身体障害学生支援室セミナー
第2回「大学におけるウェブ・アクセシビリティ」
- 日時:
- 2004年7月12日(月曜)15時30分〜17時
- 場所:
- 大阪大学吹田キャンパス コンベンションセンター1階研修室
- 講師:
- 杉田正幸氏(大阪府立中央図書館)
- 対象:
- 学生・教職員
はじめに
身体障害学生支援室セミナーを始めます。本日のセミナーで司会を担当します、身体障害学生支援室の松原と申します。はじめに私から、セミナーの趣旨を説明します。「大学におけるウェブ・アクセシビリティ:誰でも伝わるホームページの作り方」というタイトルのセミナーですが、「ウェブ・アクセシビリティ」というのは、簡単にいえば、「誰でも容易にウェブ、インターネットといってもいいですが、ウェブを使えること」を意味しています。 なぜ、大学で、この「ウェブ・アクセシビリティ」をセミナーのテーマとして取り上げることになったのかといえば、そこには、大きく2つの背景というのがあります。
一つは、大学でウェブの利用の量や幅が拡大してきていることです。私は、身体障害学生支援室で働く一方で、人間科学研究科の院生をしていますが、授業のシラバスの閲覧や、授業資料のダウンロードが、ウェブ上でできるようになってきています。以前では、考えられなかったことです。
もう一つは、大学自体の利用者が多様化してきているという状況があります。留学生はもちろんですが、高齢の方や障害のある方も増えてきています。そうすると、これまでのように、高校を卒業してストレートに入ってくるような、日本人で障害のない若者だけを利用者として想定することは、徐々にできなくなってきています。しかし、その一方で、ウェブもふくんだ大学のシステムというのは、まだまだ、利用者として無意識のうちに、従来までの日本人で障害のない若者というのだけを想定して動いていくことが多いので、そこに入らない人々が取り残されてしまうという状況が生まれてきています。そうした2つの流れのなかで、今後、「ウェブ・アクセシビリティ」というのが当たり前のように大学に求められていくだろうと考えて、このようなセミナーを企画しました。
今回のセミナーで講師を務めて頂くのが、こちらにおられる杉田正幸さんです。杉田さんは現在、大阪府立中央図書館に勤務し、特に障害者サービスを担当されています。同時に、ウェブ・アクセシビリティの普及にも関わっておられます。支援室でも、障害のある学生へのサービスに使う機材の使い方を教わったりなど、お世話になっています。今回は、そのご縁で講演をお願いすることになりました。
では、杉田さんにお話をお願いしたいと思います。
杉田正幸氏の講義
☆はじめに
大阪府立中央図書館の杉田正幸といいます。今日は、ホームページを作るときにどういうことに注意すればいいかということを、障害者のインターネットの利用方法をお見せしたり、ホームページのアクセシビリティを点検するためのツールを紹介したりしながら話をしていきたいと思っています。時間が1時間と限られていますので概略的なことになりますが、今後、大学で障害のある学生でも容易に利用できるページ作りというものについて考えるきっかけにして頂ければと思います。
☆視覚障害者のパソコン利用
ウェブ・アクセシビリティの問題点として、視覚障害者のウェブ利用がクローズ・アップされることが多いので、今回は、視覚障害者のウェブ利用について特にお話ししたいと思っています。視覚障害者がどのようにパソコンを利用しているのか、ご存じない方が大半だと思います。視覚障害者がパソコンを使うとき、画面の情報の音声読み上げを行うスクリーン・リーダーというソフトや、インターネットの内容を読み上げる音声ブラウザというソフト、画面を拡大するソフトなどを使って情報を収集することになります。
まず、画面を読み上げるスクリーン・リーダーというソフトについて簡単に説明します。これは、文字情報を中心として、画面情報を音声で読み上げるものです。文字を入力し、漢字変換を行ったとき、その語義を読んでくれるという機能もあります。例えば、視覚障害の「視」という字だったら「視るの視」、視覚障害の「覚」という字だったら「覚えるの覚」というふうに意味で読み上げて説明してくれます。これがスクリーン・リーダーと呼ばれるソフトです。
次に、音声ブラウザについて説明します。これは、ホームページの文字情報を中心に音声で読み上げてくれる専用のソフトウェアで、国内でも数種類のものがあります。これから実際に、みなさんにホームページ・リーダーというIBMから発売されている音声ブラウザを使い、それがどのようにしてホームページの情報を音声で読み上げるのかというデモを見て頂きたいと思います。今開いているページを音声ブラウザで読ませたら、どういうふうになるか、実際にやってみたいと思います。
(ホームページ・リーダーでページを読み上げ中)
このようにホームページの情報を音声で読んでくれるものが、音声ブラウザです。今、聞いていてお気づきになった方もいらっしゃるかもしれませんが、普通のテキスト部分は男性の声で読んでいましたし、リンクの部分は女性の声で読み上げていました。音声ブラウザでは、そのような設定が可能です。また、スピードを変えることもできます。
(ホームページ・リーダーでページを読み上げ中)
これがホームページ・リーダーで読み上げることのできる、一番早いスピードになります。では、大阪大学のホームページをホームページ・リーダーで見てみたいと思います。
(ホームページ・リーダーで大阪大学のホームページを読み上げ中)
はい。音声ブラウザの利用者に対して、ホームページを作るときにどういう問題があるかについては、後ほど、説明することにしたいと思います。
最後に、画面の拡大ソフトを紹介します。これは、主に弱視者向けのソフトウェアとなります。弱視の方は、インターネットを利用する際にも、画面拡大を行いながら利用することになります。最近では、ホームページ自体に拡大機能を持たせたり、サーバー側に専用のソフトウェアを導入することで拡大機能を持たせたりすることもあります。一部の大学や企業で、こういったサーバー導入型のソフトウェアが使われています。
☆ウェブ・アクセシビリティとは何か?
ホームページのアクセシビリティの考慮点についてお話しします。まず、「アクセシビリティとは?」というところから話をしたいと思います。アクセシビリティとは、「アクセスしやすい」、「アクセスできる」といった意味を持つ言葉です。インターネットの世界では、「障害の有無や年齢、国籍を問わず、より広い範囲のユーザーがコンピューターを利用し、情報の送受信ができること」といった意味で使われるようになっています。障害者のアクセシビリティというと、視覚障害の場合は、さきほど説明したスクリーン・リーダーや音声ブラウザ、拡大ソフトの利用者に考慮する必要があります。聴覚障害者に関しては、効果音のようなサウンドなしで、ウェブが利用できるのかどうか、また、目と耳との重複障害の場合、画面を点字化するソフトや点字ディスプレイを使って情報が十分に伝わるかどうかということを考慮しなければいけません。また、手足が不自由な方の場合は、キーボードやマウス以外を使ってもホームページにアクセスができるかどうか。さらに、テキストを理解することが困難な方の場合、つまり、学習障害とか知的障害の方の場合にも十分に情報を取得できるかどうか。また、障害のある方以外でも、言語が異なる人の場合、十分な情報を伝えられるかどうか。そして、携帯電話やダイアルアップで接続するときのように、低速でしかインターネットに接続できない場合、うまく情報を受け取れるかどうか。最近、「インターネット・エクスプローラーの5.5以上、ネット・スケープの6以上でお使い下さい」というふうに、ホームページに書いてある場合もありますが、そうではなくて、古いバージョンのブラウザを使っている人もいることを考慮する必要があります。
☆ウェブ・アクセシビリティに関する指針
インターネットのアクセシビリティについては、国際的にはワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアムがガイドラインを作っていたり、リハビリテーション法第508条の電子情報技術アクセシビリティ基準で配慮が求められるようになってきています。国内では、首相官邸のIT戦略の指針として、配慮が求められています。そして、最近の動きとしては、6月20日に、日本規格協会から「高齢者・障害者等配慮設計指針、情報通信における機器、ソフトウェアおよびサービス第3部ウェブ・コンテンツ」として、JIS規格化されています。高齢者や障害者によるウェブ・コンテンツの利用について、アクセシビリティを向上させるために設定された指針で、特にウェブ・コンテンツの企画・開発について配慮すべき事項が規定されています。具体例も盛り込まれていますので、そういったものも参考にして頂ければと思います。また、企業が作っているアクセシビリティに優れたページ、たとえば、IBMやNECのページなどを参考にすることも良いかと思います。これらの企業では、独自にアクセシビリティに関する指針を持っていることもあります。
☆ウェブ・アクセシビリティに関する配慮点
視覚障害者のウェブ・コンテンツへのアクセシビリティに関して配慮すべき事項にはいくつかあります。よく言われるのが、画像情報を代替文字で伝えるということです。それ以外にも、過去には、動的に動くJavaスクリプトのようなもので書かれているページは、音声ブラウザで読みとれないということがありました。また、レイアウトのために表をつくるようなホームページは、音声ブラウザでは非常に聞きにくいという問題もあります。そのほか、PDFファイルやFlashといった新しい技術に、音声ブラウザでは対応し切れていないため、代替手段を提供するということが必要になります。PDFに関して言えば、文字抽出できるようなPDFはまだいいのですが、スキャナーでチラシを取り込んでそのままホームページにアップしたりすると、音声ブラウザでは全く読むことができません。画面を分割して複数のフレームに分け、左側をメニュー、右側を本文とするようなページを見たことがあるのではないかと思います。フレーム分割されたホームページは、音声ブラウザでは利用しにくいことがあります。大阪大学のホームページでも、トップ・ページから入ると、画面が3つのフレームに分割されています。最近の音声ブラウザは、読み上げ能力が向上し、フレーム分割されたページもうまく読むことができますが、古いバージョンの音声ブラウザを使っている方もいることを考えると、情報量の少ないページであれば、極力、単一のフレームでまとめることがアクセシビリティの観点からは良いと言えます。そして、リンクの貼られた部分をクリックすると、別のウインドウが開いてしまうことがあります。これも、音声ブラウザで利用しづらいもののひとつです。できるだけ、同一ウインドウで、ページが展開するようにして下さい。
☆ウェブ・アクセシビリティを診断する方法
以上が、視覚障害者に対するウェブ・アクセシビリティの代表的な配慮点ですが、その他のものも含め、すべての配慮点を自分だけでチェックするのは大変です。そこで、作ったページのウェブ・アクセシビリティをチェックするためのツールを紹介します。こういったツールは、完全なチェックができるわけではありませんが、画像に適切な文字がつけられているかといった基本的な構造に関する問題をチェックしてくれます。まず、パソコンにインストールするソフト・ウェアを紹介します。ひとつは、「ウェブ・ヘルパー」です。おそらく一般的に一番用いられているものだと思います。自動的な点検と半自動的な点検を設定できるのですが、ホームページのHTMLの構造をチェックして、配慮が欠けている箇所を示してくれます。二つ目が、「ウェブ・インスペクター」というものです。これも同じようなソフトになります。次に、「情報伝達度チェッカー」です。こういったソフトを、ぜひホームページ作るときの参考にして下さい。また、ホームページ・ビルダーのようなホームページ作成ソフトを利用してホームページを作られる方もいらっしゃるかと思いますが、このようなホームページの作成支援ソフトにも、HTMLの構造を診断してくれるチェック機能をもつものがあります。また、パソコンにソフトをインストールすることなく、ホームページ上でアクセシビリティの診断ができるツールもあります。自分の作ったホームページのアドレスを入力することで、そのホームページをチェックしてくれます。では、「ウェブ・ヘルパー」というソフトを利用して、大阪大学の身体障害学生支援室のページをチェックしてみたいと思います。点検レベルは、標準のレベルでやってみます。
(身体障害学生支援室のページを点検中)
基本的にはエラーがないようです。もちろん、支援室のページなので当然だとは思いますが。これがウェブ・ヘルパーというものです。診断したいホームページのアドレスを入力することでチェックをしてくれて、具体的に直す必要のあるところを表示してくれます。このようにツールを使う方法以外にも、ブラウザの機能を使うことで、一部の項目に関するアクセシビリティのチェックが可能になることがあります。たとえば、ブラウザの設定を画像を表示しないというものにして、画像の説明文(ALTテキスト)を表示させる設定にすれば、ブラウザ上で画像の代替テキストのあるなしをチェックすることができます。実際に、音声ブラウザで確認してみることも重要です。特に、音声ブラウザで確認してみないとなかなか気付かないことのひとつとして、レイアウトを重視して文字と文字の間にスペースを入れてしまい、本来の文字列として読んでもらえないということがあります。これは、やはり音声ブラウザで聞いてみないと気付かない点です。
こうしたアクセシビリティの問題点は、実は、音声ブラウザ側で対応すべき部分もあります。しかし、部分的になかなか対応しきれないという現実もあります。音声ブラウザ側と同時に、ページの作り手がアクセシビリティに意識した形で作っていくことが大切です。JIS規格化もなされ、今後、ウェブ・アクセシビリティの観点は、企業や大学でも求められてくることと思います。
☆当事者が関わること
最後に、最も重要なのは、当事者に、ページに問題があるかないかを見てもらうことです。将来的には、視覚障害のある人たちがホームページを作る側に関わっていくことが大切でしょう。障害のある人だからこそ気付ける視点があり、大学の職員としても、ぜひ、障害のある人を雇用していって欲しいと思います。以上で、私の話を終わりますが、参考にして頂いて、大阪大学における誰にでも伝わるホームページ作りのきっかけとなればうれしく思います。
*拍手*
参考資料
チェックツール(パソコンにインストールするもの)
(1)ウェブヘルパー Ver.1.0/2.0/2.0R
- URL:
- http://www.jwas.gr.jp/helper/index.html
- 提供:
- 総務省
- 内容:
- WCAG1.0のチェックポイントに従って、比較的網羅的に点検することが可能。自動点検できる項目と半自動点検の項目がある。
- 対象:
- ローカルにあるファイルとインターネット上のHTMLのいずれも点検可能
(2)Web Inspector Ver.4.0
- URL:
- http://design.fujitsu.com/jp/universal/assistance/webinspector/
- 提供:
- 富士通
- 内容:
- 同社の「富士通ウェブ・アクセシビリティ指針」に基づきHTMLのアクシビリティを診断するために開発したチェックツール。 Ver.4.0では、JIS X 8341-3 高齢者・障害者配慮設計指針に対応したチェックが可能になった他、富士通ウェブ・アクセシビリティ指針2.0版の項目チェックに対応された。富士通アクセシビリティ・アシスタンスは上記ツールとColorSelector、ColorDoctorの3ツールの総称で、無償でダウンロード可能。
- 対象:
- ローカルにあるファイルとインターネット上のHTMLのいずれも点検可能
(3)情報伝達度チェッカーVer.4
- URL:
- http://www.aao.ne.jp/author/itcheck/
- 提供:
- アライド・ブレインズ株式会社(開発:ウェブスタイル研究所)
- 価格:
- ¥2,100
チェックツール(WEB上でチェックを行うもの)
(1)ウェブヘルパー ASP(A.A.O.バージョン)
- URL:
- http://webhelper.aao.ne.jp/index.jsp
- 提供:
- A.A.O.
- 内容:
- 総務省から公開されているウェブヘルパーVer.1.0のプログラムソースを元にサーバー版のウェブヘルパーを開発。
- 内容:
- 文章構造の適切さ、リンク文章の適切さ 、テーブル構造 、画像のALT属性を診断。
- 対象:
- ローカルにあるファイルとインターネット上のHTMLのいずれも点検可能
国際的なアクセシビリティ基準
(1)W3C/WAI「ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン 1.0」
- URL:
- http://www.w3.org/TR/WAI-WEBCONTENT/
- URL:
- http://www.sociomedia.co.jp/resources/WCAG10/outline.html
- 内容:
- Web Content Accessibility Guidelines(WCAG)は、Webベースのコンテンツを、障害を持つユーザーでも高齢者でも、誰でもアクセスできるものにするための指針として、W3C内のWAI(Web Accessibility Initiative)が1999年5月5日に策定。
国内企業によるアクセシビリティ基準
(1)日本アイ・ビー・エム「Webアクセシビリティ(日本語訳)ガイドライン」
- URL:
- http://www-6.ibm.com/jp/accessibility/guideline/accessweb.html
- 内容:
- 16項目のチェックリスト
(2)富士通「ウェブ・アクセシビリティ指針」
- URL:
- http://jp.fujitsu.com/webaccessibility/
- 内容:
- WCAG1.0、米国リハビリテーション法508条、総務省ウェブヘルパーなどと整合性をとった49項目の指針。
(3)日立製作所「Webユニバーサルデザイン・ガイドライン」
- URL:
- http://www.hitachi.co.jp/divisions/design/tech/univ/web/index.html
- 内容:
- 障害別Webデザイン留意点とプライオリティづけをプライオリティ1からプライオリティ3まで障害ごとに分けて掲載。
(4)マイクロソフト「Webガイドライン」
- URL:
- http://www.microsoft.com/japan/msdn/accessibility/web/default.asp
- 内容:
- アクセシビリティの高いWebサイトを作成する理由や、12のハウツーガイドを掲載。


