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巧みに動く生き物にこそ ロボット制御の答えがある

小惑星で動作できる小型ロボットの開発

平野 介護分野などでの労働力不足を補うパワードスーツ開発や人工知能ロボットの東京大学受験、人間そっくりのアンドロイドとの会話など、社会でもロボット分野への注目度が高まり、ロボットはより身近になりつつあります。お二人の研究内容を伺う前に、まず、大須賀先生から、小惑星の表面での移動などを確かめる小型ロボット「ミネルバⅡ2」の開発プロジェクトに参加された経緯と、大阪大学チームの役割について教えてください。

大須賀 「はやぶさ2」には、「はやぶさ」(2003年5月打ち上げ)に搭載した「ミネルバ」を改良した「ミネルバⅡ1」(2台)と、私たち大阪大学チームと東京電機大学、東北大学、山形大学の4大学がそれぞれ独自の駆動方式を開発した「ミネルバⅡ2」の計3台の小型ロボットが搭載されています。「はやぶさ2」は2018年夏に直径920メートルの小惑星(1999JU3)に到着する予定です。小型ロボットは惑星の地表を動き回って情報を送るのが役目ですが、小惑星の地面や重力場の状況は不明で動作環境は行ってみないと分かりません。そのような中で、どんなロボットを開発するかというのが課題でした。

平野 電力は太陽電池パネルだけですか。

大須賀 蓄電池も使っていますが、観測機器に電気を使うため、駆動系にはあまり使えません。またサイズ制限もあり、小型ロボット本体は直径15㌢、高さ16㌢、全重量1㌔㌘程度です駆動系一つでは重量の制限は僅か30㌘です。大阪大学チームは最初、作動させるのにモーターを考えたのですが、モーターは電力やスペースを食う。そこでゼンマイ時計の仕掛けを使うことを思いつきました。最終的にはゼンマイも取り除き、「飛び移り座屈」という現象を使って、バネの力で飛び上がるように工夫しました動作の信頼性を追求しているうち少しの力でも飛び上がるシンプルなものになったのですそれを2つ搭載しましたがそれぞれが1回作動すれば終わりです4年もかかって到着して作動は一瞬なのです。

多田隈 今回の場合は、打ち上げから到着までの4年間は全く作動しないというのが重要でした。そして4年後に初めて動かしても大丈夫なのかということにこだわりました。

平野 バネ仕掛けとは予想以上にローテクなのですね(笑)。先日読んだ新聞記事に「アメリカの火星探査機が信頼性に重きをおいて、あえてIBMの古いバージョンを使っている」とありましたが、それと同じなのですね。

 

重力で動く「受動的動歩行機械」に衝撃

平野 大須賀先生は二足歩行や四足歩行、蛇型ロボットなどを用いて、「動き」の中に潜む「ダイナミクス」や「制御」の本質を探る動的制御の研究を行い、最近は生物をターゲットに研究も進めておられるようですね。

大須賀 制御工学という分野は、人工物をどうしたらうまく操れるのかということを追い求めて発展してきました。私も機械系の制御やロボットを研究してきましたが、生き物が多様な環境の中でどうして巧みに動くことができるのかということに興味を持つようになりました。

制御という視点から見ると、制御対象を動かすコントローラーがあってこそ……ということになるのですが、生き物は「制御する部分」「制御される部分」に分かれているのではなく、渾然一体になっているのです。研究では、「歩くのに脳神経系は必要なのか」「知的な行動の根源はどこにあるのか」という疑問に行き着きます。そこで分かってきたのが「身体」と「場」が一緒になることで、初めて意味のある作用になるということです。

平野 具体的にはどういう実験をするのですか?

大須賀 それを物語る存在に「受動的動歩行機械」があります。この機械は動きを制御する駆動機構を持っていませんが、坂道に置くと重力で歩き始めます、その歩き方はモーターで動く2足歩行ロボットよりもはるかに人間に近い。体と地面が接触しているところに、歩かせるための力学的な作用が働いていることが、方程式で解析されています。これを見た時、すごい衝撃を受けました。1990年のことです。そこから私たちは「二足歩行」や「四足歩行」、さらに「二十足」の機械を作りました。「二十足」になると胴体がウェーブし、蛇の動きのようになります。このような環境に合わせて制御する動きを、コンピューター等によって力を加えて制御する「陽的制御」に対して、「陰的制御」と名付けています。

そしてこの「陰的制御」にこそ「知能」の「素」がひそんでいるのではないかと思っています。

平野 大須賀先生の作られた「陰的制御」ロボットに、重力の代わりに「陽的制御」の要素を加えれば、重力の方向と関係なく自由自在に移動して、生き物に近い動きを再現できるということですね。

大須賀 その通りです。そうなるとまさに知能的な動きが可能になるのです。

「からくり」に着目、研究を発展させる

平野 多田隈先生は全方向移動が可能なロボットや駆動機構など、メカニカルなロボットを多数開発され、最近では医工連携の研究にも参加され、細胞シートを取り扱う器具の開発にも参加されていると伺っています。

多田隈 私は「機構」という言葉に「機巧」という漢字を当てています。昔、「からくり」という言葉には、この字を使っていたそうですが、コンピューターのない時代に考え抜かれた巧妙な仕組みに改めて着目し、発明のレベルまで研究を発展させていこうとしています。(駆動機構には)車輪やクローラーなどがありますが、この中でも、従来の全方向車輪において共通するのは直径が機構全体に比べて小さいということです。そのため段差を乗り越えられないという問題がありました。そこで、機構全体を球体状(下図)にしたところ、段差はもちろん溝があっても移動が可能になり、全方向、任意方向に移動することができるようになりました。

平野 創意工夫したということですね。

多田隈 さらに、球体を二つに切って上下方向に伸ばすと、円形断面のクローラー機構になります。球体状とクローラー機構は一見違うもののように見えますが、考え方は同じです。これらを惑星探査に用いようと、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同研究も行いました。

 

ロボットは子供の頃からの夢

平野 お二人とも非常に楽しそうに研究をされておられますね。子供の頃からロボットに興味をもっておられたのですか?

多田隈 幼いころから物を作るのが好きだったのですが、小学校時代に「ロボットのひみつ」というマンガを読んだのが、大きなきっかけでした。その中に人間が「ロボットは何のためにあるのか?」と議論するシーンがあり、「ロボットは人に役に立つためにある」という結論になるのですが、最後は「具体的にどのように役に立つか」を読者に考えさせるような終わり方でした。その後、中学1年生の時、毛利衛さんが「エンデバー」で宇宙に行ったことにも感激したのですが、同じ頃、火星探査機ロボットを見た時に「これこそ人の役に立つロボット」だと確信して、進む道を決めました。

大須賀 私も「鉄腕アトム」や「鉄人28号」「マジンガーZ」が好きで、今の道を選んだのはロボットアニメの影響があると思います。また高校生の時に義手の同級生がいて、義手や義足の研究に進もうと思ったこともありました。修士課程修了後に東芝の研究所に勤務していたのですが、ある時、上司から、ロボットに小太鼓を叩かせるデモンストレーションをするよう指示されました。最初は簡単にできると思っていたのですが、実際やってみるとうまく音が出ない。必死で考えるうち、デモンストレーション当日の夜明け前、ピキーンと、まるで「光が走る」ようなひらめきが起きました。それまでは腕の動きの軌道を計画的に制御しようとしていたのですが、制御をやめ、腕を上まで持っていくだけで力を抜くと、(バチがはずんで)音が出たのです。この経験をきっかけに運動の本質は制御ではなくて、体自体にあるのではないかと思うようになりました。メカニズムだけのの動かし方ではなくて、ダイナミクス(力学)と一緒になったとき、状況に合った動かし方ができる。その意味では、多田隈先生とも共通点がある気がしています。

平野 今の高校生に話を聞くと「進路をどうやって選んだらいいかわからない」という生徒さんもいますが、お二人は中学、高校の時に人生の方向性を決めておられたのですね。

「やわらかな発想」を研究の推進力に

平野 最後にお二人の夢をお聞かせください。

大須賀 以前は生き物には興味がなく、好きでもなかったのですが、最近はムカデやゴキブリを見ても気持ち悪くなくなってきて(笑)。そうした生き物の巧みな動きがどこからくるのか、それを理解せずして人工物の研究があるのかとまで考えるようになりました。生き物を「理解」するのではなく、「納得」する。今後も制御という観点からそれを追究していきたいと思っています。

多田隈 中学時代は「自分の作ったロボットと一緒に火星に着陸したい」と思っていたのですが、研究者になってからは、火星の存在が分かっていること自体で「負け」のような気がしてきました。「そこに山があるから登る」という有名な言葉がありますが、山自体はもう発見されているわけです。そういった意味で言うと、私はまだ全く解明できていない山そのものを発見したいと思っています。そして、メカニズムの観点から、誰がやっても答えを導き出せるような新しい理論体系をまとめたいというのが究極の夢です。

平野 大須賀先生の研究室には、たくさんのオモチャやプラモデルなどがあって、まるで孫の部屋に来たような気がしました(笑)。もっと機械的な冷たい世界を想像していたのですが、お二人とも柔軟な発想をしておられて、とても人間的な研究だと感じました。これからもやわらかい発想でがんばっていただければと思います。今日はありがとうございました。

 集中力こだわり「ひらめきを生む─平野総長 対話をおえて

 お二人とも研究の虫であるとともに、子供のような純粋な気持ちをずっと持ち続けておられると強く感じました。そして集中力こそが大切ではないかと改めて認識しました。研究者や学生を見ていても、同じように実験をして同じ量のデータを持っていても、良いアイデアが浮かんで成果を出す人もいれば、成果を出せない人もいます。両者の分かれ目は何かと考えた時、どれだけ集中して考え続けたか、その差ではないかと、この対話を通じて改めて感じることができました。


●大須賀公一(おおすか こういち)

1984年大阪大学基礎工学研究科修士課程修了、89年工学博士。84年東芝入社、86年大阪府立大助手。同大講師、助教授、京都大情報学研究科助教授、神戸大工学部教授を経て、2009年から現職。専門は制御工学。主要研究テーマは先端制御理論・応用。非線形力学とカオスと制御。ロボティクス。メカニカルアナリシス&シンセシス。

●多田隈建二郎(ただくま けんじろう)

2004年東京工業大学理工学研究科修士課程、07年同博士修了。マサチューセッツ工科大学や東北大学の研究員、電気通信大学の助教を経て、09年から現職。医工連携の研究にも参加し、細胞シートを取り扱う器具の開発にも参加。文部科学大臣表彰若手科学者賞(2011年)などを受賞。

●平野俊夫(ひらの としお)

1972年大阪大学医学部卒業。73〜76年アメリカNIH留学。80年熊本大学助教授、84年大阪大学助教授。89年同教授。2004年同生命機能研究科長。08年同医学系研究科長・医学部長。11年8月、第17代大阪大学総長に就任。05〜06年日本免疫学会会長。日本学術会議会員、総合科学技術・イノベーション会議議員。医学博士。サンド免疫学賞、大阪科学賞、持田記念学術賞、日本医師会医学賞、藤原賞、クラフォード賞、日本国際賞などを受賞。紫綬褒章受章。

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