翁の掌(て)の中に居て冬日和
◎咲きみちてそれでも淋し冬桜
冬黄葉石の階(きざはし)埋めてなほ
◎声かけて通り過ぎけり落葉焚
仁清の壷に活けたき冬紅葉
鯉はねて紅葉の影の崩れけり
裸木の冬芽のしかと土佐水木
城跡の薄ら陽に映ゆ冬桜
句座ほぐすやさしき音色瓢の笛
枯芝や礎石に遊ぶ子供達
嵐耕
太美子
瑛三
洛艸
浩風
京子
太美子
暁子
直入
京子
箕川
浩一郎
敏夫
浩風
浩風
箕川
輝子
京子
輝子
京子
太美子
洛艸
京子
言成
太美子
長山あや 後選
旧邸鎖す桜紅葉をフィナーレに
中庭の紅葉もアート美術館
冬ざれてをり休日の幼稚園
直入
選者吟
着ぶくれてジャンボ籤買ふ列に付く
影持たず狭庭さまよふ冬の蝶
モノクロの枯野を独り歩きたり
闇汁やわが箸つつく誰の箸
思考にも着ぶくれといふことのあり
夕枯野人影見えず星一つ
美しき肢体沈めよ柚子風呂に
着ぶくれて総身に知恵の伝はらず
伸びし髭鏡にありぬ着ぶくれて
食ひ違ふ二人の話隙間風
◎どの席に座りても来る隙間風
着ぶくれの人一杯の飛機北へ
◎闇汁や五感集まる箸の先
闇汁の鍋に主役はなかりけり
◎洛北に残る下宿屋隙間風
箸触れしことが機縁の闇汁会
マンションの隙間風なき淋しさよ
◎闇汁の闇混沌と匂ひけり
沸々と闇汁煮え来闇匂ふ
◎やはらかき日のゆきわたる枯野かな
著ぶくれて洒落も気品もなかりけり
隙間風日本家屋の呼吸とも
隙間風築百年といふからに
松と杉枯野の中の一軒家
義雄
言成
浩風
ゆたか
あや
嵐耕
箕川
あや
浩一郎
輝子
暁子
ゆたか
あや
暁子
浩風
浩風
あや
香月
香月
浩一郎
洛艸
あや
暁子
ゆたか
林 直入 選
第471回 平成21年12月21日(月)
兼題 着ぶくれ・隙間風(直入)枯野・闇汁(あや)
席題 卓上に 枇杷の花・山茶花・実南天赤白・柚子
◎見栄つぱりの大山茶花もやがて落つ
◎ふみ込んでわかる枯野の底力
晩学のメール打ちをり着ぶくれて
通夜の座のどこからとなき隙間風
山と積む柚子の放てる明るさよ
美しき肢体沈めよ柚子風呂に
着ぶくれて焼かずもがなのお節介
◎ボタン約二十も掛けて着ぶくれて
雲の影駈け走り行く大枯野
遠慮なき築百年の隙間風
あつまつて咲いても淋し枇杷の花
着ぶくれて読書三昧てふ暮し
◎牧草もヒースも枯れて海光る
枯原に救世軍の来て唄ふ
好き嫌ひ越えて闇汁楽しめり
はるかなる一灯頼り枯野行く
余命あり銭少しあり着ぶくれて
温暖化防ぐ気慨に着ぶくれる
こころまで着ぶくれするをいましめり
◎闇汁に大言壮語ありぬべし
◎病む子規に闇汁囲む友のあり
◎大枯野山頭火行くひとり行く
朝霜や森に透れる人の声
青春は遠し安保も闇汁も
眠りつつ仕事がよぎる年の暮
直入
眞知子
嵐耕
浩風
暁子
箕川
浩風
直入
洛艸
元彦
道子
言成
敏夫
箕川
元彦
洛艸
箕川
言成
ゆたか
浩風
暁子
輝子
浩一郎
翠
庸介
長山あや 選
数奇屋風とは隙間風ほしいまま
郵便車赤し枯野の遠くより
汐どきにして闇汁の席点灯す
枇杷の花蠢くやうな気配あり
闇汁や五感集まる箸の先
思考にも着ぶくれといふことのあり
直入
あや
選者吟
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