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免疫系の老化に関与する蛋白質を発見—免疫系の老化の克服に新たな一歩—

2013年6月25日(火)

リリース概要

大阪大学大学院医学系研究科内科学講座(血液・腫瘍内科学 教授:金倉譲)の横田貴史助教・佐藤友亮助教(現神戸松蔭女子学院大学人間科学部准教授)らは、血液・免疫細胞を生み出す大本である造血幹細胞※1において、核クロマチン※2構造を包括的に調節する蛋白質Satb1が、加齢とともに低下していることを見出しました。また、老化したマウスの骨髄から分離した造血幹細胞にSatb1を発現させると、リンパ球※3を産生する能力が部分的に回復することを見出しました。本研究は、東邦大学医学部の近藤元就教授(免疫学)、米国オクラホマ医学研究財団のPaul Kincade博士、米国カリフォルニア大学バークレー校Terumi Kohwi-Shigematsu教授らと共同で行われました。本研究の成果は、高齢者でのワクチン接種の有効率を高め、癌や感染症に対する免疫力を賦活する新しい技術の開発に寄与すると期待されます。本研究成果は、米国免疫学専門誌Immunity(Cell press)のOnline版に6月20日(アメリカ東部時間)に掲載されました。

研究の背景

生理的なリンパ球造血に関する興味深い事実として、老化に伴いその初期過程が著明に衰微することが知られてきました(図1)。その原因として造血幹細胞の質的変化が関係していると推測され、造血幹細胞に発現している遺伝子の加齢に伴う変動について盛んに解析が行われてきましたが、免疫系の老化に関わる具体的な遺伝子は不明でした。造血・免疫系の加齢にともなう変化は、高齢者で発症する白血病・リンパ腫の病型にも影響を与えることから、その分子機構の解明は、血液系の悪性腫瘍の観点からも重要な研究課題です。

横田は、米国留学中、五十嵐英哉博士(現川崎医科大学免疫学准教授)とともに、従来造血幹細胞とされていた細胞集団から、極めて早期のリンパ球前駆細胞を分離・培養する方法を開発しました。この細胞は高いリンパ球産生能力を有する多能性前駆細胞でしたが、造血幹細胞を定義づける長期造血再構築能は既に失っていました。帰国後、現在所属している研究室で、リンパ球への分化の第一歩を誘導する遺伝子の同定を目標に、高純度で分離した早期リンパ球前駆細胞と造血幹細胞の発現遺伝子の比較を行いました。その結果、リンパ球への分化の初期段階でSatb1が重要な役割を持ち、かつその発現量が免疫系の老化に関与している可能性を見いだしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今後数十年の間に社会全体の高齢化が急速に進み、今世紀の半ばには人口の4人に一人が60歳以上になると推測されています。既に高齢者の医療費が社会全体に大きな影響を与えている現状を鑑みると、免疫系の調節によって高齢者の感染症や癌への罹病率を減少させることができれば、個人の“生活の質”のみならず社会全体の経済にも大きな恩恵となると考えられます。この部分において、本研究の成果とそれに基づく技術開発は、健康長寿社会の実現と国際競争力強化による日本全体の経済成長を目指した、「ライフ・イノベーション」政策の推進に大きく寄与すると期待できます。

関連した研究分野として、幹細胞を用いた再生医療が社会的に大変注目されています。特に最近、生体の皮膚などから得られた細胞から、胎児胚性幹細胞※4(embryonic stem cells; ES細胞)様の人工誘導万能細胞(induced pluripotent stem cells; iPS細胞)を作製する画期的な技術が開発され、脚光を浴びています。今回の私達の研究報告では、Satb1の発現誘導により、ES細胞からも効率よくリンパ球を産生させることができる実験結果も紹介しています。Satb1の発現調節によって、ES細胞やiPS細胞から大量の免疫細胞を試験管内で誘導できるような技術が開発できれば、免疫機能の低下をきたす疾患の病態解明のみならず、誘導細胞を用いた新しい治療方法の開発にも繋がると期待されます。

特記事項

今回の研究論文は、Immunity編集部から高い評価を頂き、私どもから提供いたしましたイラスト(Image by Yusuke Satoh. Drawing by Yusuke Koshima)(図2)が、同誌6月号の表紙に選択される予定です。

参考図

図1 老化とともにリンパ球は作られなくなる。


図2 若い造血幹細胞(Young HSC)は、骨髄球(M)・赤芽球(E)・リンパ球(L)へ分化する能力を持っていますが、老化によってSatb1が低下すると、リンパ球への扉が閉ざされます。

用語解説

※1 造血幹細胞
様々な血液細胞を全種類作り出せる分化能力と、自分と同じ能力を持つ細胞を産生する自己複製能力を兼ね備えた、造血の大本になる細胞。

※2 クロマチン
真核細胞の核にある、DNA・ヒストン・非ヒストン蛋白質の複合体。染色体を構成する。

※3 リンパ球
多様な病原体に対して特異的に排除する機能をもつ適応免疫系において、中心的な役割を担う白血球。

※4 胚性幹細胞
哺乳類胚の内部細胞塊に由来する細胞。体のすべての細胞になる能力を持つ。

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科内科学講座(血液・腫瘍内科学教室)
http://www.hematology.pro/

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