前 詞

東天紅を染むる金剛の峯にこれを嘯かば
    天下の惰眠一時に破れ、
夕陽沈む茅渟(ちぬ)の海にこれを叫ばゝ
    魑魅魍魎も影を潜めん。
  1. 嗚呼(ああ)黎明(れいめい)は近づけり
    嗚呼黎明は近づけり
    起てよ我が友自由の子
    帝陵(ていりょう)山下(さんが)の熱血児
    侃諤(かんがく)の弁地をはらひ
    哲人の声消えんとす

  2. 嗚呼暁鐘(ぎょうしょう)は鳴り響く
    嗚呼暁鐘は鳴り響く
    三州の野に殷々(いんいん)
    強き響きを伝えつゝ
    旧殿堂の奥深く
    眠れる魂(たま)を醒ますべく

  3. 城南高し三層楼
    籠もれる理想を誰か知る
    美酒玉杯に耽りたる
    偸安(とうあん)の世を低く見て
    文を学び武をば練る
    五百の健児君見ずや

  4. 橄欖(かんらん)咲いて海青き
    アテネの街の春の色
    七丘(ひちきゅう)の森秋更けて
    ローマの古都に月高し
    歴史はふれどオリオンの
    三つ星いまだ光あり

  5. それ青春の三春秋
    (かたみ)に友と呼び交わし
    君が愁いに我は泣き
    我が喜びに君は舞う
    若き我らが頬に湧く
    その紅の血の響き

  6. 紫匂ふローレルの
    葉蔭に宿りし美鳥(うまどり)
    一度(ひとたび)目覚めて羽搏(はばた)かば
    彼の大空(たいくう)に雄姿あり
    友よ溢るゝ若き日の
    希望の果てをいざや見ん

     ハイザ大高 ハイザ大高
      レーベ ホッホ

        序
 青年の元気は一国の元気なり。青年の意気の振、不振は直接その国運の消長に関係す。青年にして修養を怠り、不健全なる思想に捉はれんか、いかでか国運の発展を図り得ん。欧米各国に於いても、ここに見る所ありて、青年運動の発達を図るに孜々たりと聞く。実に青年の運動は刻下の一大急務に属すると謂ふべし。
 然り而して我が高等学校に寄宿寮の設置せられたる亦実にこれが為ならずんばあらず。即ち切磋琢磨以て知能を啓き共同の自治以て質実剛健なる国民精神を涵養扶植せしめんが為なり。
 それ質実剛健の美風は我が民族の建国以来滔々三千年保持し来り且つ永遠に変わることなき精華なり。而して我等が世界に対してその使命を全くするも、やがてこれが発揚に外ならざるなり。
 わが寮生たるもの、その任務の重且つ大なるを思うとき、誰か意気更に揚りて天に冲するを覚えざるものあらんや。
 それ寮歌は実にこの意気の発露なり顕現なり。只徒に怒号乱舞の具にあらざるなり。
 東天紅を染むる金剛の峯にこれを嘯かば天下の惰眠一時に破れ、夕陽沈む茅渟(ちぬ)の海にこれを叫ばゝ魑魅魍魎も影を潜めん。
 寮歌集成るに際し、一言述べて序となす。

  大正十五年三月
          大阪高等学校生徒監官舎にて
                    佐々木喜市

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