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テラヘルツ・エリプソメーター:世界に先駆けて実用化に成功―ワイドギャップ半導体ウェハ・デバイス等の非接触電気特性評価が可能に―

2013年10月11日(金)

リリース概要

大阪大学レーザーエネルギー学研究センターの長島健 助教と日邦プレシジョン株式会社(山梨県韮崎市、代表取締役社長、古屋賞次)のグループは、半導体等の各種材料物性評価に有効なテラヘルツ分光法にエリプソメトリー※1を適用したテラヘルツ・エリプソメーターの実用化に世界に先駆けて成功しました。

本成果では電極作製が困難な材料について非破壊・非接触で誘電特性及び電気特性をその場で測定することを可能とし、各種製品の製造ラインにおけるインライン検査に適しており広範な応用が期待されます。特に高効率電力利用のために開発が急速に進められているワイドギャップ半導体パワーデバイスの評価・開発支援に有用です。

本開発品は10月16日(水)から3日間にわたってパシフィコ横浜で開催される「BioOpto Japan 2013」及び12月4日(水)から3日間にわたって幕張メッセで開催される「セミコン・ジャパン 2013」に出展されます。

開発の背景

0.1〜10テラヘルツ(1兆ヘルツ)の電磁波に対する物質の応答を調べるテラヘルツ分光技術は、1980年代後半にフェムト秒(1000兆分の1秒)レーザーを用いてテラヘルツパルスを発生・検出するテラヘルツ時間領域分光法が開発されてから急速に発展してきました。特にテラヘルツ分光によって半導体中自由キャリアの密度及び移動度という、半導体の電気特性を特徴づけるパラメーターを非破壊・非接触で直接的に測定できることから、早くから産業応用への展開が期待されてきました。ところが従来のテラヘルツ分光技術では金属電極が設けられたデバイスあるいは高ドープ半導体のような、テラヘルツ波に対し不透明な材料の評価が困難であったため、用途が限定されていました。

そこでテラヘルツ時間領域分光法に反射型エリプソメトリーを適用した「テラヘルツ・エリプソメトリー」を独自に考案し、透明・不透明に関わらず幅広い材料のテラヘルツ帯複素誘電率スペクトルの測定を可能にしました。特に半導体の場合には測定された複素誘電率スペクトルから自由キャリアの移動度及び密度を独立に決定する手法を開発しました。テラヘルツ・エリプソメトリーではテラヘルツパルスの「偏光」の状態を精密に測定する必要があります。このために偏光子※2が用いられますが、偏光子の「消光比」※3と呼ばれる性能指数がエリプソメトリーの測定精度を大きく左右します。従来のテラヘルツ帯偏光子の消光比は不十分でしたが、独自構造の高消光比ワイヤーグリッド偏光子(国内及び米国特許取得済み)を開発しました。これら技術を組み合わせ、テラヘルツ・エリプソメーターの実用化に世界に先駆けて成功しました。

開発した装置の意義

開発したテラヘルツ・エリプソメーターの大きな特徴の一つは、参照信号測定が不要なために、その場で試料のテラヘルツ帯複素誘電率スペクトルを高精度に測定できる点です。このためにテラヘルツ・エリプソメーターは各種製品の製造ラインでの非破壊・非接触インライン検査に適しています。近年開発されている各種先端材料(ワイドギャップ半導体、高誘電率材料等)は電極作製が困難な場合がほとんどであり、従来の接触法による誘電特性や電気特性評価が非常に困難です。開発したテラヘルツ・エリプソメーターはこれら先端材料及びそれを用いたデバイスの非破壊・非接触評価を可能にしており、広範な応用が期待されます。

中でも近年急速に開発が進められているワイドギャップ半導体パワーデバイス開発支援への応用が期待されています。高い信頼性が必要なパワーデバイスに用いられるワイドギャップ半導体ウェハの電気特性(自由キャリア密度及び移動度)の精密評価法、さらにこれらの分布計測法の開発が急務になっています。このため今回開発した装置は特に半導体ウェハの自由キャリア密度及び移動度の分布計測に適した構成になっています。ワイドギャップ半導体SiCパワーデバイスは省電力化のキラーデバイスとして期待され、現在精力的に研究・開発が進められていますが、デバイス基板に用いられるSiC単結晶ウェハは大変高価です。テラヘルツ・エリプソメーターにより基板ウェハにダメージを与えることなく電気特性を測定することで、デバイス製作において基板ウェハ使用量を削減するとともに、得られた電気特性をデバイス設計パラメーターに迅速に反映できるため、デバイス開発コスト削減及びリードタイム短縮が期待できます。

開発した装置は商品名「Tera Evaluator(テラエバリュエーター)」として日邦プレシジョン株式会社より販売します。

今後は半導体ウェハだけでなく基板上のエピタキシャル膜の電気特性評価や、半導体以外の先端材料(例えば高誘電率材料等)の誘電特性評価へ向け開発を継続します。

特記事項

本装置は、10月16日(水)から3日間にわたってパシフィコ横浜で開催される「BioOpto Japan2013」及び12月4日(水)から3日間にわたって幕張メッセで開催される「セミコン・ジャパン 2013」に出展されます。

なお、本成果のうちワイヤーグリッド偏光子の開発は文部科学省知的クラスター創成事業「京都環境ナノクラスター」の支援のもと実施されました。このように大阪、京都、山梨の複数地域間の連携によって推進されている点も本開発の特色の一つです。

参考図

図1 テラヘルツ・エリプソメトリーの概念図

図2 開発したテラヘルツ・エリプソメーターの外観

用語解説

※1 エリプソメトリー
特定の方向の電場を持つ電磁波を偏光という。偏光の様子は電磁波が試料を透過あるいは反射した際に変化する。この電磁波の偏光状態の変化から試料の誘電特性や光学特性を導出する手法をエリプソメトリーと呼ぶ。透過率あるいは反射率を測定する通常の分光測定では試料測定の他に参照信号測定が必要である。これに対してエリプソメトリーでは、試料を透過あるいは反射した電磁波の偏光状態がわかれば良く、参照信号測定が不要であるため、試料交換を必要とせずに試料の誘電特性を測定できる。

※2 偏光子
フィルターの一種で、入射した電磁波のうち、ある特定の方向の電場成分のみを持つ電磁波を透過させる。電磁波の偏光状態を調べるために不可欠な素子。

※3 消光比
偏光子の性能を表す指数で、最も透過率の高い電場方向に対して直交する電場を持つ不要成分の透過を阻止する能力を表す。不要成分が増大すると電磁波の偏光状態の測定において誤差が大きくなる。このためエリプソメトリーでは優れた消光比の偏光子を用いることで測定精度が向上する。

参考URL

大阪大学 レーザーエネルギー学研究センター テラヘルツサイエンスグループ
http://www.ile.osaka-u.ac.jp/research/ths/

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