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泉谷八千代さん(NHK奈良放送局長)

人はミスをする生き物

「人間科学部って、いい名前ですね。人間を探究していくという思いが込められていて」
  泉谷さんは人間科学部の出身。授業で鮮明に覚えているのは、「産業行動学」の講義で聴いた「人はミスをする」という一言だ。
「この一言は、『放送に携わる者は皆、ミスは許されない。けれど人間は性としてミスをする生き物。その性を受け入れた上で、ミスがあった時にその意味を問うことが大事』と、私の信念になっています。若い人たちには、『顔に受けた向こう傷は責めない。でも、背中の傷は思い切り怒るよ』と言っています。挑戦する心をもって真正面から突き進んだ結果のミスは、受け止めてしっかりカバーする。けれど、保身を考えて問題から身をそらしたために起きたミスには厳しく。そう決めているんです」
 ゼミでは塩原勉教授のもとで社会学の研究に取り組んだ。NHKに就職して間もない頃に、担当ラジオ番組のゲスト探しの相談に乗っていただいたこともある。
 「まだ人的ネットワークがなかった頃のこと。今から思うと、出身校とはありがたいものですね。『母校』って、読んで字のごとく母のような存在なんですね」
 泉谷さんが「授業以上に力を注いだかもしれない」のは、英語研究会(ESS)。ディベートという論理ゲームに出会った。「ディベートは相手を説き伏せる勝負ですが、本来の目的は思考訓練です。『客観的・複眼的に考える』という、ジャーナリストの基本姿勢をここで身につけたと思います」
 「原発は廃止すべきか否か」といったテーマにもチャレンジした。「1年生の夏の合宿の時。科学の専門書と必死で格闘しましたよ。大変やったけど、今思い返すとありがたい機会だった。」

卒業式総代でガッツポーズ

 大阪大学の「学報」 81年4月版(刊行開始は昭和29年。現在の学内広報誌「阪大NOW」の前身。)には、泉谷さんが卒業式で学部総代を務め、卒業証書をもらう際にガッツポーズでアピールしたエピソードが掲載されている。「卒業も危ういと思っていたら、『総代に』と大学から連絡があったんです。友人たちも乗って、紙吹雪と横断幕で盛り上げてくれました」。横断幕が広げられ、紙吹雪が舞うと、会場がグオオーッとどよめいた。式の後、泉谷さんは学部長だった甲田和衛教授に「総長が怒っているから謝りに行けよ」と言われたが、結局は山村雄一総長と学部長と3人でニコニコの記念写真を撮った。


ジャーナリズムの社会的使命

学生時代、映画好きだったこともあり、映像関係の仕事に就きたいと考えるようになって、就職活動期にはテレビ局に志望を絞った。民放各局の制作部は女性を採用しない時代。番組制作で女性採用枠があったのはNHKだけだった。
 どうしてもNHKに入りたくなったのは、当時、1本のドキュメンタリー番組を見てからだ。それは「外国人差別といじめ」の問題を真正面から描いた番組だった。
 「映像の訴える力に圧倒され、『こんな番組を作りたい』という思いが湧き上がった。その後の人生を決めた一作でした」
 入局後、ディレクター職を経て、プロデューサーとして福祉番組制作にも関わるようになる。障害当事者主体の視点で描く初めての番組だった。
 車いすの若者がクラブで女性をナンパしようと奮闘する番組を放送したら、一人の視聴者からメールが届いた。「人生に疲れきっていたけれど、もう一回、生きていこうかなという気持ちになれた。ありがとう」というメッセージ。番組を通して「等身大の障害者の姿」が伝えられたのだろう。
 「メディアにかかわる者は、取材や表現を通じて、誰かに感動や本物の情報を届けたいという強いミッションを持っている。その思いがストンと腹に落ちたらどんな困難に対してもがんばれる。私はそう信じます」
 泉谷さんの周囲にも、そんなミッションを胸に抱いて努力を続けるスタッフがたくさんいる。「そんな今のNHKが好き」と言い切った。
 奈良放送局スタッフを束ねる泉谷さんには、この地に赴任した時から続けている部下との交流の習慣がある。それは「お茶」。泉谷さんが亭主として茶を点て、部下に振る舞う。一人ずつ、静かに対座して話すひとときだ。この時には抹茶や菓子も、茶器、茶道具まで地元・奈良のものを使う。
「みんな一生懸命な人たちですよ。だからこそ、時には自分の仕事に迷いを感じるし、悩むこともある。出てくる話題はいろいろですね」
 互いに心を開いてじっくり話し合う時間を、大切にしている。局のスタッフも、そんな泉谷局長を「すごく身近な存在」と慕っている。ns57_ob_02_01.jpg

 

「心のご馳走」を届けたい

NHK奈良では、まちの小さな話題から大きな災害まで、県内の情報を丁寧に拾い上げている。昨年9月の台風で甚大な被害に見舞われた南部、吉野地域の復旧復興について提言する特集番組にも力を入れる。
 また、奈良県を支えるさまざまな人々と連携して「こころの都・奈良」プロジェクトにも取り組む。東日本大震災などを経験した日本に対して、奈良からしか発信できないものがあるはずだ。「奈良は、大昔から何度も大変な目に遭い、立ち直っている。例えば、平清盛によって焼き討ちされ、焦土と化したあとも、鎌倉時代になると、運慶、快慶らによる文化の大ルネッサンスを開花させている。奈良県は特別な地。生命力があるんですよ」と、奈良で培われた文化や精神風土を広く紹介することに力を注ぐ。
 奈良には、心のスイッチを切り替えて、新しい気持ちで再出発できる「きっかけ」がある。その奈良の特性を「こころの都」という言葉に込め、現在とともに未来を生きる上で羅針盤となる奈良の魅力を発信したいと思っている。
 「奈良の魅力を一言で」と尋ねたら、「心のご馳走がいっぱいあるところ」と返ってきた。「心が迷走している時代だからこそ、奈良の良さが光ります。このページを読んだ方が、奈良に興味を感じ、訪れてくださったらうれしいです」

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