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界面の電子輸送のみを触らずに測る技術を開発―トランジスタや太陽電池などの半導体デバイスの開発を格段に加速―

2013年11月11日(月)

リリース概要

大阪大学大学院工学研究科 本庄義人博士(当時:日本学術振興会特別研究員)、宮階智代氏(博士前期課程2年)、櫻井庸明博士(日本学術振興会特別研究員)、佐伯昭紀助教、関修平教授からなる研究グループは、マイクロ波※1を用いた測定装置を設計し、半導体※2-絶縁体※3界面における電荷移動度※4を非接触測定により求める技術を開発することに成功しました。このことにより、有機半導体材料に対して接触させる絶縁体の種類を変化させた際に電荷移動度が受ける影響のみを詳細に調べることが初めて可能となり、高い性能を示すFET素子を実現するための指針を得ることが期待されます。

本研究成果は、2013年11月11日(ロンドン時間)に英国Nature Publishing GroupのScientific Reportsのオンライン速報版で公開されます。

研究の背景

現代の情報化社会を支える基盤となっている電子素子は、言うまでもなくシリコンを中心とした無機半導体材料です。これまでの半導体素子の材料開発を概観してみると、化合物半導体・酸化物半導体材料の新規参入を受け続けながらも、常にその中心にはシリコンが存在し続けています。一方、主に炭素からなる有機半導体材料※5は、デバイス特性ではシリコンなどの無機材料に比べて劣るものの、軽量、大面積、フレキシブル、印刷が可能などの特徴から電子ペーパーやフレキシブル・ディスプレイなどのユニークな用途が拓けると期待されています。特に、有機半導体材料の応用の代表例である電界効果トランジスタ(FET)※6をはじめ、有機太陽電池・有機ELなど、ほとんどすべての電子デバイスでは、半導体材料間、あるいは半導体と電極・絶縁体といった材料が相互に接触している界面で電子が輸送されています。界面においてどれくらい電子が移動しやすいか?という点がその素子の性能を決定しているといっても過言ではありません。しかし、界面だけに限定した電子の輸送状態を正確に捉える技術はこれまでほとんどありませんでした。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究では、素子全体として電極間を移動する電荷の移動度を測るのではなく、より微視的な界面付近の電荷輸送現象を捉えるために、マイクロ波による電荷キャリアの共振現象に着目しました。しかし、半導体-絶縁体界面に電荷キャリアを生じさせるためには金属電極は必須であり、一方で金属はマイクロ波を吸収してしまうため、今まで用いられてきたマイクロ波測定法を適用することはできませんでした。そこで今回、電極-絶縁体-半導体からなるシンプルな素子(MIS素子)を位置・方向を工夫して空洞共振器内に導入することにより、マイクロ波による局所電場※7が電荷キャリアの移動のみを捉えることが可能な測定装置を開発しました(図1)。実際に、代表的な有機半導体としてペンタセン※8、絶縁体としてポリメチルメタクリレート※9を用いたMIS素子の測定を行い、ゲート電圧に応答して電荷が蓄積されていく様子を反射マイクロ波変化量の時間変化および電流の時間変化としてモニタリングすることに成功しました。さらに、ゲート電圧の極性と大きさを変化させ、得られた反射マイクロ波変化量の強度を調べたところ、作成したMIS素子におけるペンタセンのホール移動度は6 cm2Vs–1、電子移動度は0.3 cm2V–1s–1と見積もることができました。FET素子の特性を調べる一般的な方法では、ソース・ドレインといった電極から半導体材料への電荷注入など複数の素過程を含んだ全体としての特性のみしか評価できません。それに対し、今回の方法では、半導体-絶縁体界面の電荷移動度のみを非接触・非破壊で評価することができるため、純粋に素子の中の界面の状態と、材料としての性能評価が同時に可能となります。さらには、絶縁体や電極など、さまざまな材料の種類を変えた素子を評価することにより、あらゆる界面での電子輸送を、迅速・定量的に、「触らずに」測定できる可能性を示しています。

今後の予定

本研究により、代表的なp型有機半導体の一つであるペンタセンが絶縁体との界面において高い電荷移動度(〜6 cm2V–1s–1)を示していることを、非接触測定法により評価しました。また、本測定法により、ペンタセンも微視的な領域であればホールだけでなく電子輸送も示すことが示唆されました。今後は、有機半導体材料に対して接触させる絶縁体の種類を変化させた際に電荷移動度が受ける影響を詳細に調べることで、高い性能を示すFET素子を実現するための指針を得ることが期待されます。さらに、本測定法は半導体材料の微視的な領域において正孔と電子の寄与を分離して電荷移動度を測定できる現状唯一の方法でもあり、さまざまな材料の潜在的な電荷移動度の評価法としてもさらなる展開が期待されます。

特記事項

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
研究代表者 関 修平(大阪大学 大学院工学研究科 教授)
独立行政法人日本学術振興会 先端研究助成基金助成金(最先端・次世代研究開発支援プログラム)
研究課題名 「全有機分子サイリスタ・ソレノイドのデザインと実証」

原論文情報

Yoshihito Honsho, Tomoyo Miyakai, Tsuneaki Sakurai, Akinori Saeki, Shu Seki
"Evaluation of Intrinsic Charge Carrier Transport at Insulator-Semiconductor Interfaces Probed by a Non-Contact Microwave-Based Technique"
英国Nature Publishing Group, Scientific Reports, DOI: 10.1038/srep03182

参考図

図1 有機半導体-絶縁体界面における電荷移動度定量を行う測定装置の模式図

用語解説

※1 マイクロ波
波長1mから100µm程度の電磁波を指し、電子レンジなどにも用いられている。電子レンジが水分子を振動させるように、ある波長のマイクロ波は電荷キャリアを振動させ、マイクロ波のパワーが減少する。本研究ではこの原理を利用し、電荷キャリアの振動速度を求める。

※2 半導体、※3 絶縁体
物質は電気を通すことができるかどうかによって、導体・半導体・絶縁体に区分される。電気をよく通す物質は導体、通さない物質は絶縁体と呼ばれ、半導体はその中間に位置している。明確な定義は難しいが、導体と半導体の境目は電気抵抗率が10–3 Ω cm、半導体と絶縁体の境目は 10–6 Ω cm程度である。

※4 電荷移動度
固体の物質中での電荷の移動のしやすさを示す量のこと。

※5 有機半導体材料
半導体の特性を示す有機材料のことである。無機材料と同様に、正孔をキャリアとして伝導するp型半導体と、電子をキャリアとして伝導するn型半導体がある。

※6 電界効果トランジスタ(FET)
ゲート電極に電圧をかけ、チャネルの電界により電子または正孔の流れに関門(ゲート)を設ける原理で、ソース・ドレイン端子間の電流を制御する増幅・スイッチ動作を行う素子である。近年、有機半導体を用いた電界効果トランジスタの開発が非常に活発化している。

※7 局所電場
マイクロ波は電磁波であり、空洞共振器内ではその電場がある空間分布を持っている。ここでいう局所電場とは、空洞共振器内に挿入されたMIS素子の界面付近における電場のことを指す。

※8 ペンタセン
5つのベンゼン環が直線状に縮合した多環芳香族炭化水素である。光や酸素にやや弱いという欠点はあるが、昇華精製により高い純度の材料を得ることができる。FET素子にした際に高いホール移動度を示すことが報告されており、古くから注目されている化合物である。

※9 ポリメチルメタクリレート
アクリル樹脂の一種であり、メタクリル酸メチルが重合した透明性の高い非晶質の合成樹脂である。熱可塑性を有し、有機溶媒への溶解性も比較的良いため、加工性が高いことで知られる。有機エレクトロニクスの観点からは、絶縁性を有する高分子材料である。

参考URL

大阪大学大学院工学研究科 応用化学専攻 物性化学領域
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~cmpc-lab/

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