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光学顕微鏡と電子顕微鏡で同じ細胞を見ることに成功―この「相関顕微観察法」により神経シナプスの真の姿に一歩近づく―

2012年7月20日(金)

<リリース概要>

 光学顕微鏡は細胞の中でタンパク質分子がどこにいるのかを探るのが得意ですが、分子の形を見ることはできません。一方、電子顕微鏡やX線結晶構造解析で分子の形を詳細に見ようとすると、それが細胞の中でどこにあるのかをきちんと調べることが困難でした。大阪大学蛋白質研究所高木淳一教授のグループは、横浜市立大学と共同で、神経シナプスにおいて2つのニューロンをつなぐ役割を果たすニューレキシンとニューロリギンという2つの分子が結合した様子について、まずはX線結晶構造解析で原子レベルの構造を解明し、続いてそれが細胞同士をつないでいる場所を光学顕微鏡で特定し、その同じ場所を電子顕微鏡で捉えることに成功しました。「相関顕微観察法」というこの方法によって、これまで単純な細胞膜の隣接部位だと思われていたシナプスに、「第三の膜」とも言える平板状の構造体が存在する可能性が初めて示唆されました。

 

<研究の背景と内容>

 光学顕微鏡はマイクロメートルサイズの細胞などの物体を見るもので、大陸や地形を映像化する「衛星写真」だといえます。これに対し、電子顕微鏡はナノメートル以下のサイズの分子の形を見分けることができ、建物などを識別できる「航空写真」になぞらえることができます(図1)。「グーグル・アース」を使って、大きな衛星写真からズームインして自宅の屋根まで見えるように、細胞の蛍光顕微鏡写真をズームインして目的のタンパク質分子に焦点を当てて見ることが出来れば良いのですが、現実には不可能でした。電子顕微鏡で何万倍にも拡大した画像を得るためには、対象となる試料を薄切りして様々な物理的・化学的処理をしなければならず、その過程で位置情報が失われてしまうためです。今回蛋白質研究所の高木淳一教授、田中宏樹博士、岩崎憲治准教授らは、特殊な細胞培養基板と高圧下で細胞を瞬間凍結させる技法などを組み合わせ、特定の分子が集まっている細胞膜上の場所をめがけて電子顕微鏡の高精細イメージングを達成しました。この方法を通して初めて明らかになったのが、ニューレキシン・ニューロリギンという分子が形成する神経シナプスの接着部の構造です(図2)。

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図1

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図2

 我々の脳の神経細胞の間の複雑で高速な情報処理を可能にしているのは、数十億個も存在する神経シナプスという構造です。シナプスは2つの神経ニューロンが20ナノメートル(1cmの50万分の一)の距離まで近づいて信号をやりとりする装置ですが、これまで2つの細胞の間(シナプス間隙と呼ばれる)は特に何も存在しない空間だと考えられていました。その空間に、実は第三の膜のような平板状の構造体がサンドイッチされる形で存在することがわかったのです(図2下)。どうやら相対するニューロンから差し出されたニューレキシンとニューロリギンの2つの分子が握手し、その多数の手が横方向に整列して網目状の構造体を作っていることがわかりました(図2上)。この構造体は、両分子が結合した状態で得られたX線結晶構造解析においても観察されており、現実の脳のシナプスにおいても作られている可能性が濃厚です。

 今回見つかった「第三の膜」構造は、βタイプのニューレキシンをもつシナプスで特異的に形成され、αタイプという別のニューレキシンをもつシナプスではできません。つまり、神経シナプスという「回路のつなぎ目」にはいろいろな種類があることが示唆されました。認知や感情と言った脳の高次機能はシナプスを介した神経伝達の効率の制御バランスの上に成り立っていますが、一つ一つのシナプスの構成分子とその形態を解析できる手段を手に入れたことで、そのメカニズムの解明にまた一歩近づいたと言えます。

 

<本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)>

 今回の研究は、X線結晶構造解析(オングストローム)、電子顕微鏡(ナノメートル)、光学顕微鏡(マイクロメートル)という“分解能”の異なる技法をうまく組み合わせる「相関法」というアプローチの成功例であり、一つの手法や装置をとことん高性能化する以外にも科学上の新発見を達成する方法があることを示しました。それだけでなく、神経シナプスの姿(構造)についてこれまで人々が持っていたイメージを大きく塗り替えるものでもあります。不思議なことにニューレキシンやニューロリギンを欠損しても脳の構造に大きな変化は起きませんが、これらの分子に生じた異常が遺伝性の自閉症を引き起こすことが知られており、今回見つかった構造体は、神経ネットワーク全体の統合的な制御に関わるのではないかと予想されます。それと同時に、まだまだ謎の多い脳の機能を分子レベルでボトムアップ式に理解する大きな助けになると期待しています。

 

<特記事項>

 本成果は、米科学誌「Cell」のオープンアクセス姉妹紙である「Cell Reports」7月号で、7月19日(米東部時間12:00pm、日本時間20日0:00am)に掲載されます。

 

<参考URL>

http://www.protein.osaka-u.ac.jp/rcsfp/synthesis/index.html

 

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