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X線自由電子レーザーを用いて金属ナノ粒子の粒度分布と内部組織を複合的に分析―世界最高クラスの効率・精度分析によりSACLAの産業利用を開拓―

2013年11月26日(火)

本研究成果のポイント

・SACLAでの高効率なナノ材料粒子イメージングによる統計分析を実証

・10nmを超える世界最高の解像度で金属ナノ粒子の粒度分布と内部組織の複合分析を可能に

・ナノ材料分野におけるSACLAの産業利用に期待

リリース概要

国立大学法人大阪大学(平野俊夫総長)、慶應義塾大学(清家篤塾長)、独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)、国立大学法人信州大学(山沢清人学長)は共同で、X線自由電子レーザー施設SACLA※1において、ナノ粒子の粒度分布と内部組織を複合的に解析する方法を開発しました。これは、大阪大学大学院工学研究科の高橋幸生准教授、慶應義塾大学理工学部物理学科の中迫雅由教授、理化学研究所放射光科学総合研究センター利用システム開発研究部門の山本雅貴部門長を中心とする共同研究グループによる成果です。

ナノ粒子は、一般的な大きさの固体(バルク)の材料にない特有の物性を示すことが知られています。その特性を決定する、形状・サイズや表面・内部組織に関して、その膨大な数の粒子から統計的な構造情報を取得する方法が希求されてきました。今回、研究グループは、X線自由電子レーザー施設SACLAにおいて、形状制御金属ナノ粒子から1万枚にもおよぶコヒーレントX線回折強度パターンを短時間で高効率に収集することで、統計的構造解析を可能とし、粒度分布を導出することに成功しました。また、コヒーレントX線回折パターンに位相回復計算を実行することで、粒子の電子密度分布の投影を10nmより優れた分解能で可視化し、粒子径と内部組織の関係を明らかにしました。

この研究により、SACLAでのコヒーレントX線回折イメージング※2によってナノ材料の形状・サイズおよび内部組織の統計解析が可能であることが示されました。この新しい技術は、今後、革新的なナノ材料の設計・創製に繋がると期待されており、より高速で実施可能な形態へ進化を遂げるために、測定装置や解析プログラムの改良が進められているところです。今回の実験方法は、我が国の産業が得意とする触媒材料開発などの産業基盤へのSACLAの貢献の在り方を示した点でも意義深いものです。

特記事項

本研究は、文部科学省X線自由電子レーザー重点戦略研究課題と科学研究費補助金の支援を受けて実施されました。

本研究成果は、科学雑誌『Nano Letters』(12月11日号)に掲載されるに先立ち、オンライン版(11月25日付け:日本時間11月26日)に掲載されました。

(論文)
“Coherent Diffraction Imaging Analysis of Shape-Controlled Nanoparticles with Focused Hard X-ray Free-Electron Laser Pulses”
Yukio Takahashi, Akihiro Suzuki, Nobuyuki Zettsu, Tomotaka Oroguchi, Yuki Takayama, Yuki Sekiguchi, Amane Kobayashi, Masaki Yamamoto, Masayoshi Nakasako
Nano Letters, 2013
URL: http://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/nl403247x

研究の背景

ナノ粒子は、比表面積が大きいために量子サイズ効果などによる特有の物性を示すなど、一般的なバルク固体材料とは異なることから、様々な分野で物性と粒子創製の両輪において研究が進められています。特に、ナノ粒子の光学的特性は、粒子のサイズ、形状、表面/内部組織のような多くの構造パラメータによって決定されることが知られており、形状制御合成法は、所望の光学特性を有するナノ粒子を作製する効果的な方法の一つです。しかしながら、形状制御合成法で、粒子のサイズおよび構造をナノメートルオーダーで制御することは容易ではなく、粒子の統計的な構造情報が不可欠です。

現在、粒子のサイズ分布は、一般的に、動的光散乱法やレーザー回折法のような可視光を用いた方法や電子顕微鏡観察による画像解析によって行われます。可視光を用いた方法では、粒子を球形として仮定するため、高精度な解析ができないという問題がありました。また、電子顕微鏡観察による画像解析では、直接的に粒子径に導出できるものの、金属ナノ粒子のような電子線が透過しにくい物質については、内部構造情報の取得が極めて難しいという問題がありました。

X線は、高い透過性を有するため、古くから物質内の情報を取得するプローブとして用いられてきました。特に、近年、X線の可干渉性を利用したコヒーレントX線回折イメージング(Coherent X-ray Diffraction Imaging: CXDI)と呼ばれる構造解析法の進展が目覚ましく、世界の放射光施設を中心に盛んに研究されています。CXDIを用いて、ナノ粒子の統計的な組織解析をするためには、多くの回折データを高速で収集することが不可欠であり、大型放射光施設SPring-8※3を用いた実験では、1枚の回折パターンの取得に10分以上要し、試料の交換に数十分を要するので、粒子の統計的構造解析を行うことは、実際、不可能な状態でした。

本研究では、X線自由電子レーザー施設SACLAで得られる極めてピーク輝度の高いコヒーレントX線を駆使することで、CXDIによるナノ粒子の統計的解析を実現し、形状制御金属ナノ粒子の粒度分布と内部組織の複合分析に成功しました。

研究成果の内容

試料には、ポリオール還元法によって合成された銀ナノキューブ粒子と、それを塩化金酸溶液中に浸しガルバニ置換反応によって作製する金/銀ナノボックス粒子を用いました。CXDI実験は、X線自由電子レーザー施設SACLAのBL3にて実施しました。波長2.25オングストローム(Å:100億分の1メートル)のX線自由電子レーザーパルスを1.5マイクロメートル(μm:100万分の1メートル)のスポットサイズに集光し、照射装置“壽壱号(ことぶきいちごう)”(本年9月学術雑誌「Review of Scientific Instruments」【出版社:American Institute of Physics】にて発表済み、本年10月3日プレスリリース【外部サイト: http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2013/131003】)に導入します。そして、銀ナノキューブ粒子あるいは金/銀ナノボックス粒子を散布した窒化ケイ素膜を壽壱号内の集光面に配置し、1 Hzの繰り返しで、X線自由電子レーザーパルスを照射しました。激烈な強度をもつX線パルスは、照射領域にある試料を原子レベルで破壊しますが、破壊が起こる前にX線散乱が生じるため、粒子の構造情報を持つ回折パターンを得ることができます(破壊前の回折:diffraction before destroy)。このため、窒化ケイ素膜を集光面内で二次元的に走査して常に新しい試料粒子を照射野に供給し、レーザーパルスの照射と同期して、単一パルス照射によるコヒーレントX線回折データをX線CCD検出器で収集します(図1)。約10000枚の銀ナノキューブおよび金/銀ナノボックス粒子の回折強度パターンはスクリーニング処理され、孤立粒子にヒットした1000枚の回折パターンが抽出されます。

コヒーレントX線回折パターンは、粒子の微細構造に極めて敏感で、微細構造を反映した斑点模様が観測されます。今回、収集された回折パターンは斑点模様が鮮明であることから、SACLAで得られるX線自由電子レーザーの干渉性が極めて高いことが分かります(図2)。この斑点の大きさは、粒子径の逆数に対応していることから、粒子径を見積もることができます。従って、全ての回折パターンについて、斑点の大きさを調べることで、粒度分布を導出することができます。1000枚の回折パターンから粒度分布を導出し、ガウス関数で近似したところ、銀ナノキューブについては平均粒子径:144.0nm、金/銀ナノボックスについては平均粒子径:155.4nmという結果が得られました(図3)。粒子径の決定精度は、約3nmであり、極めて高い精度で、粒度分布を導出できていると言えます。銀ナノキューブに比べて金/銀ナノボックスの平均粒子径が大きいのは、ガルバニ置換反応の初期過程において銀ナノキューブの表面に金の層が形成されたからであり、平均粒径の差から約5.7nm厚さの金の層が銀ナノキューブの表面に形成されたという、反応のダイナミクスに関連した知見も得られました。

一方、コヒーレントX線回折パターンに位相回復計算を実行することで、個々の粒子の電子密度投影像を再構成することもできます(図4)。銀ナノキューブからの回折パターンに位相回復計算を実行すると、電子密度が一様であることを反映したコントラストが得られ、粒子端におけるコントラストの変化から分解能を見積もると約7nmであり、X線自由電子レーザーを用いたコヒーレントX線回折イメージングで達成された世界最高の分解能でした。また、金/銀ナノボックスの再構成像は、中空構造を反映した電子密度コントラストが得られていることが分かります。粒子径が大きくなるにつれて、中空構造が大きくなっており、粒度分布の結果と照らし合わせると、多くの粒子で20-40%の領域が中空である部分的な中空構造を有していることが分かりました。

今後の展開

今後、ナノ粒子の粒度分布と内部組織を10nmより優れた分解能で複合的に解析可能な本手法を用いた様々なナノ材料の分析への応用が期待されます。現状では、粒度分布解析に必要なコヒーレントX線回折データの収集に3時間程度要しますが、これは試料走査のためのステージの送り速度によって制限されています。現在、高速ゴニオメーターを備え、試料交換回数を低減させる新たな照射装置を開発中であり、この装置を用いることで現状の光源性能でも測定時間を数分にまで短縮することが可能です。これにより、本手法の産業利用も視野に入り、例えば、自動車に用いられる排ガス浄化用触媒粒子に代表されるサブミクロンサイズの微粒子の構造解析とその開発過程へのフィードバックといった応用が期待されます。

参考図

図1 X線自由電子レーザーパルスによる金属ナノ粒子のコヒーレントX線回折実験の概念図
集光ミラーによってX線自由電子レーザーパルスを1.5マイクロメートルのスポットに集光し、金属ナノ粒子を散布した窒化ケイ素膜を集光面内に配置する。窒化ケイ素膜を集光面内で二次元的に走査し、走査各点においてX線自由電子レーザーを1パルス照射し、回折強度パターンをX線CCD検出器によって収集する。

図2 銀ナノキューブおよび金/銀ナノボックス粒子のコヒーレントX線回折パターン
X線自由電子レーザーの1パルス照射により高いコントラストで銀ナノキューブおよび金/銀ナノボックス粒子からのコヒーレントX線回折パターンの測定に成功した。コヒーレントX線回折パターンは、斑点状に分布する。斑点の大きさの逆数が、粒子のサイズに対応している。

図3 コヒーレントX線回折パターンから導出した銀ナノキューブ、金/銀ナノボックス粒子の粒度分布
銀ナノキューブおよび金/銀ナノキューブ粒子それぞれについて1000枚のコヒーレントX線回折パターン中の斑点の大きさを解析することで粒度分布を導出した。

図4 銀ナノキューブおよび金/銀ナノボックス粒子の電子密度分布投影像
コヒーレントX線回折パターンに位相回復計算を実行することで、金属ナノ粒子の電子密度分布投影像が再構成される。銀ナノキューブの再構成像の断面から分解能が10nmより優れていることが分かる。金/銀ナノボックスは中空構造に由来するコントラストが得られ、中空構造のサイズが粒子径とともに大きくなっていることが分かる。

用語解説

※1 X線自由電子レーザー施設SACLA
理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのX線自由電子レーザー施設。科学技術基本計画における5つの国家基幹技術の1つとして位置付けられ、2006年度から5年間の計画で整備を進めた。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser の頭文字を取ってSACLAと命名された。2011年6月に最初のX線レーザーを発振、2012年3月から共用運転が開始され、利用実験が始まっている。ほぼ完全な干渉性を有し、極めてピーク輝度の高いX線が利用可能である。

※2 コヒーレントX線回折イメージング
干渉性の優れたX線を試料に照射した際に、遠方で観測される回折パターンに位相回復計算を実行して試料像を取得するイメージング技術。結像するためのレンズを必要としないため、これまでレンズによって制限されてきたX線イメージングの空間分解能を飛躍的に上昇させることが可能となった。コヒーレントとは、干渉性の優れた、位相のそろった波を意味する。

※3 大型放射光施設SPring-8
理化学研究所が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高輝度の放射光を生み出す施設。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来する。放射光(シンクロトロン放射光)とは、荷電粒子が磁場の中で曲がる際に放射される光の一種。 SPring-8では、周回する電子群のサイズが小さいことや高い安定性のため、干渉性の優れたX線が得られる。

参考URL

大阪大学大学院 工学研究科 精密科学・応用物理学専攻 高橋幸生准教授
http://www-up.prec.eng.osaka-u.ac.jp/takahashi/

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