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光刺激応答性人工筋肉の開発に成功―生き物のように光に応じて形態変化を示すゲルアクチュエータ―

2012年12月12日(水)

リリース概要

大阪大学 大学院理学研究科・基礎理学プロジェクト研究センター長 原田明教授らは、環状多糖のシクロデキストリン※2(CD)と光刺激応答性分子であるアゾベンゼン※3(Azo)をセンサー&コントロール機能分子としてヒドロゲル※4に組み込み、光の照射波長に応じて、屈曲したり、収縮または伸長したりするゲルアクチュエータ※1を開発しました。このゲルアクチュエータは、生体系の選択的な自己組織化と協同効果※5による、形状変化やシグナルの増強といったことを参考に分子設計を行い、ホスト-ゲスト相互作用※6による可逆的な結合を利用して、光刺激に応じた形態変化を実現しました。今回の成果は、光刺激によりミクロレベルで分子認識を制御し、このミクロレベルでの制御をマクロレベルの材料の形態変化まで組み上げた世界で初めての例です。今後、この光刺激応答性伸縮ゲルアクチュエータを用いて、機能性材料の開発や医療材料の素材として使用されていくことが期待されます。本研究成果は、JST戦略的創造研究推進事業(CREST)の一環として行いました。

なお、本研究成果は、ロンドン時間12月11日16:00に英国科学雑誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」オンライン速報版で公開されます。

 

研究の背景

近年、筋肉の様な任意の刺激に応じて形態変化を示す材料が注目を集めています。その中でも、今回開発したゲルアクチュエータにも使用されている高分子ゲル※7は、その柔らかい特徴を生かして、様々なソフトマテリアルの作製や機能材料の開発に使用されています。この高分子ゲルを用いたソフトアクチュエータの開発は、セラミックや金属を用いたハードアクチュエータとは異なり、軽くて伸縮性が大きいことから人工筋肉としての応用や医療材料への利用が期待されています。

そんな中、私たちの体の中ではすでに外部刺激に対して応答する運動機能など、生物が生きていくうえで必要不可欠な機能が、天然のゲルアクチュエータにより運用されています。このような機能を示す生体のゲルアクチュエータは90%以上が水から構成されている、ヒドロゲルにより組織されているのです。

このヒドロゲルにより組織されたゲルアクチュエータは、分子認識によるシグナル伝達によって運動機能が制御されており、協同的に個々の分子が一斉に機能することによって私たちの体は大きな運動を実現しています。

そこで我々は刺激に対して可逆的に応答するアクチュエータを、環状多糖のシクロデキストリン(CD)と光刺激応答性分子であるアゾベンゼン(Azo)をセンサー&コントロール機能としてヒドロゲルに組み込むことで開発できるのではないかと考えました。これは従来開発されているアクチュエータの駆動原理とは異なり、分子認識と協同効果に基づいた、今までにない、全く新しい駆動原理のアクチュエータと言えます。

このゲルアクチュエータを制御する方法として、疎媒性変化、温度、pH、電気、磁場、などの刺激が考えられますが、直接操作できない空間に位置する材料を遠隔にて操作することが可能であること、さらに配線を不要とするため、マイクロアクチュエータへの展開に有利であることから、今回は光刺激に対して形態変化をするゲルアクチュエータを開発しました。

 

本研究内容と成果

始めに、分子認識システムを構築するにあたって、ホスト分子として環状多糖のα-シクロデキストリン(α-CD)を選択し、ゲスト分子として光の波長に応じて可逆的に構造変化するアゾベンゼン(Azo)を選択しました。

これまでの研究において、α-CDはトランス-Azoと会合体を形成するのに対して、シス-Azoとは会合体を形成しないことが明らかとなっています。α-CDだけを含むゲルやAzoだけを含むゲル、さらには両者ともに含まないゲルなどの通常のゲルは水に浸漬させると、大きく膨潤するのに対して、今回、我々が作製したα-CDとAzoを含むゲル(α-CD-Azo gel)は有機溶媒中では大きく膨潤するのに対して、溶媒を水に置き換えることによって、大きく収縮しました(図1)。従来のヒドロゲルは有機溶媒中では収縮し、溶媒を水に置き換えると、大きく膨潤することから、α-CD-Azo gelは全く逆の挙動を示すことが明らかになりました。この結果から、α-CD-Azo gelの中で分子認識が機能していることが示唆されました。

次に作製したα-CD-Azo gelを平板状に成型し、紫外光(UV)を照射したところ、ゲルアクチュエータが屈曲しました(Movie S1)。続いて屈曲したゲルアクチュエータに可視光(Vis)を照射したところ、元の状態に戻りました(図2b、Movie S2)。この屈曲運動は可逆的で何回でも実施することが出来ました(Movie S3)。さらに、応答性と構造変化を大きくするために、ひも状ゲルアクチュエータを作製しました。このひも状ゲルアクチュエータに光を照射したところ、まるで生き物のようにらせん状に大きく変形し、巻き上がる様子が観察されました(Movie S4)。このようなホスト-ゲスト相互作用により可逆的な運動性をしめすゲルアクチュエータはこれまでになく、世界で初めての例となります。

 

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回、我々は刺激応答性分子とCDとのホスト-ゲスト相互作用により形態変化を示す材料を開発しましたが、これはこれまでに発表されている刺激応答性分子の化学変化や構造変化によって実現されている他の材料とは駆動原理が異なります。今回開発したゲルアクチュエータのような駆動原理で伸縮材料が発表された例は今までに無く、全く新しい概念といえます。

またヒドロゲルの伸縮性はホスト-ゲスト相互作用を組み込むことにより、変形率が大きく向上することも明らかになりました。ヒドロゲルの作製方法は比較的簡便であり、今後CDとゲスト分子の組み合わせを様々に変更することが可能です。

応用展開として、以下の内容が期待されます。
・光刺激応答性アクチュエータ(マイクロロボット(蛇状、魚状、歩行型)、マイクロマニピュレータ、能動カテーテル)
・先端医療実用化のための薬物送達材料(刺激に応じて、特定位置にて薬物の徐放が制御できる。)
・医療において、腫瘍近傍の血管を閉塞させることで腫瘍を死滅させる材料(図3)。腫瘍を死滅させた後には、血流を再開通させる。
・半自己修復性材料
・吸水性(保湿性、保水性)、化学物質の輸送、光透過性の制御

 

特記事項

本研究成果は2012年12月11日16:00(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Communications」のオンライン速報版で公開されます。

 

参考図

図1 溶媒変化によるゲルアクチュエータの体積変化。


図2
a. 光刺激応答性伸縮ゲルアクチュエータの実験模式図。
b. 平板状ゲルアクチュエータに対して、紫外光を紙面左より照射したときの屈曲挙動。
続いて可視光を照射することで初期状態に回復する(Movie S1)。
c. 平板状ゲルアクチュエータに対して、紫外光を紙面右より照射したときのゲルアクチュエータの屈曲挙動。
続いて可視光を照射することで初期状態に回復する(Movie S2)。
d. ひも状ゲルアクチュエータに対して紙面左より照射したときの巻き上げ挙動。
続いて可視光を照射することで初期状態に回復する(Movie S4)。

図3 ゲルアクチュエータをビーズとして用いた標的腫瘍の閉塞の概要図

 

参考動画

以下のURLに光刺激応答性伸縮ゲルの実験動画(Movie S1-S4)を掲載しています。

Movie S1: http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/harada/Nat.Commun_Harada_Movie_S1.wmv

Movie S2: http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/harada/Nat.Commun_Harada_Movie_S2.wmv

Movie S3: http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/harada/Nat.Commun_Harada_Movie_S3.wmv

Movie S4: http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/harada/Nat.Commun_Harada_Movie_S4.wmv

 

用語解説

※1 アクチュエータ(Actuator)
入力されたエネルギーを物理的運動や形態変化に変換するものであり、能動的に作動するものを指す。

※2 シクロデキストリン
数分子のD-グルコースが α(1→4) グルコシド結合によって結合し環状構造をとった環状オリゴ糖。CDと略されることが多い。内部の疎水的な空孔に疎水性の分子を取り込む(包接という)能力を有する。

※3 アゾベンゼン
2個のベンゼン環が -N=N- 二重結合(アゾ基)でつながった有機化合物の一種。異性体にトランス体とシス体が存在し、特異的な光の波長に応じて、この二つの状態を制御することができる。

※4 ヒドロゲル
分散媒が水であり、分散質のネットワークにより高い粘性を持ち流動性を失い、系全体としては固体状になったもの。

※5 協同効果
一つのユニットの構造変化が他のユニットに影響を与え、最終的に系全体のユニットが同じ構造変化をもたらすこと。

※6 ホスト-ゲスト相互作用
特定の分子を選択的に認識できる高い秩序を持った空間を提供する分子をホストといい、そこに受け入れられる分子をゲストという。このホスト分子とゲスト分子は「鍵と鍵穴」の関係のように、高い選択性をもって特定の構造体を形成する。この「鍵と鍵穴」の関係にある二つの分子が構造体を形成するときに働く弱い相互作用を指す。

※7 高分子ゲル
高分子が架橋されることで三次元的な網目構造を形成し、その内部に溶媒を吸収した高分子材料を指す。高分子ゲルは、固体と液体の中間的な物性を示すことが多い。

 

参考URL

http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/harada/

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