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アトピー性皮膚炎など「温もると痒い」メカニズム解明―病変部で神経栄養因子アーテミンが皮膚の温感を増強させ痒みを引き起こす―

2012年7月12日(木)

<リリース概要>

 アトピー性皮膚炎など痒みを伴う皮膚炎では体が温もった時、あるいは入浴等温熱にさらされた時に痒みが出現、増強します。この「温もると痒い」現象は治療するのが難しく、そのメカニズムもよく分かっていませんでした。

 大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学講座(皮膚科学)室田浩之講師らの研究グループは皮膚病変部にサブスタンスP※1によって皮膚の真皮※2線維芽細胞※3から誘導される神経栄養因子※4の一つであるアーテミン※5が「温もると痒い」現象を引き起こす事を発見しました(図1)。アーテミンの発現は正常な皮膚では認められませんがアトピー性皮膚炎や貨幣状湿疹※6などの病変部に強く沈着しています。動物実験からアーテミンは皮膚末梢知覚神経の数を増加させるとともに、皮膚の温感を敏感にする事が分かりました。さらにアーテミンを投与したマウスは38度の温かい場所で激しい皮膚の掻破※7行動を示します。このことから皮膚におけるアーテミンの異常な蓄積が「温もると痒い」の原因であることを見いだしました。

 本研究成果は、アレルギー学の領域で権威のある米国アレルギー喘息免疫学会誌(JOURNAL OF ALLERGY AND CLINICAL IMMUNOLOGY)のオンライン版に7月6日に掲載されました。

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図1:皮膚の構造と真皮の位置(左)、およびアレルギー炎症がアーテミン発現を介して温感過敏と痒みを誘発するメカニズム(右)

 

<研究の背景>

 アトピー性皮膚炎は痒みのある湿疹を主病変とする疾患で、掻破行動がさらに皮膚を傷つけることで症状を悪化に導きます。アトピー性皮膚炎でみられる痒みの主な誘因として温熱が知られており、「温もると痒い」という訴えは日常診療でも多く聞かれますが、そのメカニズムは明らかにされていませんでした。また温度と痒みの関係において、痒い場所に痛いくらい熱い、あるいは痛いほど冷たい刺激を加えると痒みが止まる事があります。実際に炎症を伴わない皮膚に生じた痒みは熱・冷刺激で軽減されますが、アトピー性皮膚炎の痒みは熱刺激でむしろ増強されることが報告されています。アトピー性皮膚炎で皮膚の知覚神経が温感を痒みに感じる原因を調べるにあたり、アレルギー炎症が生じる際に神経を温度過敏に導く因子が存在するのではないかと考えました。

 通常、皮膚末梢知覚神経は皮膚の真皮に存在しており、真皮内に豊富に存在する線維芽細胞から影響を受けると想像されます。そこで、アレルギー炎症やストレスに関係する神経ペプチド※8、サブスタンスPで線維芽細胞を刺激した際に誘導されるアーテミンに着目し、アーテミンが皮膚の温感過敏と温感による痒みを誘発することを見いだしました。

 

<本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)>

 温もると痒いという現象は皮膚病変を患った多くの方を困らせている症状の一つです。痒みは生活の質のみならず、睡眠や労働・勉学・日常活動の能率にも支障を来します。原因の解明につながる本研究成果は今後、診断と治療の大きな礎になると期待されます。また皮膚に病変はないのに温もると痒い事もあります。アーテミンの発現を誘導するサブスタンスPはストレス環境下によっても産生されることから、本研究では明らかにできていない様々な場面での温もると痒い現象の機序解明に繋がるものと考えています。

 

<用語解説>

※1 サブスタンスP
 アレルギー炎症やストレスなどで神経の末端から放出される神経ペプチド※8

※2 真皮
 皮膚の表面を覆う表皮の下部に存在する構造で、皮膚の張力や弾力といった力学的強さを発揮するのに必要な構造。

※3 線維芽細胞
 皮膚では張力や弾力に関わる膠原線維や弾性線維を作る他、組織修復、免疫応答にも関与する細胞。

※4 神経栄養因子
 神経線維の生存、発達、機能に関わる因子。

※5 アーテミン
グリア細胞※9株由来神経栄養因子※4ファミリーの一つ。

※6 貨幣状湿疹
 皮疹の形(形態)上、類円系(貨幣状)となる湿疹。

※7 掻破
 皮膚を掻く動作。

※8 神経ペプチド
 神経が互いに情報交換を行うのに使われる物質。

※9 グリア細胞
 神経系に神経細胞と共存し、神経細胞の機能をサポートする細胞。

 

<参考URL>

http://derma.med.osaka-u.ac.jp/

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