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生体ナノマシンの構造に迫る

阪大から出発し阪大に至る

中学生になる頃には、自然界の様々な不思議にひかれ研究者の道に進もうと思い始めた。物理学や生物の仕組みに強い関心があったことから、「生物物理学」に興味を持ち、高校の恩師から大阪大学基礎工学部・生物工学科を勧められた。

草創期の基礎工学部では、様々な分野の先進的な講義を受け、幅広い基礎を固めることができた。中村先生の統計熱力学は起承転結ある講義の巧みさもさりながら、当時のテキストは現在も座右の書だ。特筆すべきは大沢文夫先生の分子生物学。最近この講義ノートを見直したところ、難波教授の研究テーマの種がそこに記されていた。「大阪大学で出合った研究の種が芽生え、後年に成果を還せたのは感銘深い」

 

「焼いた干物」ではなく生の姿を

 大学院で目指したテーマは筋収縮。「そのメカニズムを分子構造から見たかった」。当時の電子顕微鏡は、真空中で乾いた素材に電子線を浴びせて「焼いた干物」を見ているようなものだった。「生」の状態を調べるにはX線解析しかなかったが、それには結晶化した試料が必要だ。しかし、筋肉などの繊維状タンパク質複合体は結晶化が困難である。いくつかの工夫で研究は進んだが、原子レベルで分子構造に迫るには至らなかった。

 こうした問題に取り組もうと、思い切ってウイルスの立体構造の研究で著名な米国ブランダイス大のキャスパー先生に問い合わせたところ、タイミング良く研究員のポストが得られた。米国ではタバコモザイクウイルス(TMV)の構造解析に成功し、筋肉などの非結晶の繊維状タンパク質に迫る方途が見えてきた。

 そんな頃、86年の科学技術振興事業団(当時)のERATOプロジェクトに巡り合えた。べん毛研究との本格的な出合いとなった。その後の方向性を大きく変えたのが、藤吉好則先生(現:名古屋大学特任教授)のクライオ電子顕微鏡。タンパク質を極低温で凍らせることで「生の姿」を直接見る(撮影する)研究が始まった。

生体ナノマシンとその未来

べん毛やその基部にある回転モーターは、約25種類のタンパク質から構成されている。この構造を調べるには、X線解析の手法・技術やクライオ電子顕微鏡の機器開発などの進歩が必須で、これを相補的に組み合わせて初めて可能になる。

難波教授は松下電器産業(当時)の研究プロジェクトや自身で採択となったERATOプロジェクト等を率いながら、年月をかけてこれに取り組み、べん毛の分子レベルでの詳細な構造を解明した。クライオ電子顕微鏡や画像解析の技術開発も進め、以前は解析に何年もかかっていた生体分子の立体構造がわずか一週間で得られるようになり、生命科学に大きな進展をもたらした。

また、この手法・技術を活用することで、積年の課題であった筋収縮を駆動する繊維状タンパク質複合体の構造も鮮明な状態で見ることに成功した。難波教授は「院生時代から30有余年の歳月を要したが、このときには意外とあっさり成功した」と振り返る。

さらにメーカーと共同で、画像ノイズを減らすフィルターを活かしたクライオ電子顕微鏡の開発にも着手。こうして、「解像度が0.2nmを超える観察も目前」と、難波教授は目を輝かせる。そうなれば高分子であるタンパク質の立体構造のみならず、それに配位して重要な働きをする水分子H2Oや各種のイオンまで見えてくる。こうした解明が進めば、将来の創薬設計技術や予測治療の大きな武器となる。

難波教授の研究で、ようやく見えてきた極めて小さなナノマシンのなかに、これからの生命科学の大きな未来が広がっている。

強い思い持てば、情熱は伝わる

研究は成果が得られるまで時間がかかる。強い興味がなければ続けられない。しかし、「興味と好奇心さえあれば、こんなに楽しい仕事はない」と難波教授は喝破する。強い思いを持ってさえいれば情熱は人に伝わる。支えてくれる人や団体があらわれチャンスは巡ってくる。「研究は不思議を見つけてその謎を解くこと。そんな幸せな仕事に生涯を捧げられるのは、本当に幸せ」と語る。

 

●難波啓一(なんば けいいち)

1974年大阪大学基礎工学部卒業、80年同基礎工学研究科博士課程修了。米国ブランダイス大学、ヴァンダビルト大学研究員などを経て、86年科学技術振興事業団(当時)ERATO宝谷超分子柔構造プロジェクトグループリーダー。92年松下電器産業㈱国際研究所、後に同先端技術研究所リサーチディレクター。97年科学技術振興事業団ERATO難波プロトニックナノマシンプロジェクト総括責任者(兼任)。2002年から大阪大学生命機能研究科教授、10年に同研究科長。日本生物物理学会会長等を歴任し、大阪科学賞、TEPIA(高度技術社会推進協会)最優秀作品賞グランプリ、12年に日本学士院賞・恩賜賞を受賞した。13年7月に大阪大学特別教授。

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