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哺乳類初期発生における「エピジェネティック制御」の謎を解明! ―たった1つの受精卵から細胞が分化する神秘の解明に大きな貢献―

2012年6月4日(月)

<リリース概要>

 大阪大学大学院生命機能研究科の中村肇伸助教(現:長浜バイオ大学講師)と仲野徹教授らの研究チームは、DNAメチル化制御の分子機構の解明に成功しました。これは、哺乳類の初期発生における長年の謎とされており、今回の研究成果は多細胞体の発生・分化のみならず、細胞分化におけるリプログラミングといった分野に大きなインパクトを与えると期待されます。この研究成果は英国科学誌Natureの電子版で平成24年6月3日18時(ロンドン時間)に公開されます。

 

<研究の背景>

 「エピジェネティック制御」が近年おおきな脚光を浴びています。エピジェネティック制御というのは、遺伝子の塩基配列(ACGTの順序)によらない遺伝子発現の制御であり、 ACGTのうちC(シトシン)の修飾と、DNAがまきついているタンパクであるヒストンの修飾によって規定されます。また、多細胞体の発生・分化のみならず、癌や生活習慣病の発症にもエピジェネティック制御が深くかかわっていることがわかってきています。

 我々の体を構成している200種類にもおよぶ細胞は、卵子と精子が融合してできるたった一個の受精卵から発生してきます。その過程は、受精後すぐにエピジェネティック状態がゼロにリセットされ、発生・分化が進行するにつれ、200種類もある細胞それぞれに固有な修飾が確立されていく過程でもあります。言い換えると、発生というのは、「エピジェネティック状態」が確立していく過程ととらえることができるのです。そして、そのはじまり、受精卵におけるリセットは、「リプログラミング」とよばれ、一個の受精卵から、いろいろな細胞が発生してくるために必須のプロセスです。しかし、その分子機構はよくわかっていませんでした。

 

<本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)>

 我々の研究室では、自らがクローニングした遺伝子であるPGC7/Stellaの解析を続けるうちに、PGC7/Stellaタンパクが、受精卵におけるリプログラミングにおいて極めて重要な機能をはたしていることを見いだしました。また、その機能は、次のページにありますように、エピジェネティック制御の根幹をなすヒストン修飾とDNA修飾という、二つの種類の修飾をとりもつことによって発揮されること、さらに、その現象は、PGC7/Stellaが特定のヒストン修飾に結合し、Tetと呼ばれるタンパクが機能しないようにすることによりもたらされることを明らかにしました。

 この成果は完全な基礎研究の段階ではありますが、哺乳類の初期発生の謎にせまる研究に与える影響のみでなく、遺伝子のリプログラミング研究機構の解明においても非常に重要な位置を占めるものです。また、多細胞体の発生・分化のみならず、細胞分化におけるリプログラミングといった分野においても、極めてインパクトの大きなものです。

 

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 受精直後の初期胚では、父親由来のゲノムと母親由来のゲノムが異なった修飾をうけます。図にあるように、父親由来のゲノムにおけるDNAのメチル化がTet3という酵素によってヒドロキシメチル化へと変換されるのに対して、母親由来のゲノムにおけるDNAのメチル化は変換をうけません。この現象は、エピジェネティック不均等性とよばれ、初期発生において重要な役割を有していると考えられています。しかし、その分子機構は全く不明でした。

 我々は、PGC7/Stellaが、H3K9me2(ヒストンH3の9番目のリジンのジメチル化)を介してクロマチン※1に結合し、Tet3が機能しなくなるようにすることにより、この現象をもたらすことを明らかにしました。この発見は、初期発生のエピジェネティック制御において極めて重要なものであり、細胞のリプログラミングという現象の理解に大きな貢献をもたらすものです。

 

<用語解説>

※1 クロマチン
 細胞における遺伝子DNAとタンパクの複合体のこと。実際には、DNAがヒストンと呼ばれるタンパクに結合している。また、ヒストンタンパクには、H1からH4まであって、それらが八量体を形成し、そのまわりをDNAがまきついている。遺伝子発現制御には、DNAのメチル化(=ACGTのうちのC、シトシンのメチル化)と、ヒストンタンパクのいろいろな修飾が重要であり、両者によってクロマチンのエピジェネティックな状態が規定されている。

 

<参考URL>

http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/nakano/

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