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放射線を用いた高効率有機太陽電池の形成に成功−ナノワイヤーによる新しい再生可能エネルギーシステムの創成−

2012年8月24日(金)

<リリース概要>

大阪大学大学院工学研究科の関 修平教授・佐伯昭紀助教らの研究グループは、日本原子力研究開発機構・東北大学・東京大学と共同で、たった一つの加速された原子(イオン)の引き起こす化学反応を利用して、有機薄膜太陽電池の材料として欠かせないサッカーボール状分子であるフラーレンをひも状につなぎ合わせ、1億分の1メートルの太さのワイヤー※1の形成に世界で初めて成功しました。このサッカーボール分子でできた“ひも”は、効率的に電子を流す電線の芯として有機薄膜太陽電池※2に応用され、その変換効率を向上できることを見出しました。

本研究成果は、2012年8月24日(英国時間)に英国Nature Publishing GroupのScientific Reportsのオンライン速報版で公開されます。

分子デバイス※3の実現や既存の電子デバイスの高性能化に向けて、カーボンナノチューブや金属ナノワイヤーといった電気を流すナノ構造体の研究が世界中で盛んに行われています。

フラーレンは60個の炭素原子から成るサッカーボール状の分子で(図1a)、有機薄膜太陽電池の電子輸送材料や、紫外光をカットする化粧品、プラスチック材料の強度を高める添加剤として利用されています。しかし、これまでこの球状の分子を効率的に重合して任意の大きさの1次元ナノ構造体を形成することはできませんでした。 今回、高エネルギーイオンビーム※4という放射線の一種をフラーレン膜に照射し、一つ一つのイオンが通過した航跡にそって局所的に重合反応を引き起こし、フラーレンナノワイヤーを汎用的に形成する技術を開発しました(図1b)。いわば究極のこのナノワイヤーの形状と電気特性を利用して有機薄膜太陽電池に応用したところ、ナノワイヤーなしのデバイスに比べて変換効率を向上できることを見出しました。ナノワイヤー内のフラーレン分子は化学的に結合しているため、長期的な熱安定性の向上も期待できます。有機薄膜太陽電池だけに限らず、1次元的な電子輸送素子として将来の分子デバイスへの応用も考えられます。

 

<研究の背景>

“電気を流すプラスチック”として注目を集めている有機半導体をナノ構造化することで、電気的あるいは光学的な機能を向上させる試みが世界中の研究者によって行われています。例えば、テンプレート法やリソグラフィを用いて共役高分子のナノロッドやナノラインを作成することによる発光性能の向上や、有機薄膜太陽電池の中でフラーレンをナノ構造化してドナー材料との接触界面を増やすことでデバイス性能の向上といったものが挙げられます。これらは、いわゆる、電子線や光を集光させてナノ構造を作成するトップダウン方式と、分子が自然に凝集してナノ構造体を形成するボトムアップ方式に分類されます。

α線・β線・γ線といった放射線※5が材料を通過する際、非常に高いエネルギーを付与します。特に、加速器で高速に加速した大きな原子番号のイオンでは、非常に小さい空間領域で高密度にエネルギーが与えられ、架橋や分解※6といった化学反応を引き起こします。これまでの我々の研究で、合成高分子や生体高分子・糖分子といった、ほとんどありとあらゆる高分子フィルムに高エネルギーイオンビームを照射し、未照射部を溶媒で洗い流す処理をすることで、1次元上のナノワイヤー・ナノゲルが形成できることを報告しています(参考文献1)。α線に非常に良く似ていますが、人工的に作られるイオンビームを利用したこの方法では、一つの粒子に沿ってナノワイヤーが形成されるため、トップダウン方式のようにビームを収束させる必要がなく、かつ、ボトムアップ方式のように分子に特別な“仕掛け”を施す必要がないという、両者の利点を有しています。単一粒子ナノ加工法と呼ぶこの方法は、いわば“一つの原子でおこなうものつくり”法です。光や粒子を集めて細いビームを形成する方法は産業界でも頻繁に用いられていますが、この方法は、いわば“究極に細いビーム”による加工法ともいえます。

 

<本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)>

今回開発した手法を用いると、どんな種類のフラーレンでもナノワイヤーが形成できます。有機薄膜太陽電池で高い変換効率を示すフラーレンは、現在のところPCBM,ICBA,SIMEFといった数種類に限定されています。その理由の一つに、他のフラーレンでは適切な相分離構造を形成するのが難しいということが挙げられます。

しかし、今回の方法ではどんなフラーレンでもナノ構造化できるため、これまで利用できなかったフラーレンやその他の電子輸送性分子も、効率的な有機薄膜太陽電池に応用できる可能性があります。また、高エネルギーイオンビームを照射する膜を2層膜、3層膜にすれば、異種材料が接合したナノワイヤーを簡単に作成することができるので、分子デバイスやナノ構造体太陽電池素子の作製もできると期待されます。

 

<特記事項>

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

研究者 関 修平(大阪大学 大学院工学研究科 教授)
独立行政法人日本学術振興会 先端研究助成基金助成金(最先端・次世代研究開発支援プログラム)
研究課題名 「全有機分子サイリスタ・ソレノイドのデザインと実証」
研究期間 平成23年~平成26年
文部科学省 量子ビーム基盤技術開発プログラム
研究課題名 「多様なイオンによる高精度自在な照射技術の開発」
研究期間 平成21年~平成25年

研究者 佐伯 昭紀(大阪大学 大学院工学研究科 助教)
独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)
研究領域 「太陽光と光電変換機能」(研究総括:早瀬 修二 九州工業大学 大学院生命体工学研究科 教授)
研究課題名 「マイクロ波法によるドナー・アクセプター系薄膜中の光誘起電荷ナノダイナミクス」
研究期間 平成21年~平成25年

 

<原論文情報>

“Fullerene nanowires as a versatile platform for organic electronics”
英国Nature Publishing Group, Scientific Reports, DOI: 10.1038/srep00600

 

<参考論文>

(1) “Formation of Nanowires along Ion Trajectories in Si Backbone Polymers” 2001年11月16日に独国科学雑誌「Advanced Materials」に掲載

 

<参考図>

20120824_1_fig1.png

図1 フラーレンナノワイヤーの形成と観察
a)フラーレン分子と可溶性フラーレン(PCBM)の化学構造
b) フラーレンナノワイヤーの形成方法
c)左はPCBMナノワイヤーの電子顕微鏡図、右は原子間力顕微鏡図

 

<用語説明>

※1 ナノワイヤー
ナノは10-9の単位で、ナノワイヤーは10億分の1メートルから1000万分の1メートル程度の太さで、電気やエネルギーを輸送できるひも状の構造体。

※2 有機薄膜太陽電池
現在主流の無機シリコン・化合物半導体で作られている太陽電池に比べ、低コスト化・軽量化が可能なことから、現在精力的に研究開発が行われている。有機太陽電池は、色素増感型とバルクヘテロジャンクション型に大別でき、後者はホール(正の電荷)を輸送する電子ドナー型材料と電子(負の電荷)を輸送する電子アクセプター型材料の混合膜から成る構造。単純な上下2層膜(ヘテロジャンクション)に比べて、ドナーとアクセプターの界面が飛躍的に増加することで、変換効率を大幅に向上できる。

※3 分子デバイス
高度情報社会を支える電子デバイスは、金属や半導体のバルク材料で製造されている。デバイスをどんどん小さくすると、有機分子を一つの最小単位としてとらえることができ、個々の有機分子をデバイスとして動かす素子を分子デバイスと呼ぶ。

※4 高エネルギーイオンビーム
イオンとは正または負の電荷をもつ原子あるいは分子のこと。ビームとは、粒子や電磁波が一方向に進むエネルギーの流れ。今回は、オスミウムやキセノンといった比較的大きい原子のイオンを、加速器の中で500MeV程度(5億ボルト)まで高速に加速した高エネルギーのイオンビームを、フラーレンフィルムに照射している。

※5 α線・β線・γ線
放射線には粒子の種類、エネルギーによって分類された呼び方がある。α線は、ヘリウムの2価イオンが高速に並進運動するもの、β線は高速の電子線、γ線は原子核から放出される波長が1000億分の1メートルより短い電磁波のこと。他にもX線、中性子線、宇宙放射線(ニュートリノなど)がある。

※6 架橋や分解
高分子に放射線を照射すると、生じたラジカル同士の反応で高分子同士がつながりって溶媒にとけなくなる(高分子がより大きくなる)架橋反応が進行するものと、逆に高分子の主鎖が切れて、高分子がより小さくなる分解反応が進行するものがある。

 

<参考URL>

http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~cmpc-lab/

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