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常識を疑い日々更新 将棋と哲学 糸谷哲郎

卓越した集中力の秘訣

平野 将棋の七大タイトル最高峰「竜王」を見事獲得されました。おめでとうございます。昨年9月の挑戦者決定戦で羽生善治名人を破った時から、注目していました。堂々と勝負に臨み、将棋界の若い世代に勇気をもたらしましたね。

糸谷 ありがとうございます。

平野 初めてのタイトル戦という緊張の中で、集中力を高め維持するのは並大抵ではなかったでしょう。相手との集中力の対決、そこにはどんな秘訣があるのですか?

糸谷 長時間集中していると、ふとほころびが出る瞬間があるのですが、どこで気を抜くかが重要だと考えています。人間が集中できる時間はある程度決まっていて、それを延ばすのも大切なのですが、むしろ効率をよくすることがポイントです。私は、より積極的に気を抜く時間を作っています。水を飲む、歩くなど何でもよく、適度なリラックスがあればリフレッシュできます。私の場合、対局の終盤に集中力のピークを作るようにしています。

平野 集中するためのリラックスが大事だということですね。研究や学問においても集中力は欠かせません。学問といえば、大学院では哲学を勉強していますね。

糸谷 現代思想文化学の分野で、人間がどのように世界と接しているかを研究しています。

将棋と哲学の接点

平野 将棋と哲学、どんなところに接点がありますか?

糸谷 どちらも常識を疑うことが大切だという点です。例えば、これまで常識とされていた将棋の手を疑う、また日常的に暮らしている中での常識や知恵をまず疑い、常に満足せずに疑い続けるということです。将棋を学ぶ後輩たちを見ていると、勉強して頑張っただけで満足する、つまり現状追認で終わっている傾向があると感じます。そこからどう疑問を持って伸ばしていけるかが重要なのだと思います。

平野 確かに学問でも、ただ論文を書き、同じようなところをぐるぐる回っているだけでは、核心を突くようなブレークスルーにはつながらない。自然科学の世界でも素晴らしい発見は教科書に書いてある定義や理論を疑うことから始まります。将棋でいえば、常に定跡にとらわれないということでしょうか?

糸谷 とらわれないというよりは、更新していくということですね。

平野 将棋と哲学の相乗効果という点ではどうですか?

糸谷 意識的に狙っているわけではありませんが、互いがリフレッシュ効果をもたらしています。一つのことだけをやっているよりは、頭の使い方を変えるだけで、ほかの考え方もよくなるということはあります。

 

理想は全勝哲学はライフワーク

平野 竜王という一つの山の頂上を極めて、次はどんな山を目指すのですか? 

糸谷 将棋では、ほかのタイトルを取りにいくのはもちろん、羽生名人が達成された七冠制覇も目標です。理想は全勝、つまりすべて勝てる棋士となることです。

平野 哲学の世界から見て、すべて勝つ、完璧というのはあり得ることなのですか?

糸谷 完璧はあり得ないでしょうけれど、将棋で全勝する棋士はいてもおかしくないですね。究極の理想であって、実現可能かどうかは別問題ですが。

平野 実現に向け何を重要とし、どのような思考法を進めるのでしょうか?

糸谷 安定性、そして、手の読みを切っていく作業が重要です。どんどん枝が増えていく将棋の手の樹形図の中で、危険な手を見極め、どこで深追いを切れるか、切って発想転換するか、速く元へ戻って深く読めるか。決断の前の作業を速くこなすことだと思います。

平野 ぜひ大きな夢を抱き続け、プロ棋士と学業を両立させながら夢をかなえていってください。期待しています。

糸谷 哲学はライフワークとして続けていくつもりです。今日はありがとうございました。

 

 

第27期 竜王就位式 竜王の名に恥じない将棋を指す

 1月19日(月)、東京の帝国ホテルで第27期竜王就位式が行われ、糸谷さんは日本将棋連盟の谷川浩司会長から竜王推挙状、主催の読売新聞社から竜王杯と賞金がそれぞれ贈呈されました。就位挨拶で糸谷さんは「タイトル初挑戦、海外(ハワイ)での初対局など、初めて尽くしで緊張しました。海外渡航も実は初めてで、英会話の勉強をして備えましたが、日本語で十分通用することがわかり、『ここは日本なの?』と、緊張感もほぐれました」と会場を沸かせ、「第2局以降もリラックスして指せました。今年一年、竜王のタイトルに恥ずかしくない将棋を指したい」と謝辞を述べました。

 

●糸谷哲郎(いとだに てつろう)

2007年文学部入学。11年より文学研究科在籍。98年日本将棋連盟・新進棋士奨励会入り。17歳でプロ棋士になる。森信雄門下。2006年度新人王戦優勝、新人賞・連勝賞受賞。14年竜王獲得、八段に昇段。同世代の棋士らとイベントなどを企画し、将棋の普及にも務める。著書に「現代将棋の思想〜一手損角換わり編〜」。

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