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α-シヌクレインの集積はSNARE複合体の機能異常が関係―パーキンソン病など神経変性疾患の病因解明に新たな一歩―

2012年11月29日(木)

概要

大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学講座(神経内科学)の望月秀樹教授らは、神経終末部において、神経伝達物質の放出に必要とされるSNARE複合体※1の機能異常によって、α-シヌクレイン※2の集積が生じることを見出しました。本研究は、北里大学医学部の水野美邦客員教授(神経再生医療学講座)、高橋正身教授(生化学講座)および阪上洋行教授(解剖学講座)らと共同で行われました。さらに、本所見の発現は神経細胞の種類によって違いがあることを見つけました。α-シヌクレインの凝集は、パーキンソン病(PD)※3、レビー小体型認知症(DLB)および多系統萎縮症(MSA)※4などの α-シヌクレイノパチーの原因とされていますが、そのメカニズムについては十分に解明されていません。今回の発見は、α-シヌクレイノパチーの病態発現メカニズムの解明に向けた新たな一歩であり、有効な治療薬や治療法を今後考える上で大変重要な知見と考えます。

本研究成果は、米国神経科学学会誌(Journal of Neuroscience)に11月28日に掲載される予定です。

 

研究の背景

α-シヌクレイノパチーは、DLB、MSAおよびPDなどを含む神経変性疾患※5の総称です。その病理学的な特徴は、α-シヌクレインを含む蛋白質の凝集物が神経細胞内に集積・蓄積することとされています。しかしながら、その発現メカニズムについては、α-シヌクレインの発現に関与する遺伝子の異常に伴う発現量増加や特性変化などが考えられていますが、未だに十分に解明されていません。

近年、DLB患者の剖検脳を用いた検討において、α-シヌクレインにより形成された凝集体の90%以上が神経終末部に存在することが報告されています。神経終末部では、SNAP-25、VAMP-2、Syntaxinなどの分子から構成されるSNARE複合体によって、神経伝達物質を含む小胞とシナプス前膜との融合が起こり、神経伝達物質が放出されます。また、最近では、α-シヌクレインがSNARE複合体の制御に関与することを示唆する知見が報告されています。そこで、我々の研究グループは、SNAP-25に異常を有するマウス(変異マウス)の線条体を用いて、SNARE複合体の機能異常が α-シヌクレインの存在様式に影響を及ぼす可能性について検討しました。

その結果、SNAP-25の異常によってSNARE複合体の機能が障害されたマウスでは、大脳皮質から線条体に投射するグルタミン酸作動性の神経終末部において、α-シヌクレインの集積が起こることを発見しました。しかしながら、本所見はPDで障害を受ける黒質から線条体に投射するドーパミン作動性の神経終末部には認められませんでした。

これらのことから、SNARE複合体の機能障害が α-シヌクレインの集積・凝集に関与すること、ならびに本所見の発現は神経細胞の種類によって異なることがわかりました。

 

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

α-シヌクレイノパチーの病理学的な特徴はα-シヌクレインの集積・凝集形成であることから、これまでその原因を解明するために α-シヌクレインの発現量あるいは特性の変化に焦点を当てた研究が数多く実施されてきました。しかしながら、正常の内在性 α-シヌクレインの集積・凝集を引き起こす因子に関する報告は限られています。今回の発見は、そのメカニズムにSNARE複合体の機能異常が関与することを示唆する新たな知見です。

興味深いことに、本所見の発現の有無は神経細胞の種類によって異なっており、パーキンソン病で障害を受ける黒質由来のドーパミン作動性の神経終末部ではみられず、大脳皮質から投射したグルタミン酸作動性の神経終末部で観察されました。このことは、同じように α-シヌクレインの集積・凝集が原因と考えられる疾患においても、各々で病態発現メカニズムに違いがある可能性を示唆しています。

MSAはα -シヌクレイノパチーの中でも最も原因解明が進んでいない疾患です。本疾患の特徴はグリア細胞における α-シヌクレインの蓄積であり、何らかのメカニズムによってその凝集物が神経細胞に伝搬することで発症すると考えられています。MSA患者の剖検脳では大脳皮質の神経細胞で α-シヌクレインの蓄積が報告されており、今回の我々の発見は大脳皮質由来の神経細胞の終末部で観察された知見でした。このことから、前述のグリア細胞を介したメカニズムとは異なりますが、MSAで報告されている大脳皮質の神経細胞での α-シヌクレインの集積にSNARE複合体の機能異常による神経終末部での α-シヌクレインの集積の増悪が関与している可能性があると考えています。今後、MSAの病態メカニズムの解明を目指し、この点に関する研究を進め検証していきたいと考えています。

以上、今回の我々の発見は、α-シヌクレイノパチーの病態メカニズムの解明に向けて新たな知見を与えるものであり、その有効な治療薬・治療法を今後考える上で重要な知見と考えます。

 

用語解説

※1 SNARE複合体
前シナプスからの神経伝達物質の放出に中心的な役割を担うVAMP-2、SNAP-25及びSyntaxin とよばれるSNARE蛋白質から構成される蛋白質複合体。神経伝達物質を含むシナプス小胞膜上のVAMPとシナプス前膜に存在するSNAP-25及びSyntaxinがSNARE複合体を形成し、小胞とシナプス前膜との融合が生じることにより、神経伝達物質が放出される。

※2 α−シヌクレイン
神経細胞に局在しシナプスの可塑性や神経伝達物質の調整などを行っている蛋白で、その異常蓄積によりパーキンソン病(PD)、多系統萎縮症(MSA)、レビー小体型認知症(DLB)が発症する。

※3 パーキンソン病 Parkinson's disease (PD)
振戦、固縮、無動、姿勢反射障害を主症状とする神経変性疾患。黒質神経細胞にα-シヌクレインが蓄積する。

※4 多系統萎縮症 Multiple system atrophy(MSA)
パーキンソン病様症状、小脳症状、自律神経症状を呈する神経変性疾患。α-シヌクレインが線条体グリア細胞や大脳皮質神経細胞に蓄積する。

※5 神経変性疾患
脳あるいは脊髄にある神経細胞のうち、例えば、運動、認知機能にかかわる神経細胞といったように、特定の神経細胞が徐々に障害を受けて死んでいく病気。

 

参考URL

http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/neurol/myweb6/Top.html

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