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舌がんを 切らずに治す、 放射線治療の 普及を目指して

鉛を着脱可能にする新発想で放射線をブロック

放射線治療は「外部照射」と「組織内照射」に大別される。外部照射は体を貫通する放射線を照射しガンにダメージを与えるが、組織内照射は放射性物質をガンの中心に設置し、ガンのみに放射線を照射しダメージを与えることが可能。そのため、隣接する正常な部位に放射線があたりにくいのが特徴だ。

しかし舌がんの場合は、舌の近くに歯茎や顎があるため、それらに照射があたり壊死するなどのケースも発生する。この問題について村上准教授は「これまでも舌と歯茎の間に樹脂製物質を入れ、できるだけ放射線をあたりにくくするなどの試みはありました。しかし、これでは完全には放射線をブロックできませんし、完全にブロックできる鉛を樹脂のかわりに挿入すると、CT画像の撮影ができず、治療計画をたてられないというデメリットがありました」

そこで今回新たに開発したのが、鉛を着脱できる溝を設けた樹脂製のマウスピース型装置だ。治療手順は、患者の歯の形に合わせた樹脂製マウスピースを作成、装着しCT画像撮影をする。その後、マウスピースの溝に鉛板を挿入し、放射線を照射する流れだ。「この装置を使用し治療した患者さんは平成29年2月現在で26人いますが、今のところ副作用は全く出ていません」。更に「簡単な仕組みのように見えますが、実は思いつくまでに10年以上の月日を要しました」と装置について話す。

この成果は昨年5月、米国の科学誌「PLOS ONE」オンライン版に掲載され、メディアにも多数取り上げられるなど注目を集め、国内外の患者が多く来院するようになった。

放射線治療を安心して選択できる時代を目指す

この村上准教授の発想による新装置は、有効性が広く認められているにも関わらず、特許申請を行っていない。それどころか、製作手順まで論文に記されている。このことについて「この装置を多くの医師に気軽に使ってもらいたいんです。そして、舌を切らずに治せる放射線治療を多くの患者さんに安心して選択してもらいたい」と意図を話す。

ここまで村上准教授を突き動かすものは何なのか。「昔担当した、1人の舌がん患者さんの厳しい言葉がきっかけでした。その方の舌がんは放射線治療で治ったのですが、後に副作用が発生してしまい、下あごの骨が壊死し、あごの半分を切除することになりました」そして「顔の形が大きく変わってしまったその患者さんから『以前言ったありがとうを取り消させてほしい』と言われたんです。あの言葉は今でも忘れられません」と話す。

この経験も踏まえ、患者さんに治療を勧める際には常に「この治療を自分の家族にも勧められるかどうかを基準に考えています」と話す。そして「無事完治した患者さんが、元気で幸せそうな姿を見せてくれるのが、最大の喜びです。今後も放射線治療で多くの人の笑顔を見れるよう、研究に治療にベストを尽くしていきたいです」と語った。

 

●村上秀明(むらかみ しゅうめい)

1988年大阪大学歯学部卒業。92年同歯学研究科博士課程修了、博士(歯学)。同年大阪大学歯学部附属病院医員。94年同歯学部助手、98年同歯学部講師を経て、2000年より現職。医学部附属病院放射線治療科・ラジオアイソトープ総合センターの准教授を兼任。2008年よりデンマーク王国・コペンハーゲン大学・招へい教授を併任。大阪大学硬式野球部部長。

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