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築山 桂さん(作家)

 

史実のかけらで物語をつむぐ

築山さんの作品には江戸時代の大坂を舞台にしたものが多い。

子どものころからテレビの時代劇が好きだった。「『必殺仕事人』などのチャンバラ時代劇に目がなくて。日常から離れた世界にわくわくしました」。時代モノ好きを決定づけたのは、新撰組を描いた司馬遼太郎さんの小説「燃えよ剣」。新撰組に魅せられ、新撰組の漫画や小説を夢中で読み、京都の史跡も巡った。

大阪大学文学部へ進学。学生時代は古文書の魅力にとりつかれたという。ジグソーパズルのピースのような史実のかけらから、大きな歴史が見えてくることにぞくぞくさせられた。

「権力者ではなく、とりわけ江戸時代の庶民の日常に興味がありました。当時の庶民は『お上には任せられない、自分たちが町を何とかしなければいけない』という意識が強かったのですね。そんな庶民の世界を書きたいと思いました」

大学院時代に作家を目指す

卒業後は大学院で日本近世史を研究。研究は史実をきっちり押さえなくてはいけないが、小説は思い切り逸脱できる。作家への夢を抱いた。

「史実とうそをブレンドして、どこまで本当か分からないように描く。読む人にひょっとしたら本当かも知れないなと思ってもらえたら大成功ですね」

読者から「どこまでが本当なの」と聞かれることもあるが、そこは作家、「想像にお任せします」とはぐらかすとか。

しかし、作家への道は平坦ではなかった。大学院在学中から新人賞へ応募するものの、ことごとく落選してしまう。転機となったのは1998年。知り合いの編集者が「の」を出版してくれたのだ。この作品が新聞の書評欄で激賞され、出版社から執筆依頼が舞い込むようになった。

洪庵を主人公にした小説で注目

作家・築山桂の名前が一躍知られるようになったのは2009年。緒方(後の洪庵)を主人公にした「緒方洪庵 浪華の事件帳」がNHKでテレビドラマ化されたのだ。

 洪庵は大阪大学の原点でもある蘭学塾「適塾」の創設者。「高校の教科書にも載っている江戸時代の大坂の有名人の中で、井原西鶴や近松門左衛門を主人公にした小説は多いけれど、洪庵はほとんどありません。じゃあ、私が書いてみようと。後付けの理由になるかもしれませんが、私は大阪大学出身ですので、運命かも知れないとも思いました」

現在は「自由に、好きなことが書けて幸せ」という作家生活を楽しむ。小説の取材のため、聖徳太子の時代から大坂に暮らす楽人の一族が伝えてきた芸能、天王寺雅楽の楽器、も学んでいる。江戸時代の瓦版や古文書、日記を見たり、街歩きをしながら、小説の構想を練る。たった1行の古文書の記述から想像を膨らませ、物語の世界を作っていく時間が楽しいという。

 スランプに陥ったことはないが、時代モノのおもしろさを見失いそうになる時もある。そんな時は決まって「必殺仕事人」のテレビを見直す。

 「なんでもありの時代劇の魅力に『書く栄養』をもらっています」

しばらくは江戸時代の大坂が主戦場となりそうだ。

後輩たちへ

大阪大学時代の恩師、脇田修先生(現名誉教授)に「作家になりたい」と相談した時、「おもろいやないか」と言ってもらったことを鮮明に覚えている。また村田路人先生(現文学研究科教授)に「小説を書ける先輩がいるのだと後輩に思われるよう頑張ってください」と応援してもらったことも力になっている。恩師たちに支えられたから、作家という夢を実現することができたと実感している。

だから、後輩たちには、型にはまらない「しなやかな学生」になってほしいと期待する。今、日本全体に実学志向の風潮があるが、大阪大学には「しなやかな学生」が活躍できる自由な大学であってほしいと願う。

 

●築山 桂(つきやま けい)氏
本名 山口佳代子。1992年大阪大学文学部卒業。大阪大学博士後期課程単位取得。日本近世史専攻。98年作家デビュー。大坂、江戸を舞台にした時代小説を多く手掛ける。最新刊(本文冒頭に記載)や「天文御用十一屋」を含め現在までに34作品。NHK土曜時代劇「浪花の華〜緒方洪庵事件帳〜」の原作者。雅楽(笙)が趣味。

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