OSAKA UNIVERSITY GUIDEBOOK 2015
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 大阪大学は、緒方洪庵が1838年に私塾として設立した「適塾」を原点としています。さらに、大坂町人がつくった「懐徳堂」の精神も引き継いでいます。適塾からは福沢諭吉、長与専斎や大村益次郎など明治維新を切り拓き、今日の日本の礎を築いた多くの若者を輩出しました。その後、大阪医学校や大阪医科大学などを経て、1931年には医学部と理学部からなる大阪帝国大学へと発展を遂げ、翌々年には1896年設立の大阪工業大学が工学部として加わりました。世界的な物理学者である長岡半太郎初代総長は、「糟粕勿嘗(そうはくをなむるなかれ)」という言葉を残しています。2013年には適塾創設175周年を迎え、緒方洪庵の「人のため、世のため、道のため」という精神を引き継ぐとともに、「地域に生き世界に伸びる」をモットーに発展を遂げてきました。また2014年を「世界適塾」元年と位置づけ、2031年の創立100周年を迎えるとき、本学は「世界適塾」として世界トップ10の研究型総合大学になることを目指しています。この夢の実現のために「大阪大学未来戦略(2012-2015)―22世紀に輝く」を作成し、大きく飛躍しようとしています。 今、世界は人口増加や食料問題、エネルギー問題、環境破壊、そして感染症など地球規模での複合要因的問題や、ますます複雑になる経済・政治問題など、多様な問題や危機に直面しています。わが国では、人口減少、高齢化社会、東日本大震災やそれに続く原子力発電所の事故など、戦後最大の課題に直面しています。しかし、魔法のようなすばらしい解決法はありません。困難なときほど基本に立ち戻る、すなわち今こそ物事の本質は何かを真摯に問いかける必要があるのではないでしょうか。 近年、私たちの社会は結果を即座に求める傾向にありますが、大学の使命は即戦力人材の育成だけではありません。すぐには役に立たなくても、長い目で見て社会貢献できる研究・教育をどれだけ許容できるか、私はそれこそが流行に流されない大学の「底力」だと思います。学術の振興なくして、革新的な技術開発や心豊かで平和な社会の発展はありえません。世の中の課題を解決するには、大学だからこそできる基礎的学術研究や長期的視野に立った技術開発の推進が不可欠なのです。物事の本質を見極め、世界に羽ばたいてほしい。大阪大学総長平野俊夫22世紀に輝く「世界適塾」へ目の前の山を登りきる大阪府出身。1972年大阪大学医学部を卒業。1973~1976年まで米国立衛生研究所(NIH)へ留学。大阪大学医学部附属バイオメディカル教育研究センター長、大学院生命機能研究科長などを経て、2008年4月より大学院医学系研究科長、医学部長を務める。専門は免疫学、腫瘍病理学。1986年免疫調整物質インターロイキン6を発見。その構造を突き止め、スウェーデン王立科学アカデミーによるクラフォード賞を受賞。他、日本国際賞など多数受賞。2006年には紫綬褒章を受章。2011年8月、大阪大学第17代総長就任。 「国家100年の計は教育にあり」と言われるように、わが国の将来はひとえに人材育成にあります。本学はこれまでにも世界をリードする研究者、教育者、文化人といった優秀な人材を多数輩出してきました。これからも引き続き各分野において指導的な立場に立ち、人類の繁栄に貢献できる国際性豊かな人材を送り出していきたいと考えています。未来を創るのは君たち若い人の力です。君たちの双肩に日本の、そして世界の未来がかかっています。 人種、言語、文化、宗教など、人間社会における多様性は人類の幸福と社会の発展に必須です。一方、グローバル社会においてこれらは時として障壁となり、さまざまなコンフリクトを惹起します。大学は「学問」という人類共通言語を有しており、学問を介する人の交流を通じてさまざまな障壁を克服する役割を担っています。グローバル社会に課せられた命題である「多様性の維持とそれがもたらす障壁の克服」、すなわち「調和ある多様性の創造」に対する大学の役割は、21世紀においてますます重要になると思います。 私はよく学生に、「目の前の山を登りきる」ことが重要だと言ってきました。誰にでも、そのとき目指していることや明らかにしたいことなど、「目の前の山」があると思います。それがたとえ低い山でも、頂上に立つことができた人だけが新しい展望を得ることができ、次に目指す高峰が見えてくるのです。それはつまり、今を必死に生きるということです。人生は今という瞬間の積み重ねであり、私の経験からもその瞬間を懸命に生きることが何よりも大事だと思います。 本学では、世界をリードするさまざまな研究が行われています。そんな最先端の研究を身近に感じられる環境は多くの刺激を与えてくれるはずです。そして、世界的に活躍する研究者や向上心あふれる仲間たちとの出会いが皆さんを待っています。ぜひ、夢を忘れることなく、常に挑戦し続けてください。そしていつか、物事の本質を見極め、大阪大学から世界に羽ばたく人になってほしいと願っています。

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